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後日譚92.事なかれ主義者はちょっと後悔した

「シズト様、大丈夫ですか?」

「あ、はい。大丈夫です」


 祈りを止めて急に何か言った僕を心配してギュスタン様が話しかけてきたけど、問題ない。

 自分で作れないなら作れる人に頼めばいいのだ。


「ファマ様からの伝言を届けてくださってありがとうございました。もう日が暮れてますし、お帰りになりますか?」


 ギュスタン様は僕を心配そうに見ていたけど、しばらくすると「そうですね」と言った。

 ファマ様からのお願いを伝えるためにわざわざ来てくれた彼に何があったのか説明しても良かったかもしれないけど、時間も時間だし、なにより今は龍斗の事が気になる。

 いつの間にか日が暮れてしまいあたりが暗くなっていたので、ジュリウスが浮遊ランプを出してくれた。


「ありがと、ジュリウス。……あれ、モニカは?」

「祈りを捧げて反応が無くなってしまったシズト様の事を伝えるために先に本館に戻っています」

「そっか」


 夕ご飯の準備とかもあるもんね。ギュスタン様を見送ったら僕も戻ろう。

 明かりを頼りに転移陣へと向かい、ギュスタン様を見送った後はさっさと本館に戻った。

 本館の出入り口にはドライアドたちが待ち構えているかな、と思ったけれど、日が暮れたら眠る子が多いのでほとんどいなかった。いても地面に寝転がってうたたねしている子ばかりだ。

 僕の肩の上に陣取っていたレモンちゃんも舟を漕ぎ始めていたので、ジュリウスが回収してくれた。

 ドライアドたちを起こさないように気を付けつつ、警備のエルフさんたちに開けてもらった玄関から中に入ると、モニカが出迎えてくれた。


「ドーラさんは?」

「特に何事もなくお過ごしです。夕食の準備は既にできておりますが、いかがなさいますか?」

「じゃあ、先にご飯食べようかな」

「かしこまりました」


 チャム様の事と加護の事はその時についでに皆に話そう。




 食堂にはドーラさん以外は全員揃っていた。

 僕が入ってくるまでは食事はせず、談笑していたようだったけど、僕が入ってきた事で話が止まった。


「みんなお待たせ」

「大丈夫だったのですわ?」


 心配そうな表情でレヴィさんが話しかけてきたけど、それには「大丈夫だったよ」とだけ答えてとりあえず自分の席に座った。

 一ヵ月とちょっとで出産予定日を迎えるエミリーの代わりに、彼女たちの部下である女の子たちが配膳をし終えた所で食膳の挨拶をした。


「それで、何があったのですわ?」


 レヴィさんが再び聞いてきた。

 魔道具『加護無しの指輪』をしきりに触っている所を見ると、知りたくてしょうがないようだ。隠しているわけじゃないから加護を使ってもらっても構わないけど、僕の考えは僕の口から聞きたいらしい。

 ラオさんとルウさんもいつもの早食いをせずに僕を見ているし、あのノエルですら魔道具を見るふりをしながら横目でこっちを見ていた。

 話し始めたらみんな食事に手を付けてくれるのだろうか、と思いながら僕は口に入れた新鮮な野菜の数々を使って作られたサラダを飲み込んだ。


「チャム様にお呼ばれして加護を授かったんだよ」

「!? それは、よかっ……たのですわ…………?」

「どうなんだろうねぇ」


 チャム様は少し前まで邪神と呼ばれ恐れられていた神様だ、という事は部屋にいる全員が知っている。

 だからだろうか、微妙な表情の人が何人もいた。


「あ、加護は呪い関係じゃないから!」

「だろーな」

「どんな加護を授かったのかしら?」


 まだ食事を始める様子もないラオさんとルウさんの方を見て「天気祈願だよ」と答えた。

 それにいち早く反応したのは、出産予定日が来週に迫っているランチェッタさんだ。

 大地の神様に一番多く寄進をしているからか、特に妊娠の症状で悩まされている様子はないけれど、ドーラさんと同じく小柄なので出産が心配なお嫁さんの内の一人だ。

 そんな彼女は、大きく膨らんでいるお腹を優しく撫でながら首を傾げた。


「天気祈願……文字通りの加護だと思えばいいのかしら?」

「そうらしいね。占いの神様に吸収? されかかっててやばいから信仰を広めて欲しい、ってことだったよ。チャム様は別に吸収されてもいい、って思っている所があるみたいだけど」

「占いの神様というとアマテラスで信仰されている神様だったわね。……確かに、占いとまじないは似た様な部分もあるから混同されても不思議ではないわね」

「そうなんだ。……実際、どう違うんだろうね?」

「そこら辺はアマテラスの人に聞いた方が間違いはないと思うけれど……占いは結果が決まっていてそれを視る力で、まじないは神様の力を借りて結果を思い通りに捻じ曲げる力、なんじゃないかしら?」

「…………なるほど。占いが天気予報で、まじないは天候操作みたいな感じか」


 天候が安定しているファマリア周辺では使う機会がなさそうな加護だなぁ、なんて思いながら安定して手に入るようになった味噌汁を飲んだ。……赤味噌が良いなぁ。

 ラオさんとルウさん、それからノエルはいつも通り食事を始めたけれどまだランチェッタさんとレヴィさんは食事をするつもりはないようだ。


「どのくらいの影響があるか分からないけれど、随分と強力な加護ね」

「そうかな?」

「そうですわ! 農作業が捗るのですわ~」

「なるほど」

「使い方によっては雨をずっと降らせたり、逆に日照りが続くようにしたりして不作にする事だってできるんじゃないかしら?」

「あー…………なるほど」


 てるてる坊主くらいの気持ちで受け取ったけど、だいぶやばそうな加護だ。

 これは信仰を広める際に使う前にちょっとどこかで試した方が良いかもしれない。

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