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後日譚121.事なかれ主義者は引き続き案内をした

 不毛の大地の中にぽつんとできたファマリアという町は未だにどんどん広がっていた。

 強力な魔道具を作る事は出来なくなってしまったし、世界樹の使徒でもなくなってしまったけれど、それでも転移門の使用料やら、通行料やらでそこそこのお金が入ってきているようだ。

 世界樹の素材を売買した際に生じた利益の一部は僕たちの収入として入ってきているそうだけど……それは良いのだろうかとちょっと疑問に思う。

 ……まあ、前国王様が税金で暮らしている、と思って置けばいいのかな。


「ここの奴隷たちはみんな、生き生きとしていますね」

「ん? あー、どうなんだろう? 他の場所で奴隷を見た記憶がないからあんまり比較できないけど……こんなもんじゃないの?」

「あんなにも明るい表情じゃないと思いますよ」


 オクタビア様の視線を追うと、小柄な子たちがぞろぞろと並んで歩いていた。

 その先頭を歩く少女も含めて、みんな楽しそうにしているけど、どこか面白い場所にでも行くのだろうか?


「ただ、私は自国の奴隷ですら直接見た事がありませんから、もしかしたら私のイメージがおかしいだけなのかもしれませんが……。国の実情を知らなくては女帝なんてできないでしょうし、シズト様を見習って私も帝都を散策する事から始めてみるのもいいかもしれません」

「僕が言う事じゃないけど、国のトップが街を歩くのは大丈夫なの?」

「お忍びなら大丈夫だと思いますが……」

「水戸黄門的な……? どうなんだろう……」


 オクタビア様の後ろに控えていたセレスティナさんがあんまりいい顔をしていないのが答えじゃないかなぁ、なんて思っていると、きょろきょろしていたパメラが僕を見上げてきた。

 僕と同じく黒い瞳が、まっすぐに僕を見上げてくる。何か食べたい物でも見つけたのだろうか?


「お忍びだったら大丈夫だと思うデス! この国の王様たちは良く歩いているデスよ?」

「あ~……確かに?」

「ドラゴニア国王はよく街を歩いているのですか?」

「遊びに来た際に歩いているデス。視察だ、って言ってたデス!」

「視察は建前で、ただ遊んでいるだけな気がするけどね」


 最近は町に出るよりも子ども部屋に現れる事が多いけど、しばらく来てないしそのうち来るんじゃないかなぁ。

 そんな事を考えながら歩いていると、目的地に到着した。そういえば、ここもちょくちょくドラゴニアの貴族関係者が訪れては見学をしていくよな。


「ここが研修所ですか。随分と立派な建物なんですね」

「町の子たちの学び舎だからね。今は授業をしている頃かな? いきなり入ったら迷惑かな?」

「シズト様の所有されている施設ですからご自由に入って問題ないかと」

「そう? まあ、ジュリウスがそういうなら入っちゃおうか。パメラ、静かにしてるんだよ」

「分かったデス」

「レモンちゃんもね」

「れもん!」


 当然のように肩の上にいるレモンちゃんにも釘を刺したし、これで大丈夫だろう。

 僕たちは木造の二階建ての建物に足を踏み入れた。

 ジュリウスが事前に先触れを出してくれていたからか、特に騒ぎにはならなかった。

 黙々と勉学に励んでいる教室もあれば、皆で音読をしている所もあった。


「砂に書いて読む……これなら我が国でも真似できそうです」

「精霊魔法のように使い手が遠距離で動かすことが出来なければ、ああいう風にみんなで音読は難しいのでは?」

「書く練習はできると思います」

「……なるほど」


 昔、地面に落書きしていたな、そういえば。

 教室に入るのは流石に迷惑になるので、廊下の窓から中の様子を窺って回るとあっという間に終わってしまった。

 建物から出たところで、オクタビア様が口を開いた。


「ここでは文字や計算だけ教えているのですか?」

「あー……どうなんでしょう? ジュリウス、分かる?」

「はい。この研修所はあくまで最低限のスキルを身に着ける所です。文字の読み書きや簡単な計算を中心に教えていますが、広い敷地を使って集団行動の練習も行っています。ある程度スキルを身に着ける事ができたら、今後の希望のヒアリングを行い、希望や適性に合わせて別の場所でさらに学んでもらう事もあります」

「別の場所ではどのような事を学ばれているのですか?」

「それぞれの仕事に必要な知識や技能を実践を通して学んでもらっています。そこかしこで働いている奴隷の多くがその職場を希望して配属されている事が多いです。荷物運びや簡単な雑用を任されているだけの者はここにきて日が浅い者や、まだ研修所での教育が終わっていない者ももちろんいますが、中には向上心のない者もそこに配属されています」


 衣食住を完璧にそろえてしまっている弊害で、一定数向上心のない人がいるそうだ。

 与えすぎも良くないんだな、なんて事を思ったけどそこら辺は町の子たちを管理しているホムラやユキが上手い事対応しているらしい。


「いろいろ教えていただきありがとうございます。今後の参考とさせていただきます」


 オクタビア様が僕に向かって丁寧に頭を下げた。どうやらここの見学はもういいらしい。

 日が暮れるまでまだ時間があるので、近場の重要施設を引き続き見て回る事にしよう。

 研修所は居住区とギルドが集まっている区画の間にあるので、ここからどこを見て回るかによって向かう場所が違うんだけど、居住区は真っ先に見たいと言われた場所だったのでここに来る前に案内をしてしまっている。

 他の町とあまり変わり映えしないかもしれないけど、エント様の教会もあるし、反時計回りにぐるっと回って行こう。

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