後日譚113.事なかれ主義者は覚えてない
ドライアドたちにオクタビア様を覚えてもらった後、お昼の時間までまだ時間があったのでファマリーの根元を案内して回る事になった。
「ここがそれぞれの畑。みんな好きな物を植えて育ててるんだよ」
「なるほど、妻になるには植物も育てられる必要があるんですね」
「いや、そういう訳でもないよ。放っておいてもドライアドたちやレヴィさんが暇つぶしで手入れをしちゃうから僕はほとんど家庭菜園の手入れをした事ないし」
「家庭菜園は実験的側面もあったのですわ。だから強制じゃないのですわ」
「そうなんですね。……でも、優先順位をつけて一つずつ覚えていきます。ちなみに、今育てられてない植物は何でしょうか?」
「別に被りとか気にしなくていいのですわ~。好きな物を植えればいいのですわ~」
「ですわですわ~」
「私たちも好きなの植える~」
「この場所ではだめなのですわ」
ドライアドたちは畑の中に自由に何かを植える事は許可してない。ぴしゃりとレヴィさんに止められた子たちは残念がりながら離れて行った。
畑を超えて世界樹の根元まで行くと真っ白で大きな毛玉があった。その上にはピンク色の髪の小柄な女の子がいて、ブラッシングをしている様だった。
僕たちが近づいて来ていた事は既に魔力探知で気づいているようだけど、こちらに視線を向ける様子はない。
「オクタビア様は魔物は平気ですか?」
「初めて見ますが大丈夫です」
そりゃ皇族のご令嬢が魔物を見た事があると言っていたら驚くけど、初見でもオクタビア様は平気そうだった。
「シズト様がここにいる事を認めている以上、安全なのでしょう?」
「そうですけど……まあいいか。不法侵入したり、木を傷つけようとしたりしなければ丸まったままの事が多いから気にしすぎても意味ないし。あと、ドライアドたちも指輪をつけ忘れなければ大丈夫ですけど、それでもドライアドたちが育てている植物を傷つけると怒るから気を付けてください」
「分かりました。……ちなみに、どれがドライアドたちが育てている作物なのでしょうか?」
「根元に広がっている植物は大体そうです」
「……気をつけます」
そうしてください。ちょくちょくパメラがやらかしてドライアドたちのご機嫌取りをするの大変なので。
フェンリルは丸まったままだったけどたぶん魔力は覚えてくれただろうし、ドライアドと違って個の識別はできるから大丈夫だろう。
青バラちゃんはこの時間はアルバイトに出てていないから、三柱を祀っている祠と、その近くに建てたチャム様の祠をお祈りをするついでに案内した。
お祈りをした後は建物の中に入る事が多い、と学習していたドライアドたちがさらに集まってきたけど、流石にこれ以上纏わりつかれると歩き辛くなるので制限を設けた。
「ケチ~」
「け~ち!!」
「ケチじゃないですー。普通に歩けないんですー」
身体強化が付与された服を着ていても動き辛さはどうしようもない。
「私たちが代わりに運ぶからいいでしょ!」
「そーだそーだー」
「絵面的にやばいからダメ」
大量のドライアドたちに纏わりつかれたまま子どもたちの部屋に入ったら育生にギャン泣きされたのを今でも覚えている。
ギャン泣きしている育生をあやすのも大変だっただろうけど、おろおろしているドライアドたちを落ち着かせるのも一苦労だった。もうあんな事はごめんだ。
最初から引っ付いていた子は剥がれる気配がなかったので諦めたけど、これ以上引っ付く子を増やさないで屋敷に入る事ができた。
「以前からお聞きしたかったのですが……ドライアドたちはどうしてシズト様にくっついているんですか?」
「どうしてって……なんでだっけ? たぶん肩車してる子が発端だった気がするんだけどいつの間にかそうなってたんだよ」
「育生が生まれた時から激化したのですわ」
「そうだったね。アレは失敗だったわ」
ドライアドたちは仲間の真似をしたがると言う事を忘れていた。
そう考えると、レモンちゃんは僕の真似をしたがるし同類認定されているのかもしれない。
「あの日からシズトに引っ付く子が増えたのですわ」
「でも発端はそれじゃないよね? もっと前から引っ付いていた気がするし……」
「私の記憶が確かであれば、高い所になっていたレモンを取ろうとしていたレモンちゃんを手伝うためにシズト様が肩車をしたらそれ以降肩の上に登るようになった気がします」
「え、そんな事あったっけ?」
「レモン」
暇な日にお散歩した時かなぁ。全然覚えてないや。
話をしながらも部屋の案内を進めていく。
入ってすぐのエントランスホールの左側に向かうと、部屋がいくつか並んでいる。
「奥の方には厨房や食堂があるんだけど……応接室や待機室は結局使ってないし、ここ潰してオクタヴィア様の部屋にしちゃう? ランチェッタさんも同じ二階の部屋だとモニカやエミリーたちが気にしちゃうぽいし、二人の部屋にしてもいいけど……」
待機室は突如来訪した人のため、応接室はお客さんを通してそこで話すためにそれぞれ設けられたらしいけど来客はリヴァイさんたちくらいしかないし、あの人たちは待っている間は外で遊んでいる事が多いからなぁ。
そう考えると今後も使う事がなさそうなんだけど……。
「悩ましい所ですわね。子ども部屋にしてしまうのもありだと思っていたのですわ」
「そこら辺の話はまた今度話し合いで決めましょう。今はとりあえずオクタビア様を案内するのが先決かと」
レヴィさんの後ろに控えていたセシリアさんの言う通り、まずは一通り案内をするべきか。
部屋が狭いって思ったらまた考えればいいし、という事で案内を再開した。
オクタビア様は部屋に関しては特に何も言わなかったけれど、魔道具の多さに驚いている様子だった。
「本当にいろいろな魔道具があるんですね」
「特に力を入れたのはお風呂場なんですけど、そこは皆に紹介してもらってください」
「シズトは一緒に入らないのですわ?」
「流石に入るわけにはいかないでしょ!?」
まだ結婚してるわけじゃないのに。
……あれ、レヴィさんたちとは婚約している段階で一緒に入ってたな。
………………とりあえず一緒に入らない方向で話を進めよう。




