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後日譚107.事なかれ主義者は放置していた

 朝、目が覚めると昨夜の事が嘘のようにすっきり快眠気分だ。

 魔道具『安眠カバー』のおかげで夜どれだけ大変な事になっても翌日には持ち越す事はほとんどない。

 ちょくちょくいろんな場面で使う機会があったし、魔道具の中で一番作ってよかったって思えるのはこれかもしれない。

 なんて、朝からのんびりと魔道具について思いを馳せる余裕があるのは、室内に僕とメイド服姿のセシリアさんしかいないからだ。

 セシリアさんは綺麗なお姉さん系の美女で、メイド服をしっかりと着こなしている。

 髪と同色の水色の目が僕を見ていて、彼女は僕と目が合うとその場で綺麗なお辞儀をした。


「おはようございます、シズト様」

「おはよう、セシリアさん。二人は?」

「ディアーヌはランチェッタ様の様子を確認しに行きました。ジューンは朝の支度のため厨房にいます」

「朝ご飯までは大人しくしているって言ってたし、ちょっとは信用してあげてもいいのにね」

「日頃の行いが悪いんでしょう。それは、レヴィア様も同様ですが……」

「そっちは世界樹の番人たちを信じて欲しいかなぁ」


 普段はセシリアさんが朝早くからレヴィさんの後をついて回っているけれど、今日からは世界樹の番人の中で同性のジュリエッタさんなどがレヴィさんの身の回りのサポートをする事になっている。あくまでセシリアさん不在時のみ、だけど。


「信じておりますが、相手はレヴィア様ですから。お着替えのお手伝いが不要という事であれば様子を見に行きたいのですが、よろしいでしょうか?」

「うん、いいよ。また後でね」

「はい。失礼します」


 再び綺麗なお辞儀をしたセシリアさんは静かに素早く部屋から出て行った。

 残された僕はのんびりと着替えを済ませ、日課の三柱の祠とチャム様の祠それぞれにお祈りをするために屋敷を出る。

 いつも通りレモンちゃんを筆頭にドライアドが引っ付いてきた。

 逃げ回ると逆に増えると知っているので大人しくされるがままになっていると、その様子を金髪碧眼の美少女がスケッチしている事に気づいた。

 彼女はラピス・フォン・ドラゴニア。レヴィさんの妹で、ドタウィッチ王国にある魔法学校に通っている女性だ。

 金色の髪はレヴィさんと違って巻かれておらず、短く切り揃えられている。切れ長な青い目に僕と同じくらいの背丈とレヴィさんとはあまり似ていない妹さんだった。


「おはよう、ラピスさん。ドライアドたちとは仲良くやってる?」

「おはようございます。シズト様とレモンちゃんの関係性を参考に、ドライアドの一人と関係性を構築しようと模索中です。とりあえずリンゴちゃんと名付けてみましたが、ある程度大きい子だからか、それとも別の理由かなかなか思うように進んでませんが」


 レモンちゃんほど小さい子はなかなか見ないけど、ドライアドたちの中でもリンゴちゃんと名付けられた子は小さい方だった。


「僕を参考にするより、レヴィさんを参考にした方が良いかもよ? ある程度言う事聞いてるし」

「それも考えたのですが、なかなか毎日長い時間農作業をする事が難しいですから……」


 そりゃそうだ。

 同じ王女という立場でも、レヴィさんは僕のお嫁さんである程度時間に融通が利くけど、ラピスさんは留学生で尚且つ委員会活動もしている。

 フィールドワークという事である程度まとまった時間を取ることはできるらしいけど、それでも限度があるらしい。


「私の事は気にせず、いつも通り過ごしてください」

「分かった。えっと……研究頑張ってね?」


 あんまり話をして時間を取ってしまうのも申し訳ないし、雑談はこのくらいにしてお祈りを済ませてしまおう。




 お祈りを済ませた後はラピスさんに別れを告げて、レヴィさんと一緒に屋敷に戻った。

 既に食堂にはだいたい揃っていたけれど、最近出産したばかりの三人は席を外していた。後で様子を見に行こう。

 そんな事を思いながらお嫁さんたち同士でお喋りをしているのを眺めつつ、食事を進めているとふと思い出したかのようにレヴィさんが僕の方を見た。


「そういえば、オクタビア様とはどうなのですわ?」

「どうって……?」

「何か文通のような事はしているのですわ?」

「いや、特にはしてないけど……婚約したけどそれは後ろ盾だって周りに思わせるためだし、なによりいきなり国を統治しなければならなくなったんだから邪魔しちゃいけないかなって」


 実際、向こうから手紙が来る事はほとんどない。ジュリウス経由でエンジェリアの状況を知る事があるくらいだ。

 それに、婚約を白紙に戻す可能性があるのなら変に情が湧かないように関わりを少なくしておいた方が良いと思う。こちらとしても今の状況は好都合だったから特にこちらから動くつもりはなかった。

 その真意を加護無しの指輪を紐を通してネックレスのようにしていたレヴィさんには伝わったのだろう。大きくため息を吐かれてしまった。


「三カ月経っても表立った交流がないとエンジェリアの者たちに怪しまれる可能性も出てくるのですわ。手紙を出しておいて、様子を見に行く事をお勧めするのですわ」

「…………それもそうか。じゃあ、各国の教会を見て回った後に顔を出そうかな」


 丁度エンジェリア帝国からはチャム様の教会設置の打診は来てなかったし、布教できるかこの目で確かめるのにも良い機会だろう。

 ……ただ、神聖エンジェリア帝国、なんて名前だし他の宗教を排斥していたような気もするけど。

 そんな事を思いながら、盛大に口の周りを汚していたホムラとユキの顔を手元に置いてあったハンカチでそれぞれ拭うのだった。

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