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後日譚101.事なかれ主義者はため口で話したい

 チャム様から加護を授かって三週間ほど経った。

 そのくらい経つとギュスタン様を通じてクレストラ大陸の国々からも加護の使用依頼が舞い込むようになった。

 慎重に加護を広めていきたかったけれど、僕の知らない所でチャム様の名が広がるのはまずい。

 それがこちらの広めたい姿だったらまだいいけれど、邪神の方の姿で出回るのは困る。

 慌ててムサシに連絡を取って、フソーのどこかに教会の建築をお願いした。布教活動はジュリウスが手配してくれるだろう。


「それで、加護は結局使うのですわ?」


 育生に離乳食をあげながらそう問いかけてきたのは金色のツインドリルがトレードマークのレヴィさんだ。

 出産してからもうすぐ半年がたつ彼女は、朝の日課である農作業も今日もしてきたのかオーバーオールを着ていた。

 他の皆も食事が終わっても離乳食を食べさせている様子を見るためか残っている。


「そうだね。ここ一週間くらいずっと考えたけど、やっぱり恩恵を感じた方が正しい姿は広めやすいよなって思ったから、とりあえず雨が降らなくて困っているアルソットを中心に使うつもり」

「アルソット……ダークエルフの国ですわね。水不足は魔道具で多少改善していると思ったのですけれど……?」

「それでも限度があるよ。以前は片手間で作ってたからそれほど量はないし、そのほとんどは大きな都市を中心に使われているみたい」


 人命に関わりそうで、緊急性の高い物は優先的にしていたので水を生み出す魔道具はそこそこ作っていた気がするけれど、雨が降ればそれが一番いいんだろう。

 ギュスタン様……というよりもファルニルから漏れたチャム様の情報を掴んだアルソットの女王陛下ナーディア・ディ・アルソット様から直々にお手紙が来たから流石に無視するわけにもいかない。

 ちゃんとした姿のチャム様を布教する事に協力してもらう事を誓文を使って約束してもらう事を条件にする事にした。


「わたくしの国もそうだけど、他にも依頼は来ているんでしょう? どうするつもりなのかしら?」


 小鳥のように可愛らしく首を傾げているのはガレオールの国の女王陛下であるランチェッタさんだ。今は丸眼鏡をかけているから目がぱっちりと開かれていて、眉間に皺が全くない。

 出産してからまだ二週間くらいしか経っていないので安静にしていて欲しいんだけど「緊急の用件だから!」と言ってちょくちょく仕事をしているのは知っているし、その都度ディアーヌさんと一緒に小言を言うのが最近の日課なりつつある。


「教会をしっかりと建設してくれたところから順番にしていくつもりだよ」

「そう。じゃあ、教会作りを優先的にさせないといけないわね」


 ガレオールはガレオールで北に広がる砂漠が年々広がっているのが問題となっているそうだ。

 また、海が荒れると漁に出る事も難しくなるらしいから、そこら辺をまじないの加護で何とかできないか、とアルソットからの依頼が来てからちょくちょく言われるようになった。

 シグニール大陸の他の国々からはアルソットから依頼が来る前から打診が来ていたけれど、実験をファマリアから見られていてそれが広まったんだろう。

 ドワーフたちの国から依頼が来たのは意外だったけど、あまり関わりがない所からも打診が来ている事を考えると加護の有用性はすぐに広まりそうだ。

 まあ、それもこれも僕がしっかりと加護を使って成果を上げれば、の話だけど。


「日帰りの予定だけど、三人共異変があったらすぐに知らせてね?」

「分かったデスよ!」

「………」

「ノエル、返事をしなさい! ……私も、何かあればすぐにお知らせしますね」


 一週間後くらいが予定日のパメラとノエルはいつも通り過ぎて心配はないけれど、エミリーはそわそわしているからちょっと心配だ。

 加護を授かっていない場合は早まったり遅くなったりする事が普通だから気長に待つしかない。

 パメラは小柄だからあまり体に負担を掛けたくないし、早い内に産まれるといいんだけど……こればっかりは神頼みするしかない。

 ……まあ、僕はチャム様以外とは縁が切れているらしいから祈っても意味がないんだろうけど。

 そんな事を考えながら、離乳食を食べるのを嫌がらずに食べ続ける育生を見守った。




 転移陣を使って大陸間を移動するのは久しぶりだなぁ、なんて事を考えながらレモンちゃんと一緒に世界樹フソーの根元に到着すると、縦にも横にも大きいギュスタン様と、縦にだけ大きいムサシが出迎えてくれた。


「主殿、よく来たでござるよ」

「出迎えありがと、ムサシ。……ギュスタン様も一緒に来るの?」

「いえ、今日はたまたまフソーのお世話だったので、ムサシ様に無理を言って出迎えさせてもらいました。この度は私のせいでチャム様の事が広まってしまい申し訳ございません」

「大丈夫ですよ。王様に聞かれたら答えないわけにもいかないと思いますし、それにシグニールでは広まっていたので時間の問題だったと思いますから。それよりも、ギュスタン様さえよろしければ一緒について来てくれませんか? 話し相手がいる方が気が楽なので」

「かしこまりました。……話し相手って言うと、話し方は堅苦しくない方が良いかな?」

「そうだねぇ。僕としてはそうなんだけど……流石に聖域から出る事になるからねぇ」


 一応、今日は世界樹の使徒が着る正装を着ている。これ以外に正装を持っていなかったのでそうしているけれど、これを着ているという事はエルフたちのトップとしてこの場にいる事になる。

 ギュスタン様とはだいぶ打ち解けてきたので、国が関係していない時はため口で話す時も増えて来たけれど、今回もお互い気を使いながら話すべきだろう。


「話し辛いですけど、しょうがないですよね」

「そうですね」


 苦笑いを浮かべながら同意してくれるギュスタン様と他愛もない話をしながら、ムサシが用意してくれた馬車に乗り込んだ。

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