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後日譚94.事なかれ主義者は試してみた

 元気になったドライアドたちを下ろしてから馬車は再びファマリアを出発した。

 普段行商人や冒険者たちが使っている道はある程度人が通っているから勝手に道ができていたけれど、今回はそれを使わず、今は道なき道を進んでいる。

 ガタゴトと揺れが酷いみたいだけれど、今乗っている世界樹の使徒用の馬車は魔改造済みなので何も感じない。

 目的地は不毛の大地の東側だ。北の方にはドラン公爵の領地を筆頭に、国内の貴族の領地があるから極稀に道じゃない所を通ってファマリアに向かってくる人がいるらしい。

 それは南西にあるユグドラシルや、南にあるエンジェリアも同様だった。

 東側にある山の向こう側には小国家群がひしめき合っているそうだけど、魔物の巣窟であり、尚且つ標高が高い山々を越えてやってくる人はまずいないらしい。

 そういう訳だからドラン公爵領の領主であるラグナさんや、ドラゴニアの国王陛下であるリヴァイさんからの返事は「好きにしていい」という事だけだった。

 本当は見学しに行きたい、という思いもあったみたいだけれど、ラグナさんは龍斗と顔合わせをする事を優先したし、リヴァイさんは最近サボりすぎていたのでそろそろパールさんに拘束されかねないから、と執務に励んでいるそうだ。


「誰かについて来てもらえばよかったかなぁ」


 ただ、ジューンさんは世界樹の使徒の代理人としての仕事があるし、セシリアさんやディアーヌさんは主の傍を離れるわけにもいかないだろう。

 出産してから二ヵ月ほど経ったラオさんとルウさんを誘ってみても良かったかもしれないけれど、容体は安定しているとはいえ出産して間もないのでお留守番してもらう事にした。

 もうすぐで産後五カ月くらいになるレヴィさんならもう大丈夫なのかもしれないけれど、陽太がいる事を考えるとちょっと誘い辛かった。


「いや、陽太がいる時点で全員誘い辛いか。そんなに独占欲強くない方だと思ったんだけどなぁ……」


 いや、独占欲というよりは好きな人を性的な目で見られたくない、という気持ちか……?

 こういう時、肩の上にレモンちゃんがいればレモンちゃんの相手をして時間を潰せるんだけど……なんて、軽くなった肩を何となく回しながら思った。




 暇つぶしでアイテムバッグの中に入れていた本を読んでいたら少し酔ってしまったかもしれない。

 ただ、結構な速さで進んでいたらしく、お昼前には目的地に到着していた。

 流石、グリフォンが引く馬車だ。


「……馬車か?」


 僕が首を傾げたら、僕を見ていたグリフォンもまた、首を傾げた。

 彼……か彼女か分からないけど、グリフォンはユグドラシルでのんびりと過ごしているグリフォンさんだ。通常のグリフォンと異なり、全身は真っ白な毛で覆われていて、赤い瞳なので間違いようがない。

 久しぶりに会っても覚えていてくれたようで、陽太と違って触っても怒られない。

 毛並みいいなぁ、なんて事を思いながら触ってのんびりしている間にも、周辺では陽太がめちゃくちゃ動き回っていた。

 彼は近寄ってくるアンデッドを加護によって会得した技を使って倒していく。

 飛ぶ斬撃なんて本当にあるんだなぁ、なんて最初は珍しく思っていたけれど、人間は慣れる生き物である。


「おい、いつまで遊んでんだよ!」


 一区切りついた陽太が僕の近くに着地すると文句を言ってきた。

 彼は自分の立場が分かっているんだろうか?


「そんな口をきいてもいいのかね? 僕の報告次第では君の評価に影響するんじゃないのかね?」

「ぐっ…………」


 陽太は今、僕からの指名依頼を受けてここにいる事になっている。

 僕の――というよりも、僕の代わりに報告してくれる予定のエルフたちの評価が散々な物だったら、依頼を無事に達成しても今後舞い込んでくるかもしれない依頼に何かしらの悪影響が出てしまうかもしれない。

 これからの事を考えた時に、それは避けたい事なのだろう。陽太は言いたい事を我慢したようで、舌打ちすると高く跳びあがってしまった。


「……ちょっと揶揄いすぎたかな?」

「いえ、シズト様が忠告しなければ我々がしていたので、運が良かったと思います」

「運が良かった? 揶揄われた事が?」


 僕の疑問に対してジュリウスは珍しく特に何も答えなかった。

 聞けば意味を教えてくれるだろうけど、敢えて何も言わないという事は聞かない方が良い事なのかもしれない。

 僕は気にしないふりをしながら大きく伸びをした。


「酔いも収まってきたし、そろそろ実験を始めようか」

「かしこまりました」


 今回の実験はどのくらいの魔力消費で加護が使えるか、という事がメインになる。

 実際どんな事ができるのかは他の加護を使っていた時と同様に、なんとなく想像する事ができたからある程度は分かる。

 晴れにしたり雨にしたり、風が強い日にする事も出来れば、全く無風の日にする事もできる。

 当然のように竜巻を生み出す事もできそうだし、雷を落とす事もできるようだった。てるてる坊主のイメージで気楽に貰った事を後悔するレベルの強そうな加護だ。

 ただ、大雪を降らせようと思えばできる事が分かったので、子どもたちに雪遊びを経験させたくなった時に活用できそうだ。

 心配な事があるとすれば、いずれもどのくらいの魔力が必要になるのかは分からない事だろう。

 これは今までの加護と同じく、体で覚えていくしかない、という事で天気がコロコロ変わっても影響がなさそうな僻地にやってきた、というわけだ。


「それじゃ、始めますか。陽太、しっかり周りの駆除お願いね」

「わーってるよ」


 ぶっきらぼうに返事をする陽太に一抹の不安を感じつつも、今回は彼の実力をしっかりと見定める良い機会だ、と思う事にして僕は服に付与されている身体強化魔法を活用しながら馬車によじ登った。

 足元からいきなりニョキッと生えてくるアンデッド対策としてジュリウスがグリフォンの背中の上の次に推奨してきたからきっとここも安全なのだろう。

 僕のすぐ近くは神聖ライトを持ち、仮面をつけたエルフたちが何人も固めてくれているので陽太がミスしても大丈夫、と思う事にして僕は加護を使う事にした。


「とりあえず、雨を振らせてみようかな」


 加護を使う時も魔法と同様イメージが大事だ。

 いきなり土砂降りの雨が降ってきたらずぶぬれになってしまうので、しっかりと小雨をイメージしながら「【天気祈願!】」と加護を使った。

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