後日譚125.事なかれ主義者はフラグを立てたくない
やると決まったらすぐに動くのがレヴィさんだ。リヴァイさんたちがいた事もあったからか、すぐに職人は手配された。
職人たちが準備を終えてやってくるまでの間に何が足りなくて何が必要なのかを煮詰めていく事になったので、リヴァイさんたちを見送った後、僕たちは談話室に集まっていた。
「とりあえず、平等という事であれば皆の部屋の広さを同じにするのですわ?」
「いや、流石にアタシらとレヴィやランチェッタを同格にするわけにはいかねぇだろ」
「そうねぇ。私は今の部屋で満足しているし、わざわざ広くする必要はないわ」
元々貴族階級じゃないお嫁さんたちの意見は同じようだ。特に異論が挟まれる事もなかった。
「セシリアの部屋も作るのですわ」
「不要です」
「セシリアさんの部屋を作るのなら、ディアーヌさんの部屋も作った方が良さげだよねぇ」
「いらないですよ」
セシリアさんとディアーヌさんが何と言おうと、それぞれの部屋は用意した方が良いと、お嫁さんたちの出産を通して学んだ。
本人たちは出産をする時には二階の空き部屋のどこかで済ませる予定だったみたいだけど、自分の部屋の方が落ち着いて出産に挑む事ができるだろう、って産婆さんのハンナさんも言っていたし、資金にも場所にも余裕があるんだから使わない手はないだろう。
「それよりも、ランチェッタ様の部屋を少し広めに用意していただきたいです」
「今の部屋で十分よ」
「仕事をするためにわざわざ大きな机を持ち込んだからちょっと手狭になっちゃってるじゃないですか」
「手狭なのはわたくしのせいじゃないわ。一人部屋なのにディアーヌが自分用のベッドを持ち込んでいるからでしょ」
何やら言い合いが始まってしまったが、先程の話の通り、ランチェッタさんは立場的にレヴィさんやジューンさんと同様、少し広めの部屋を用意する予定だった。
「オクタビアの部屋はどうするつもりですわ?」
「悩ましい所だけど……一応婚約者だし、この建物と同じような作りにするのなら一部屋広い部屋が余っちゃうしそこに入ってもらおうか」
オクタビア様が力をつけて、婚約が白紙に戻した場合は物置か何かにしてしまえばいいだろう。
「シズトの部屋はさらに広くするのですわ?」
「いや、これ以上広くする気はないよ!?」
現在の建物は上から見るとロの字のように見えるけれど、それを線対称の図形を描く感じで漢字の『日』のような形にする予定だ。
壁をそんなに大胆に壊しても大丈夫なのか心配になるけど、そこは魔法で何とでもなるのだろう。魔法で家ごと引っ越す事もあるらしいし、そこら辺は今更な事だ。
「内装は反転するだけで作りは同じにするんですよね? シズト様の部屋を拡張しないのなら、何にしますか?」
「今後も婚姻を結ぶ事になるかもしれないし、残しておけばいいんじゃないかしら?」
「ランチェッタさん、不吉な事を言わないでくれます!? 『口は禍の元』とか『噂をすれば影が差す』とかいうんだから」
「そこら辺はシズトの頑張り次第ですわ。よっぽど問題のある相手じゃない限りは私たちは特に何も言わないのですわ~」
「子どもたちの婚約相手を募集すればその分シズトと婚約を希望する相手は減るんじゃないかしら?」
「それはなし」
自分の縁談申し込みを減らすために子どもを差し出すなんて考えられない。
なにより、子どもたちの相手は子どもたちで決めてもらいたい。変な相手じゃない限りはできる限り応援したい……けど、まだまだ先の話だ。
「それならやっぱりシズトが頑張るしかないのですわ~。チャム様の加護の有用性が広まれば広まるほど様子見に徹していた者たちが縁談を申し込んでくるのは火を見るよりも明らかなのですわ」
「今の所一番恩恵を受けているのはドワーフたちかしら?」
「じゃないかな? まあ、ドワーフたちからしてみると僕の体型は無しだから縁談の申し込みは来てないけどね」
「なんだかフラグが立った気がするのですわ~」
「…………僕もそう思う」
これ以上来るかもしれない縁談話の話をしても仕方がないので、増築する建物についての話を再開した。
二階はどれだけ子宝に恵まれるか分からないので、ほとんど同じ間取りで子どもたち用の部屋にする事で意見が一致し、一階は子どもたちが遊んだりするための部屋になりそうだ。
大浴場だったスペースは使い道が決まっていないけれど、暫定的にいくつかの部屋を設ける事になった。
子どもたちの事を考えると、使用人を雇ってそこで寝泊まりさせるのもありじゃないか、という話も上がっていたけれど、それに関しては保留となった。
ほとんど今の本館と同じような間取りなので一日で話し合いは終わり、その次の日には魔法建築士たちがやってきて工事が始まった。
どのくらいかかるのかと様子を見ていたけれど、サクサクと作業は進んでその日の内には外観は完成していた。後は細かい装飾などをするだけらしい。
魔法ってすごいなぁ、なんて思いながら出来上がっていく建物をドライアドたちと一緒に眺めてその日は終わるのだった。




