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後日譚135.元訳アリ冒険者たちは里帰りについて考える

 世界樹ファマリーの根元にある大きな建物には、世界樹を中心に拡がり続けている町ファマリアを治めているシズトと、その家族が暮らしている。

 一部の例外を除いて、無関係の者がその建物に入る事を許されていなかったが、シズトの子どもが産まれてからは近づく事すら許されなくなった。

 転移陣を活用してシズトが所有している島にあるダンジョンや別荘で活動していた子たちもいたが、その子たちも認められていなかったため、転移陣は研修所に移設された。

 時折畑の手伝いをしていた子たちも、シズトがやんわりと断っていたため入る事ができず、ドライアドたちものびのびと生活をしている。

 そろそろ元の状態に戻してもいいんじゃないか、という意見もあったが、再びシズトの嫁の内の一人が妊娠したという事でその話はなくなってしまった。

 シズトの嫁の中でも意見が分かれるところだったが、平民出身で二メートルほどある大柄な女性ラオはそこまで神経質にならなくてもいいのにな、と考えていた。

 だが、シズトの嫁たちで行われている話し合いの場では彼女は否定も肯定もしなかった。ラオはともかく、シズトの嫁の中にはやんごとない身分の方が多数いたからだ。


「やっぱり身分がちげぇといろいろと違うもんだな」

「何の事?」

「立ち入り制限の事だよ」


 ああ、それね、と相槌を打ったのはラオと似て色々と大きい女性ルウだ。目元と髪の長さ以外は似ている所が多いが、ルウは加護の影響か、下半身がいろいろ大きく、ラオは上半身が比較的大きい。

 二人はそれぞれの子どもである蘭加と静流を抱いて畑と畑の間にある道を歩いていた。ドライアドたちが集まってきているが気にした様子もなくラオは話しを続けた。


「アタシらの町じゃ、子どもは皆で育ててただろ?」

「そうね~。私たちもお父さんたちが仕事に出ている時は良く面倒を見てもらったわよね」

「子ども同士で遊んでるうちに上下関係とか学んだし、悪い事ばかりじゃねぇと思うんだけどなぁ」

「でも仕方ないわよ。レヴィちゃんもランチェッタちゃんも気さくで忘れちゃうけれど、どちらも王族なのよ? ランチェッタちゃんは女王様だし、我が子の安全を考えると立ち入り制限をかけてしまった方が楽なのは分かるわ。いくら契約に縛られているとはいっても、悪意が無ければケガさせちゃうこともあるだろうし、そんな事になったら下手したら首が飛んじゃうでしょ? 対等な関係を築くには環境を変えないと無理よ」

「…………そうだな。そう考えると、誕生日を迎える度に奴隷解放するっていう案も悪くはねぇかもな。そうしたら少なくとも契約による上下関係はなくなるだろうし」

「契約が無くなったとしても対等な関係は無理じゃないかしら? それこそ、私たちの事を知らない場所に行くしかないわよ」

「…………やっぱそれしかねぇよなぁ。ただそうなると輪に加わるところから始めなくちゃいけねぇわけだが……」


 小さな村や町だと排他的な所も多い。冒険者として訪れる事は問題ないかもしれないが、住民の一人として入っていくのは難しいだろう。かといって大きな街に行けばそれだけ自分たちの事を知っている者も増える。

 どうしたものか、と二人が考え込んだため静かになると、周りのドライアドの賑やかさが強調される。


「いないいな~い、ばぁ!」

「ばぁ~~~~」

「あうー」

「うあー」

「ちっちゃい人間さんは何言ってるか分かんないね~」

「私たちと違うんだねー」

「もっかいやってみる~?」

「今度は髪の毛使ってみよ~」


 ラオとルウの歩幅に合わせて髪の毛を使って器用に追いかけながら手と顔を使って模倣遊びをしていたドライアドたちだったが、今度は髪の毛の一部を使って顔を隠し始めた。

 そんなドライアドたちと赤ちゃんのやり取りは見慣れているので二人は気にした様子もない。

 しばらくの間、ドライアドと赤ちゃんの声だけが周囲に響いていたが、何かを思いついた様子でルウが声を上げた。


「一度、故郷に帰るのはどうかしら? そうしたら輪には加わりやすいと思うわ! 冒険者として外に出た人たちが引退したからとか、家族ができたからって帰ってくる事もたまにあったし、不自然じゃないと思うわ」

「あー……そうかもしれねぇな」

「ついでにお父さんとお母さんの様子も見たいし」

「あの二人は上手くやってんじゃねぇか? ギルドを通して連絡も来ねぇし」

「でも、赤ちゃんの顔は見せたいじゃない? それに、シズトくんも!」

「シズトを連れて行くってなるとまた話は変わるんじゃねぇか?」

「……そうね。シズトくんの意見も聞く必要がありそうね」

「だな。まあ、今日はサンレーヌの方に行くって言ってたから帰ってきてからでいいんじゃねぇか?」

「それもそうね」


 シズトに関する話はそこで終わった二人だったが、帰郷すると決めてからは散歩の間も、お昼寝の見守りをしている時も昔話をして過ごすのだった。

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