後日譚91.事なかれ主義者は細かく聞いた
ギュスタン様とジュリウスに見守られながらチャム様に祈りを捧げる。
……具体的に何を祈ればいいんだろうか?
「別に、祈る内容はどーでもいいよ」
「え? あ、なつかしいな、この感じ」
声が聞こえて目を開くと、何もない真っ白な空間にいた。
目の前には憮然とした表情の男の子……って、下半身が蛇!
「人間共のせいでこうなってんだよ」
「えっと……なんか、ごめんなさい」
「ふん。まあ、別にどうでもいいけど」
そっぽを向いてしまったのは、上半身は人族の少年だった。
下半身が蛇で、上半身が人って神話に出てくる怪物みたいだなぁ、なんてつい思ってしまったら睨まれてしまった。
「こんな所にのこのこ来ただけでも呆れたのに、神の前で不敬な事を考えるなんて度し難い生き物だね、人間って」
「すみません、たぶん神様の前で不敬な事を考えるのは僕くらいだと思います」
前世ではほとんど無宗教みたいなもんだったし、神様の存在を信じてなかったから。
ファマ様たちにはとても感謝しているけれど、あの三柱との関わりは神様と人、というよりは子どもと接する感じだったしなぁ。
気を付けないと、と気を引き締めていると目の前にいた神様は「くれぐれもそうした方がいいよ」と言った。
「ただでさえお前には思う所があるからね。せっかく好き勝手出来てたのに、またこっちの世界で地獄を味わなくちゃいけないんだから」
蛇のような目をスッと細めて僕を見てくる神様の心を理解する事は出来ないけど、目の前の神様――おそらくチャム様が下界の人たちによって存在が変わってしまった事を最高神様たちから聞いていたので可哀想だな、とは思う。
僕にできる事があればしよう、と思ってチャム様の祠を建ててみたけれど、それだけでは見た目が元通りにはならないようだ。
「同情しろとは言ってないんだけど? っていうか、お前如きが見た目を変えようとしたところで今までの悪名が消えるわけじゃない。自業自得ってやつだ」
自嘲気味に笑うチャム様になんと声を掛ければいいか分からず黙っていると、彼はため息をついて僕を見た。
「別に、お前を困らせようとしてここに呼んだんじゃない。っていうか、会いたくなかったし」
「まあ……でしょうね。てっきりファマ様たちもいるかと思ったんですけど……?」
「いるわけないだろ。神降ろしをした人間がどうなるかは聞いていたんじゃないのか?」
「聞いてましたけど、神様であるチャム様にこうしてお呼ばれされたからもしかしたら神の奇跡的な感じでいるのかな、と」
「僕の場合は偶然が重なったんだろってクソジジイが言ってた」
「クソジジイ?」
「最高神だよ」
最高神様にクソジジイなんて言っていいんだろうか、と思ったけどチャム様はそれにはあえて触れなかった。
「一点目はお前が神降ろしをした際に僕は神界にいなかった事。それで、神降ろしの影響を受けなかったんじゃないかって事らしい。二点目は、一瞬とはいえ、同じ場所に僕たちがいた事。それで縁ができたんじゃないかっていう事らしい。だから、新たに神が生まれたとしても、お前は僕以外からは干渉を受ける事ができないってわけだ」
「…………なるほど?」
「散々邪魔してくれたから本当は加護なんて授けたくないけど、クソジジイの命令だから仕方なくお前に加護を授けてやる」
んー、断りたい気持ちがむくむくと湧いて来る。
「先に行っておくけど、受け取る以外の選択肢はないよ。あのクソジジイが僕に神力を与えて何度でも呼び出させようとしてるからね。面倒だけど、この一回で終わらせた方がお互いのためだと思うよ? それに、お前にも悪い話じゃないと思うけど? 身体強化魔法すら自力で使えないんだろ?」
「そうですね。子どもたちの事を考えたらできる事が多い方が良いんですけど………でも、また珍しい加護を授かったら縁談が舞い込んできそうだなぁって」
「知るか!」
結局、チャム様から加護を授かる事となった。
出来る事が増えるのは良い事だ、と思う事にした。
チャム様からは当然だけど呪いの加護ではなく、おまじない系の加護を授かる事にした。
昔はとても位の高い神様だったとの事で、いくつも種類があるらしく、選ばせてくれるらしい。
「具体的にどんなのがあるんですか?」
「まじないだったらどんなものだってある。クソジジイがお前のためだったら神力をある程度融通してくれるって話だったからな、新しいのも作れるぞ」
「なるほど……?」
「有名な所だと痛みを別の所に飛ばしてしまうものとかだな」
「ああ、痛いの痛いの飛んでけ~ってやつですね。……別の場所って具体的にどこに飛ばすんですか?」
「指差した場所」
……なんか使い方によっては凶悪な加護になりそうな気がしたので遠慮しておこう。
「あとは両思いにさせる加護とか、嫌いな奴と縁を切る物とかも有名かな」
「……それって人の精神に作用する系じゃないですか?」
「まあ、そうだね」
「やばくなりそうな未来が見えるので止めときます」
「わがままだな。じゃあどんなのがいいんだよ」
「んー、他の人に害を与えなくて、皆が喜ぶやつとか……?」
「誰かが喜んだら誰かが悲しむのが普通だぞ」
「じゃあ大多数の人が喜びそうな加護とかは?」
「………………ああ、あれがあったな。晴れにしたり雨にしたりするまじない」
「雨乞いとかてるてる坊主的な?」
「うん、お前のイメージであってると思うぞ」
なるほど。それならまあ多くの人が喜ぶような気もする。
「あ、もしかして雨を降らせたら他の地域で雨が降らなくなるとか……」
「ない。そもそも『おまじない』とお前が想像している科学的な事は全く別物だ。魔法ともちょっと違うし」
「なるほど……? じゃあそれで」
そういう訳で、再び神様から加護を授かった。加護の名前は『天気祈願』というらしい。
使うかどうかは好きにしろってチャム様は言っていたけど、今回の呼び出しとは別にしてほしい事があるそうだ。
「別に僕はどうでもいいんだけど、僕が占いの神に吸収されそうになってんだよね。僕は呪いも司ってるから、向こうからしてみたらいい迷惑なんだろうさ。だから、僕が吸収されないように信仰を広めるようにって言われてるんだよ」
なるほど。そこはまあ皆に協力してもらえば何とかなるような気がする。
一応、元エルフたちのトップだし。あ、今もそうかな? まだ育生も小さいしな。
うーん、と考え込んでいるとチャム様が「それじゃ、後は適当に頼んだよ」と言って別れようとしたので慌てて止める。
「なに?」
「信仰を広めるのは良いんですけど、見た目はどうすればいいですか? ほら、教会を作っていくとしても神様の像を飾らないといけないので……」
「好きにすれば?」
「いやいやいや、そういう訳にはいかないので!」
僕たちが暮らしている世界の人たちの信仰のせいで姿が変わってしまったとファマ様たちからは聞いているので、そこは慎重にいかないと。
「その姿が気に入っているならそのままのイメージで作りますけど」
「…………気に入ってると思うの?」
「あ、はい。失言でした」
ジト目で僕を睨んできたチャム様に謝罪して、チャム様の元々の姿をヒアリングした。
チャム様は面倒がってはいたけれど、聞いた事には答えてくれたので細かいところまでしっかりと作りこめそうだ。
そう思いながら元の場所に戻してもらったけど、そこでふと思い出した。
「もう加工の加護無いじゃん」




