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後日譚148.事なかれ主義者はやる気がない

 ラオさんたちの故郷に行って転移陣を設置してから一週間くらい過ぎた。

 ここ数日、ラオさんとルウさんは子どもたちを連れてちょくちょく故郷へ帰っている。帰っている、というよりは散歩をしに行っているの方が近いかもしれない。向こうで怪しまれない程度に顔を出しておいた方が良いんじゃないか、という事らしい。

 僕はというと、子どもたちのお世話の合間に『天気祈願』をする日々だ。魔力が余った日は、寝る前にファマリー周辺の『天気祈願』をして魔力切れを起こして強制的に眠っている。

 ただ、魔道具『安眠カバー』のおかげで今日も今日とてすっきりとした気分で朝を迎える事ができた。


「シズトくん、おはようございますぅ」

「おはよう、ジューンさん」


 ベッドの端っこに腰かけていたジューンさんに挨拶を返すと、彼女は「よいっしょっとぉ」と間延びした掛け声とともに立ち上がった。


「それではぁ、寝癖を直しますねぇ」

「うん、お願い」


 ベッドの上を四つん這いで移動し、先程までジューンさんがいた所に腰かけると、正面に立った彼女は僕の頭にそっと手を置いた。手のひらの温もりとはまた別の何かを感じつつも大人しくしていると「できましたぁ」とジューンさんの手が離れていった。


「いつもありがとね」

「どういたしましてぇ。それではぁ、セシリアちゃんとぉ、ディアーヌちゃんの様子を見てきますねぇ」

「僕も着替えたら行くね」


 この一週間で変わった事を挙げるとしたら、まずはディアーヌさんが妊娠した事だろう。

 セシリアさんと同様、しばらくの間は侍女としてランチェッタさんの身の回りの世話を継続するつもりのようなので、ランチェッタさんに規則正しい生活をお願いしておいた。

 きっと大丈夫と思いたいけれど、あのランチェッタさんだしちょっと心配だ、という事でちょくちょく様子を見に行くようにしている。きっとジューンさんもそうなんだろう。

 ジューンさんが部屋から出て言ってから着替えを済ませる。今日はエンジェリア帝国から遥々オクタビアさんがやってくる事になっていたので、出迎えるために正装である真っ白な布地に金色の刺繍が施された服に袖を通した。


「ディアーヌさんはこの時間は……ランチェッタさんの部屋か」


 朝ご飯にはまだ少し早い。朝風呂に入りたい気分の時もあるので、起きる時間から意図的に少し開けてもらっている。その間、お嫁さんたちはそれぞれ好きな事をしているんだけど、ディアーヌさんはランチェッタさんの部屋で彼女の見守りをしている所だろう。

 ジューンさんも西側の扉から出て行ったし、推測は間違っていないはずだ。

 ジューンさんの後を追うように部屋から出て正面の部屋はスルーしてその右隣の部屋へ向かう。新しく増築されたその部屋はランチェッタさんの自室となっているが、寝る時以外はディアーヌさんもこの部屋にいる事が殆どだ。

 扉をノックするとメイド服を着た褐色肌の女性――ディアーヌさんが部屋の中から姿を現した。

 まだ妊娠したばかりという事で体に変化は現れていないが、普段通り過ぎて逆に心配になる。産婆さんはストレスを溜めない事が重要だと仰ってたし好きなようにさせているけど、ぶっちゃけ妊娠中はのんびり過ごしてほしいと毎回思ってしまうのはしょうがない。

 魔法のお薬があるし、神様のご加護も実際にあるけど、医療が発達していないから何が起こるか分からない。死んだ人を生き返らせる方法なんてないし、何事もないのが一番だと思う。


「おはよう、ディアーヌさん。体調大丈夫?」

「おはようございます。全然問題ありませんよ。むしろ、ランチェッタ様が私を気遣って早く寝てくださるおかげでゆっくり休む事ができています。産んだ後もまたすぐに妊娠してもいいかもしれません」

「……侍女の考える事ってみんな一緒なの?」

「多分手がかかるけど侍女思いの主に仕えている人限定だと思います」


 ディアーヌさんに招かれて入った部屋には仕事をするための大きな机と、大きなベッドがあるだけで他にはまだ何もなかった。これからいろいろ増やすかもしれない、との事だったけど仕事人間のランチェッタさんが仕事以外の物を部屋に置くところが想像できない、というのがディアーヌさんの意見だ。


「あら、おはようシズト」

「おはよう、ランチェッタさん。体調はどう?」

「出産してからもう二ヵ月は過ぎたし、毎日飲まされている回復薬のおかげで元気が有り余ってるわよ」


 呆れた顔でそういったのは、ディアーヌさんと髪と瞳の色がそっくりなランチェッタさんだ。小柄で天然物の驚異的な胸囲の持ち主だからパッと見て間違える事はないけど、ディアーヌさんを侍女にしているのは歳が近くて同性であること以外に何かしら理由があるらしい。

 似てないけど影武者とかそんな感じなんだろうか? なんて事を考えた事もあったけど、最近は意味がなくなったそうなので知らなくても別にいいや。


「僕たちの世界だとまだまだ元通り、ってわけじゃないんだけど……魔法がある世界だから何でもありなのかなぁ」


 国のトップは替えがきかない存在だし、ある程度は仕方がないんだろうけど……などと考えていると「シズト様が代わりに王様になってくだされば問題は解決するのでは?」とディアーヌさんが悪戯っぽ笑みを浮かべながら言った。


「わたくしは好きだからしているけど、シズトがどうしてもって言うのなら少しの間変わってもいいわよ?」

「丁重にお断りさせていただきます」


 ディアーヌさんもランチェッタさんもいつも通りっぽいし、さっさと退散して日課のお祈りでもしよう。

 そんな事を考えながら部屋を退散しようとすると、ディアーヌさんが既に扉を開いてくれていた。口元を綻ばせている二人に見送られながら、僕は部屋を後にするのだった。

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