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後日譚112.事なかれ主義者は目印を渡した

 エンジェリアを訪れた三日後くらいに、ファマリアを訪れた一団があった。

 エンジェリア帝国からやってきたオクタビア様御一行だ。

 前回僕がエンジェリアを訪れたので、今度はオクタビア様がファマリアを訪れるという流れになった。

 ただ、皇位継承してからそこそこ経ったので、ここらで一回他国に出向いて他の者たちの様子を見てみる、という理由もあるらしい。


「今回はご宿泊もされるんですよね?」

「はい。しばらくお世話になります」


 ぺこりと頭を下げたオクタビア様は装飾が少ない簡易的なドレスを着ている。

 その傍に控えているのは、オクタビア様の専属侍女であるセレスティナさんだ。

 セレスティナさんも高位貴族の家に生まれた女性だからか、とても顔立ちが整っていた。王女様のお付きになる人にはそれ相応の容姿の人じゃないといけない、という決まりでもあるのかと思うほどだけど、そもそも位の高い家の人ほど容姿端麗だからそういう物なんだろう。

 今までは王族の人と婚姻関係を結ぶと、セットで専属侍女もついてきたけれど今回はセレスティナさんとは婚姻関係は結んでいない。

 あくまで後ろ盾である事を証明するだけなので、専属侍女まで一緒に婚約をしなくてもいいだろう、と主張したらそういう事になった。逆に言うと、主張しなければもう一人婚約者が増えていたという訳だけど……今後もしっかりと主張していかないと。


「泊まってもらうのは結局迎賓館になるんだっけ?」

「婚約者であれば屋敷でいいと思うのですわ」

「空き部屋だと狭くない?」

「同部屋でも構わないとオクタビア様は仰っております」

「そんな事言ってないですよ!?」

「既成事実を作ればうるさい者たちも黙ると愚考しました」


 この二人はランチェッタさんとディアーヌさんのような関係性なのだろうか?

 でもなんか冗談って感じがしないんだよな……。

 ジッと見ていたらセレスティナさんと目が合い、目礼された。


「同部屋はシズト次第ですわね。ただ、エンジェリアとシズトの間に強固な関係性が結ばれている、というのを見せるという意味ではありだと思うのですわ。きっとファマリアにも一定数、エンジェリアから間者が入ってきているのですわ。あ、この場合は国のではなく貴族たちの、ですけれど」

「そうですね。現在オクタビア様の下動いている貴族たちも一枚岩ではありませんから、情報を他の派閥よりも多く得るためにそれぞれの所からやってきているでしょう。護衛の中にも一定数潜んでいると思います。また、だいぶ力を落としているとはいえ、前皇帝派だった者たちは裏の者たちとの繋がりがありますからそういう者たちも入ってきていると思います」

「そういう貴女も情報を持ち帰る気満々なのですわ」

「……そうですね。私も、親が博愛派に所属してますから派閥に利益をもたらす情報は報告するつもりです」

「博愛派……?」


 セレスティナさんが喋っている間、静かに控えていたオクタビア様が僕の呟きにすぐ反応した。


「ご存じの通り、元々人族至上主義だった我が国にも一定数他種族との友好関係を築くべきだ、という主張をする者たちがいました。特にユグドラシルや小国家群と国境を接している領地を治める貴族に多いのですが、セレスティナはその派閥に所属している家の娘なんです」

「なるほど」

「話を戻すと、エンジェリアの目があるからできれば迎賓館じゃなくて同じ建物で寝泊まりしてもらった方がオクタビア様にとって都合がいい、という事ですわ」

「同じ部屋で眠ってもらって、ちょっと既成事実を作って頂くととても助かります」

「セレスティナ、ちょっと静かにしてて!」

「私は奥手のオクタビア様に代わってアピールをしているのですが……」


 チラッとこちらを見ないでいただきたい。


「条件をのんでくれるというのなら許可しますけど……」

「どんな条件ですか? こちらからお願いしている事ですので、出来る限り合わせます」

「いやぁ……できれば身内じゃない人は建物内に入れたくないので、連れてきた近衛兵や侍女のセレスティナさんは本館には入らないで欲しいんです。本館には子どもたちがいますし」

「分かりました。他にはどのような条件があるのでしょうか?」

「え? いや、特にありませんけど……?」

「護衛や侍女をつけずにお屋敷に入るだけでいいんですか?」

「はい。……それ以外に何かあるかな?」


 近くにいたレヴィさんに聞いてみたけれど、彼女は「シズトがそれでいいのならいいと思うのですわ」としか言わなかった。

 そんなわけでオクタビア様だけを屋敷にご招待する事になった。

 他の方々はファマリーを囲う結界の内側には入らないという約束をしてもらったので、ファマリアにある施設で寝泊まりしてもらうが、そちらの案内は仮面をつけたエルフに任せた。


「しっかり覚えてね」

「は~い!」

「これ着けてる人は良いんでしょ?」

「覚えた!」

「レモン!」


 オクタビア様がファマリーを囲う結界の中に入るためにはドライアドたちに覚えてもらう必要があるので、まずはドライアドたちに紹介した。

 わらわらと集まってきたドライアドたちに物怖じした様子もなく、綺麗な姿勢で立っているオクタビア様をじろじろとドライアドたちが見ている。

 加護があると判別がしやすいらしいけど、オクタビア様には加護がないので、ひとまず先程渡した婚約指輪(仮)と帰還の指輪の予備を目印にしてもらった。……婚約したのに指輪を渡し忘れていたのは内緒だ。


「ここに入るためにはその指輪が必要なので、無くしたり奪われたりしないように気を付けて欲しいのですわ」

「はい、もちろんです」


 ドライアドチェックが終わったらファマリーの根元の案内をするか、それとも先に皆を紹介するか……まあ、どっちでもいいか。

 なんて事を思いながらドライアドたちがオクタビア様をじろじろと見るのに満足するまで待っていたら、当然のように僕はドライアドたちに引っ付かれた。

 動き辛いから何人まで、って約束した方が良いよなぁ、なんて事を思いつつ目を丸くしているオクタビア様に事情を説明するのだった。

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