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後日譚124.事なかれ主義者は増築案を考えた

 オクタビア様がエンジェリアへ向けて出立してから一週間くらい経った頃、事件が起きた。


「イクオー、ママの所に来るのですわ~」

「育生! パパはこっちだよ! こっちへおいで~」

「れもーん!」

「こっちこっち~」

「ちがうよー、こっちだよ~」


 育生を呼ぶ僕たちの声に反応して、ペタンと座っていた育生がハイハイをし始めた。そう、育生が、ハイハイをしたのである!

 しばらく前から産婆さんに育生がハイハイをし始める兆候が表れていると聞いてから毎日できるだけ一緒にいるようにしていたけど、初めてのハイハイの決定的な瞬間は残念ながら見る事ができなかった。

 だが、今は違う。目の前で一生懸命に育生がハイハイをしている。

 広い場所でハイハイをしてもらうために育生を連れ出して、ファマリーの根元の畑にされていない日向ぼっこスペースに僕たちはいた。

 大きくて柔らかな敷物の真ん中に座らせた育生は、懸命に動かしてこっちへと近づいて来る。


「そうそう、こっちおいで~」

「じぃじはこっちだぞイクオ」

「ばぁばですよ、イクオ」

「って、なんでいるんすか!」

「イクオがハイハイをするようになったと聞いたら仕事なんてのんびりやっとられんわ」

「しっかりと仕事を片付けた事を確認しているから安心しなさい」

「いや、そういう事を言いたいんじゃないんですけど……って、育生、そっちじゃないよー。パパの所おいで!」


 いつの間にか育生を囲っていた輪の中にこの国の国王であるリヴァイさんと、王妃様であるパールさんが加わっていた。

 それに気を取られてしまっていたせいで、育生の興味を示すものが変わってしまったようで、反対方向へとハイハイして向かっている。


「れも~~~~ん!」

「こっちおいでー」

「がんばれー」

「その調子~」


 育生が向かっている先には肌の色が白と褐色、それから黄色のドライアドたちがわらわらいた。

 窓から覗き込んでいる彼女たちが気になるのか、育生のハイハイするスピードが上がっている。

 だが、ふと何かに気付いた様子で横を見た育生は方向転換してしまった。

 残念がるドライアドたちを他所に、育生の向かう先には母親であるレヴィさんが果物を両手いっぱいに抱えながら育生を呼んでいた。


「果物で釣るのは反則じゃない!?」

「ドライアドが先にしていたから参考にしただけですわ~」


 泣き虫な育生だけど、それ以上に食いしん坊だった。離乳食も他の子と比べると抵抗なくもりもりと食べている。

 そんな育生が興味を示すのは両親や祖父母よりも果物だったようだ。

 結局、そのままレヴィさんのもとへ辿り着いた育生は、果物に手を伸ばしてセシリアさんに止められていた。

 まあ、丸かじりはまだ早いよね。




 その後も育生と遊びたい面々が集まってハイハイをする育生を呼ぶ遊びを何度かしたけれど、結局育生は好物のリンゴなどを持っている人の所に吸い寄せられる事が多かった。

 これは変な人についていかないようにしっかり教育せねば、と思いながら育生を子ども部屋に戻すと、着いて来ていたレヴィさんが口を開いた。


「これからの事を考えると、この部屋は手狭ですわ。やっぱり建て直しか増築工事が必要だと思うのですわ」

「確かに。室内で安全に遊ばせるんだったら広い畳の部屋があると安心なんだけど……」

「それに、これから宿るであろう命の事を考えると部屋数はもっとあっても足りないでしょう」


 セシリアさんがまた違った見方で部屋の必要性を主張してきたけど、どうやら他の皆も同意見だったようだ。


「……皆どれだけ子どもを産むつもりなの?」

「とりあえず二、三人は欲しいのですわ~」

「私もそのくらいは欲しいじゃん。もう少し多くても不思議じゃないじゃん」


 我が子の様子を見ていたであろうシンシーラが話に加わってきた。意味深な視線を送ってくるけれどそれにはとりあえず触れずに千与に離乳食を上げていたモニカに視線を置くと彼女もまた「二人と同じくらいの人数を考えてました」との事だった。


「出産したばかりはもういいかな、という気持ちもありました。ただ、一人っ子だったから弟か妹がいるとよかったのに、と思う事が多々あったので……」

「なるほど……」

「お姉ちゃんももう一人くらいは欲しいかなって思っていたわ! ラオちゃんもそうよね?」

「………」


 ルウさんに話を振られたラオさんはただ黙って魔力マシマシ飴を舐めていた。

 っていうか、人が集まりすぎていてちょっと部屋が狭くなっていたので子どもたちに用がない人は外に出よう。

 僕が移動すると皆ついて来たのでそのまま談話室へと移動する。


「平民でも王侯貴族でも何人くらい子どもが欲しいかは変わらないんだね」

「子どもたちの身に何が起こるかは分からないからですわ。一人だけだった場合は、その子が病死や戦死で亡くなった場合、跡継ぎをどうするかで問題になるのですわ。だから、多めに子どもを産むところが多いのですわ」

「私の両親も頑張っていたみたいなんですけど、子宝に恵まれなかったみたいです。結果だけを見ると没落して大変な思いをしたのが私だけだったので良かったのかもしれませんが……」

「獣人は子どもが多い事多いじゃん。単純に労働力として見ている所があったじゃん」

「それは人族でも同じよね~」

「まぁな」

「なるほど……? そうなるとやっぱり部屋数は足りなくなるね。立て直すとなるとお風呂場の問題が出てくるだろうし、増築かな?」

「それが無難だと思うのですわ~。増築されても問題ないように設計されてあるはずですわ!」


 建てる時にこうなる事も予想していたのだろうか?

 そんな事を思いつつも、増築案をみんなで話し合うのだった。

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