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後日譚117.全身鎧は共同作業をした

 オクタビアとの交流の際に、置物のようにじっと動かず、周りの話を聞いていたドーラは、脱衣所で服を脱いだ際にふと胸に手を当てた。

 そして、既に一糸纏わぬ姿になったレヴィアに「早く来るのですわ~」と急かされているオクタビアのある一部分に視線を向けて、それからまた自分の胸元に視線を落とした。

 妊娠をしてもあまり変化が見受けられない胸周りを見ていた彼女だったが、続々と服を脱いで浴室へと向かって行く面々に気付くと、歩き始めた。


「ここでまずは体を洗うのですわ! 体の洗い方は分かるのですわ?」

「はい。一通りは自分で洗えるようにと学びました」

「学んだ事を活かす時ですわ! 大丈夫ですわ。ちょっと魔道具があるだけで、身体の洗い方は大して変わらないのですわ」

「ここにも、魔道具があるんですね……」

「風呂場が一番魔道具が充実してんじゃねぇか?」

「それはそうかもしれないわねぇ」


 ラオとルウは既に大きな体を洗い終わったようで、いつものように水風呂へと向かって行っている。


「目が染みるっす~」

「我慢しなさい」

「文句があるなら自分でちゃんと洗う事ね」


 黒髪がとても長いホムラと、白いショートヘアーのユキに挟まれて体を丸洗いされているのはハーフエルフのノエルだ。放っておくと水だけ浴びてさっさと出て行こうとするので、時々ホムンクルスの二人に洗われている。

 時折悲鳴が聞こえるが、いつもの事だとドーラは気にせずにちょこんと空いていた風呂椅子に小振りなお尻をのせた。

 シャワーヘッドの根元の部分を持ち、蛇口をひねるとすぐに適温のお湯が流れ出る。

 それを使って髪の毛や体全体を一通り濡らした彼女は、早速髪を洗う際にできる泡で遊び始めた。

 だが、自分の体に纏わせられる泡には限りがある。

 ドーラは他の人たちが体を洗い終えたくらいには泡で遊ぶのをやめ、髪と体に着いた泡を洗い流した。


「ドーラも一緒に遊ぶデス!」


 それに目敏く気付いたのは翼人族のパメラだ。真っ黒な翼と髪の毛は既に泡風呂によって作られた泡で真っ白になっていた。


「ちょっとパメラ! 泡をつけたまま外に出ない! あと、アンタはまだ産んだばかりなんだから早めに上がりなさいよ!」

「エリクサーと神様のおかげで何ともないデース!」


 泡風呂には既にもこもこの泡が山のようになっていた。パメラはエミリーから逃げるために、迷わずそれに飛び込んだ。

 ドーラはいつもの事、と思いつつも案じているエミリーの気持ちも分かるので、肩にポンと手を置いて「私が見る」とだけ言った。


「……パメラの監視と言いつつ、パメラがお風呂から上がらないからってずっと遊んだりとかしないわよね?」

「…………」

「ドーラ、どうして目を背けるのかしら?」

「黙秘」


 ドーラもまた、エミリーから逃れるためにピョンッと泡風呂に飛び込んだ。

 エミリーは深いため息を吐くと、その場から一旦は慣れて世界樹の葉がお湯に入れられている薬草湯へと向かった。

 エミリーが離れてしばらくしてから、泡の山からズボッと顔を出す三人。


「ん?」

「もこもこですね」

「楽しいデスよ!」


 ドーラとパメラの他にもう一人先客がいたようだ。

 紺色の髪に紺色の瞳の彼女はオクタビア。パメラに強引に泡風呂に突っ込まれたようだったが、彼女に言われた通り魔道具に魔力を流し続けてせっせと泡の山を作っていた張本人だ。

 眠たそうな青い目のドーラと視線が合うと、彼女は自信なさそうに眉を下げながらドーラに話しかけた。


「泡の山を作ってと言われたんですけど、これでよろしかったでしょうか?」

「ん。問題ない」

「もっと大きくするデスよ!」

「パメラ! ほどほどにしときなさいよ!」


 薬草風呂からの叱責が浴室に響くが、パメラは「聞こえないデスね~」なんて言いながら浴槽に刻まれた魔法陣に魔力を込めた。

 ドーラは浴槽から一度出て、もこもこと生産される泡が良い感じの形になるように浴槽の周りをウロウロしながら形を整えている。

 その様子を見ていたオクタビアはドーラのしている事を見様見真似で手伝った。


「ん、手際良い。有望」

「ありがとうございます……?」


 褒められているのだろうか? なんて思いつつも泡の山の形を整えていると、泡の中からパメラが出てきた。

 体中に泡をつけた彼女は、浴槽の中にこんもりと膨らんでいる泡を掬っては体につけていく。


「これでパメラも仲間入りデース!」

「偽乳」

「えっと……綺麗な形ですね……?」

「いちいち相手にしなくていいですよ」

「エミリーも泡乳作って仲間入りするデスか?」

「作らないわよ! 私はちゃんとほどほどにちゃんとあるし、形は良いんだから!」

「そんな事言わずにこっちの仲間に入るデスよ~」

「ん、肩身狭い」

「そう思うなら育乳ブラを使えばいいと思うのですわ~」

「あの、こんな感じでいいんでしょうか?」

「よくできてるデース!」

「オクタビア様、パメラに合わせなくていいですよ、調子に乗るので」


 薬草湯に再び肩まで使ったエミリーの忠告を、オクタビアは曖昧に微笑んで答えた。


「どうせ作るなら泡で像を作るのですわ~」

「ん、面白そう」

「シズト様を作るデス!」

「形はどうやって保つじゃん?」

「この魔法の泡は魔力を込めるとある程度固まるのデスよ!」

「無駄な魔力の使い方じゃん」


 無駄と言いつつもシンシーラもまた、出産直後のパメラが心配なのか今日は泡遊びに付き合うようだった。

 いつもよりも大人数で作られた泡の像は、ドーラとパメラも納得する出来栄えだったそうだ。

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