後日譚105.事なかれ主義者はできればさせたくない
アルソットでまじないの加護を使ってから二週間以上経った。
アルソットでの宣伝効果はとても大きく、クレストラ大陸の国々から加護の使用依頼が来るほどだった。
教会を設置したところから順番に依頼をこなしていけば少しずつ着実にまじないの加護の力を広める事はできるだろう。
クレストラ大陸の方はムサシにある程度任せておいて大丈夫、という事でシグニール大陸の方でも広めようとしたら真っ先にライデンが手紙を送ってきた。
獣人たちの国であるアクスファースはそんなに天候で困っている事はなかったと思うけど……と思っていたけど、どうやらそれが目的ではなく、信仰を広めるためには絶対的な力を持っていると証明するのが手っ取り早いという事だった。
力を思いっきり振るって欲しいとの事だったので、不毛の大地との比較実験をした。
結果としては予想していた通り、不毛の大地以外で使う魔力は大幅に少なくて済んだ。もちろん、急な変化をさせようとするとそれ相応の魔力消費があるけど、これなら自衛のために天気を変える事も出来そうだった。
「やっぱり加護は使い方次第だよねぇ」
「? 子どもたちの加護の事ですわ?」
「まあ、それもあるけど……僕の加護の事だよ」
「そうですわね。戦闘系じゃなくても戦闘に用いる事ができるのはプロス様とエント様の加護でよーくわかっていたのですわ。ファマ様の加護も、もしかしたら戦闘に生かせるのですわ?」
「どうなんだろう? 育てる事にしか使ってなかったからなぁ」
レヴィさんが抱っこしていた育生の頬をぷにぷにと突くと、僕の肩の上に乗っていたレモンちゃんや、身体にくっついていたドライアドたちが真似を従って髪の毛を伸ばしている。
育生はその髪の毛を掴もうと手を伸ばしていて、全然平気そうだ。よく泣く子だなぁ、と思っていたけれどこの場面だけを見ると物怖じしない子になりそうだな、とも思う。
同じ部屋にはモニカの子どもである千与と、シンシーラの子どもである真がいた。二人とも母親に抱かれているからか大人しい。最近僕が抱っこをするとギャン泣きするようになってしまったので、お父さんである事を積極的にアピールしないとな、とは思っている。
「この子には争いとは無縁でいて欲しいです」
「それはそうだよね。っていうか、僕の子どもたちには全員争いとは無縁でいて欲しい」
モニカが抱っこしている千与はエント様から加護を授かっている。
作ろうと思えば強力な武器すら作る事ができる加護だけど、出来ればそういう物は極力作らず、平和に過ごしてほしい。
まあ、平和に過ごしてほしいのは千与に限った事じゃないけど。
「それは難しいじゃん。少なくとも真には冒険者としての教育をしていくつもりじゃん」
「女の子なんだし、お金は僕がこれからも稼げそうだからわざわざ冒険者にしなくてもいいんじゃないかなぁ……」
「だとしても、戦い方は身に着けさせるじゃん。私たちの子どもは狙われやすいじゃん。守り方を教える事も大事じゃん」
「ん~…………」
何とも言えない。
真はこれといって加護を授かる事はなかった。
後天的に加護を授かる事もある、という事だったから、今後何かしらの加護を授かる可能性も無きにしも非ずだけど、このまま加護を授からずに生きていく事も十分あり得る。
それに関してシンシーラは「神様次第だから仕方がないじゃん」と言っていたけれど、大きくなった真は気にするかもしれない。
その事も踏まえて、シンシーラは真に戦い方を授けようとしているのかもしれないけれど……。
「危ない事はやっぱりさせたくないかなぁ」
「過保護は子どもの成長を妨げるじゃん。可能性を潰すのは可哀想じゃん」
「そうかもしれないけど……う~ん……」
護衛も冒険者もどちらも死と隣り合わせの仕事だ。
出来る事なら商人とか、そこら辺に落ち着いてくれたらいいな……と思うけれどこればっかりは真の気持ち次第だな。
育生と千与、それから真の三人と交流を終えた僕は、そのまま隣の部屋へと移動した。その部屋には蘭加と静流、それから龍斗がいた。
蘭加は僕が授かっていた加護である『加工』を授かっている。
静流と龍斗はそれぞれルウさんとドーラさんが授かっている加護を引き継いだかのように授けられていた。ただ龍斗に関してはドーラさんと違って『軽量化』の加護だけだったけど。
「三人もやっぱり子どもたちに冒険者や護衛の教育をするつもりなの?」
僕のいきなりの質問にラオさんは不審そうに首を傾げ、ルウさんは悩んでいる様子で首を傾げた。
ただドーラさんは元々考えていたようで「ん」と声を発した後、こくりと頷いた。
それに続いてラオさんも「アタシもまあ、そうするかもな」と続いた。
「それくらいしかアタシに教えられる事なんてないしな」
「ん、私も」
「…………そっか」
寂しそうな顔でそんな事を言われたら否定し辛い。
ルウさんも悩んでいたようだったけど、同じ加護を授かった静流には自分にできる事をしっかりと伝えるつもりのようだ。
こればっかりは僕の気持ちだけで決めるべき事じゃないな、と思いながら三人の子どもをそれぞれ抱っこしてから部屋を出た。




