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後日譚146.元訳アリ冒険者は話をした

 ラオはルウと共に、シズトと子どもたちを連れて故郷であるウェスターという町に帰ってきた。

 十年ぶりに会う両親はだいぶ老けていて、時の流れを感じていたのだが、それは両親もまたそうだろう。

 ルウは父親と共に台所に立っている。時折話し声が届くのは、今暮らしている屋敷と比べて実家が狭く小さいからだけではないだろう。


「えーっと……」


 肩身が狭そうに用意された椅子に座っているのはラオの旦那であるシズトだ。

 黒い髪に黒い瞳は小さな町ではよく目立つ。道すがらじろじろと視線を向けられていたのは女の子を背負っているからだろう、と勘違いしている様だったがラオは特に指摘をしなかった。

 そんなシズトは正面に座っているラオの母親を見ては部屋を見て、ラオを見ては天井を見て、と落ち着きがなかった。だが、ふと何かに気付いた様子で「あ」と声を上げた。

 当然、目の前で魔道具で淹れた紅茶を静かに飲んでいたラオの母親――シアが鋭い目つきでシズトを見た。


「……えっと、なんて呼べばいいのかな? お義母様? シアさん?」

「アタシに聞かなくても目の前の本人に聞けばいーだろ」

「別にアタシは何と呼ばれても気にしないよ。アンタの好きなように呼びな」


 好きにしろ、と言われると悩むものだ。

 シズトが考え込んでいる隙に、シアはラオに視線を移した。


「にしても、勇者様……じゃなくて、異世界転移者だっけ? そんなすごい人と結婚するなんてねぇ」

「アタシもびっくりだわ」

「町の奴らが大騒ぎしそうだね。面倒臭い」

「もう手遅れじゃねぇかな」


 魔力探知を使わずとも、窓の向こう側からひょこっと顔を出して中を覗き込んでいる子どもたちが様子を見ている。見覚えがない事を考えるとラオたちが町を出てから生まれた子たちだろう。家の手伝いをサボって来たとは考え辛い。恐らく大人たちが放った斥候みたいなものだと思われる。

 シアもそれには気づいているようで、席を立つとスタスタと窓辺に近づいて行く。それに気づいた子どもたちは蜘蛛の子を散らすように逃げていくが、シアは気にせずにカーテンを閉めた。


「それより、こっちの事情はさっき簡単に説明したけどよ。町長にも明かした方が良いと思うか?」

「どうだろうねぇ。グレンの小僧は割と口が軽いから……」

「あいつが町長になってんのか!?」

「そりゃなるだろうよ。アンタたちが出てってからもう十年経ってんだ。新しい子が生まれれば、古い者たちが死ぬのは当然の事さ」

「…………死んだのか」

「そりゃ爺さんになったら死ぬだろ」


 立ち上がったついでにラオの近くにいき、彼女が抱いていた蘭加を覗き込むシア。

 蘭加は知らない所だからか、それとも人見知りが始まっているのかぴったりとラオにくっついている。


「黒髪黒目か。時々ここで遊ぶのは好きにすればいいだろうけど、注目は集めるだろうね。得をする事の方が多いだろうけど、厄介事にも巻き込まれるよ。それでもいいのかい?」

「それは仕方ねぇだろ。安全な場所で大切に育てるっていう育て方もあるだろうけど、アタシらはそういう風に育ってねぇからな。なんかあった時に助けられればそれでいい」

「……旦那様はそんな風には思ってないみたいだけどねぇ」

「こいつは心配性なんだよ」

「ラオさんが放任主義過ぎるんじゃないかな……」


 話に加わるタイミングを窺っていたシズトは、やっと二人の会話に入れたのに心配そうな表情をしている。だが、ラオはシズトの苦言を気にした様子もなく魔道具『魔力マシマシ飴』を取り出すと舐め始めるのだった。




 昼食の準備をしていたルウと彼女の父親であるロイがラオたちがいる部屋に戻ってきたのはしばらく経ってからの事だった。

 背丈が二メートルほどある人物が三人もいると流石に部屋が小さく感じるな、なんて事をラオは思ったが、十年前も身長はこのくらいあった事を考えるとそうではないな、と考え直してシズトとシズトの近くに椅子を持ってきて大人しく寝ているクーを見た。

 シズトはロイに質問攻めされていた。あまり話す方ではないシアとは異なり、ロイは明るく、お喋りである。そのため、シズトは先程までは話題を探して困っている様子だったが、今は常にお喋りが止まらないロイの話し相手にならなくちゃいけない事に困っている様子だった。


「ちょっとアンタ、そんな根掘り葉掘り聞いてたら向こうが聞きたい事を聞けないだろ」

「ん? ああ、それもそうか。ごめんよ、シズトくん」

「いえ、娘さんたちの様子を知りたいのは当然の事だと思いますから……」


 苦笑を浮かべながらそう答えたシズトは、ロイに気に入られたようだ。今度また詳しく娘二人について語り合おう、という約束が交わされていた。


「それで、三人が聞きたい事は何かな?」


 机の上に並べられていた豪華な料理は、既にほとんどなくなっている。残っているのはシズトの分だ。

 自分たち基準でルウとロイが作ったため、普段食べている量よりも多いから少し貰ってやるべきか、とラオが考えている間に父親譲りのお喋りであるルウが口を開いた。


「町の子たちと遊ばせるために、たまにこっちに来て過ごしたいの」

「僕たちは嬉しいけど、今住んでいるのは不毛の大地にある町なんだろう? 冒険者として外を回っていた頃に通った事はあるけど、随分と遠くないかい?」

「そうね。ここに来るまでに二日くらいかかったっていってたし」

「二日でも随分早いと思うけど……飛竜便が来たわけじゃ、ないよね?」

「そうね。そこら辺はシズトくんのおかげで短縮できたんだけど、また後で話すわ。それよりも今は、ある場所からある場所へと一瞬で移動できる魔道具をこの家に設置してもいいか聞きたいわ」

「転移系の魔道具かい? そんな便利な物良く手に入れたね」

「それもシズトくんのおかげだけど、話すと脱線するから時間のある時に話すわ」

「……さっき台所で何を話してたんだよ」


 シアにはシズトが加護をいくつか授かっていた事や、魔道具でいろいろ作っていた事も軽く伝えていたラオだったが、ルウはロイに全く何も伝えていないようだった。お喋りな二人にすべてを委ねていたのが間違いだったと思ったラオだったが、ルウの言う通り話が長くなってしまうため特に指摘せずに話の流れを見守るのだった。

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まさかの、旦那の惚けを長々と!?
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