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後日譚118.事なかれ主義者は叱り辛かった

 昨夜もお楽しみだった……というか楽しまれた(?)翌朝。

 魔道具『安眠カバー』のおかげで、今日もいつもの時間に目が覚めた。

 ベッドの中は僕以外誰もおらず、窓辺には丁度カーテンを開けたジューンさんが立っていた。


「あれ、エミリーの所にいなくて大丈夫?」

「オクタビア様が一緒にいらっしゃいましたから大丈夫だと思いますよぉ」


 ジューンさんは既に着替え終わっていて、露出の少ない手編みっぽいセーターを着ていた。今日はどうやら世界樹の使徒の代理人としての仕事はないようだ。

 セーターは素材的にどうしてもエルフらしからぬ大きな胸が強調されてしまうけれど、最近は欠点として捕えていないみたいでよくこういう服を着るようになった。

 緩く波打った髪の毛は太陽の光に照らされてキラキラと金色に輝いているように見える。その隙間から覗く細長い耳や、新緑を思わせる緑色の瞳を見ると、森の中で出会ったら森の精かと誤解しても仕方がないかもしれない。

 ジューンさんはベッドの上に乗ると、四つん這いで近づいて来る。ベッドが無駄に大きいので仕方がない事なんだけど、その姿勢で近寄って来られるとどうしても視線が下に向かってしまう訳でして……。

 当然、彼女も僕の視線には気づいていて、そっと髪の毛に触れながら「朝からするんですかぁ?」と問いかけてきた。


「いや、昨日十分すぎるほどしたから……」

「そうですかぁ。……はい、寝癖治りましたよぉ。朝ご飯にしますかぁ?」

「日課を済ませてからね。……いや、その前に一回お風呂に入っておこうかな。せっかく寝癖治してくれたのにごめんね?」

「気にしないでくださぁい。私も一緒に入った方がよろしいですかぁ?」

「いや、一人で入れるから大丈夫だよ」

「そうですかぁ、分かりましたぁ」


 ジューンさんはそういうと、それ以上深く詮索する事はなく、先程の逆再生をするかのようにえっちらおっちら戻っていく。……うん、どうしても視線が向かうのはしょうがないよね。

 そんな事を思いながらジューンさんが部屋から出て行った後、しばらく着替えずにボーッとしていた。




 朝風呂に入った際にちょっと想定外な物があったからそれを壊すのに少し時間がかかってしまった。

 あんな物、誰が作ったのか――そんな事を考えるまでもなかった。

 泡でよく遊んでいるペッタンコンビに決まっている。

 そう思ってサクッと朝風呂を済ませた後、食堂で暇を持て余していたパメラと、窓辺で日向ぼっこをしていたドーラさんを呼び寄せて事情聴取という名のお説教をした。

 ただ、想定外だったのは今回はどうやら像を作ろうと言い出したのがこの二人ではなかったという事と、実行犯が多数いた事だった。


「次からは後片付けをしっかりしておいてね」

「ごめんなさいなのですわ」


 レヴィさんを筆頭に、オクタビア様やいつも止める側のシンシーラもあの泡の像の制作に携わっていたとは思わなかった。

 しょんぼりしているレヴィさんの両隣にはおろおろしているオクタビアさんと、茶色の尻尾と耳が垂れているシンシーラもいる。

 ドーラさんはオクタビア様の隣で無表情だから反省しているのか分かり辛いけど、パメラはきっとこれは反省してないな。

 でもこれ以上お説教を長引かせると反省を示している三人を引き続き叱る事になるわけで……うん、無理。

 普段叱らない相手にどうやって叱るべきか分からないし、どちらかというと僕は普段叱られる側だったからなぁ。


「じゃあ、そういう事だから椅子に戻っていいよ」

「許されたデース! 足しびれるかと思ったデスよ!」


 やっぱりパメラだけ後で呼び出して話を続けた方が良いかな、なんて事を思いつつ席に着いた。

 エミリーとジューンさんが手分けをして料理を机の上に並べてくれたのですぐに食事となるんだけど……いつもきれいに掃除してもらっているとはいえ、流石に床に正座させたから手は洗ってもらった方が良いだろうという事で五人が手を洗って戻ってくるまで待つ。

 じっと待っていると、ふとラオさんの視線を感じた。

 僕と視線が合うと、ぼりぼりと短い赤髪をかきながら彼女は言葉を探しているようで少し視線を彷徨わせたが、すぐにまた視線が合った。


「……今後の事を考えて、叱る練習もしといた方が良いんじゃねぇか?」

「それもそうよね。まだ小さい子たちも大きくなったらやんちゃをするかもしれないし」


 ラオさんの意見に同意したのは、長い赤髪を後ろで結おうとしているルウさんだ。

 二人の言う通り、子育てをしていくとなると優しくするだけじゃ駄目だと思う。ただ――。


「そこら辺はできると思うよ。今回はシンシーラとか、オクタビア様とか普段叱らない人たちを叱る必要があったからやり辛かっただけで。ラオさんだってレヴィさんとかオクタビア様とか叱り辛いんじゃない?」

「まあ、アタシらは身分が違うからな」

「僕に対して叱る事に躊躇がないんですけど、それに関しては?」

「慣れだ。慣れれば何とでもなる」

「……なるほど」


 ただ、レヴィさんはともかく、オクタビア様を注意する事はそんなにないんじゃないかなぁ、なんて事を思いながら五人が戻ってくるのを待った。

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