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後日譚137.事なかれ主義者は現実逃避した

 ジュリウスを引き連れて転移した先は船の上だった。魔動船には脱出口として転移陣を設置していたけど、緊急連絡用としても使ってもいいよと伝えていたからこれで来たのだろう。

 船の上では仮面をつけたエルフたちが跪いていて、その様子を遠巻きに船員たちが見ていた。どうやら船員とエルフたちの間には大なり小なり溝があるらしい。

 海上で集団生活をするのにそれでいいのか、と思うけれどこればかりは僕がとやかく言う事ではないだろう。

 エルフたちに出迎えに対するねぎらいの言葉をかけて、そのまま船を降りた。

 降りた先でも跪いた人たちが僕たちを出迎えてくれた。


「お久しぶりです。マルセル様。急な訪問で申し訳ありません」

「とんでもございません。シズト様にお越しいただけるとは光栄の極みです」


 頭を深々と下げて出迎えてくれた人の中にいた身なりの言い中年男性に話しかけると、彼はさらに頭を深く下げた。

 彼の名前は確かマルセル・ド・ビヤール様だ。確か侯爵の位を授かっていて、サンレーヌ国の西岸を統治している貴族の内の一人だったはずだ。


「シズト様は美食家とお聞きしております。最高級の茶葉と茶菓子を用意しておりますので、どうぞ、屋敷の方へお越しください」


 美食家ではないんだけど、ちょくちょく会談の時に出されたお菓子を食べていたからそう思われてしまったのかもしれない。

 ただまあ、会談するための場所へ案内してくれるみたいだし大人しく着いて行けばいいかな。潮風に当たってちょっと元気がなくなっているレモンちゃんも気になるし。

 こうなるって分かってたから置いて行こうと思ったんだけど髪の毛が巻きつくから仕方がないよね。


「お足元にご注意ください」

「ありがとうございます」


 用意されていた馬車に乗り込んで、屋敷へと移動する間に窓から見える景色を何となく眺めていると、マルセルさんが町の説明をし始めてくれた。


「コルマールは元々、国内で交易をする際に使われる中継地点の一つでした。なのでそこまで大きな町ではなかったのですが、ガレオールからの交易船が定期的にやってくる事になってからは再開発を進めているのが現状です」


 あー、だからめちゃくちゃ馬車の揺れが酷いのか。酔いそう。

 酔わないように遠くに視線を向けようとすると、古い町並みが広がっていて、遠くでは真新しい建物建設が進められている。

 今後はシグニール大陸から運ばれてくる品物を求めて多くの商人や王侯貴族がやってくる事になるのだろう。それの対応をするための設備がこの町にはないから新しく作っている、といった所かな。ファマリアもそうだったから何となくそこら辺は言われなくてもわかる。


「先んじて迎賓館は建てましたが、本日はご宿泊されますか?」

「いや、帰ります」

「……左様でございますか」


 何やら言いたそうな雰囲気だったけれど、何を言われても帰るよ、僕は。

 面倒事には関わりたくないという気持ちもあるけど、なにより日々成長している子どもたちの様子が気になるからね。


「各ギルドも続々とやってきている所なので、今後は冒険者も増えると思います。今はまだ不足している者が多いかと思いますが、要望に合わせて今後も新設していきます。何卒お引き立てを賜りますようお願い申し上げます」

「そう言われてもなぁ。決めるのは僕じゃないし」


 ただまあ、頑張ってくれているみたいだし、ランチェッタさんに口添えくらいはしてもいいかもしれない。

 ……もちろん、この後の話し合い次第だけど。




 コルマールは元々大きな街じゃなかったが、国内交易の要所だったから代官を派遣して統治していたらしい。

 その代官の屋敷は、今まで見てきた建物と比べると頑丈な作りで、唯一の三階建てだった。ただ、今後新しい建物が作られていく内にこれ以上の物が作られるようになるだろう。

 領主、もしくは代官の屋敷がその街で一番立派である必要があるらしいので、この建物もその内改築されるんだろうなぁ、なんて思いながら案内されるがまま歩く。

 ジュリウスが止めないという事は安全は確保されているんだろう。

 建物の中に入って少しは元気を取り戻したレモンちゃんがもぞもぞ動くけれど、姿勢を気をつけながらキビキビと歩く事に専念していると、部屋に着くのはあっという間だった。


「こちらでお待ちください。すぐにサンレーヌ国で有名な茶葉と茶菓子を用意いたします」

「ありがとうございます」


 すっかり食いしん坊キャラで定着してしまっているけれど、出される物で扱われ方が分かるらしいし丁度いいかも。

 マルセルさんは一度、来客の様子を見てくるとの事で部屋から出ていった。残されたのは僕とジュリウスとレモンちゃんと部屋付きのメイドさんだ。壁際で目立たないように立ち、僕と目が合うとにっこりと微笑まれた。

 来客対応を任されるメイドさんは、この国でも見た目が良いんだなぁ、なんて事を考えつつも特に用はなかったのですぐに視線を逸らす。


「有名な茶葉とお菓子だって。楽しみだね、レモンちゃん」

「レモーン」

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