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後日譚90.事なかれ主義者はフラグが立っている気がした

 ドライアドを引っ付けたまま出産も司っている大地の神様の教会に礼拝しに行ったら驚かれたけど、無事に寄進も済ませる事ができた。

 そのおかげかは不明だけど、ドーラさんは夕方頃に無事に子どもを産む事ができた。

 僕はいつも通り廊下に追い出されていたので、窓に張り付いているドライアドを数えて気を紛らわせていたけど。


「今回もやっぱり出番はなさそうね」

「僕としては姫花に出番がある方が嫌だわ」


 姫花は「まあ、そうよね」とだけ言うと聖女の加護を持つ女性たちの方へと向かった。

 出産してしばらくの間は家族の交流の時間、という事で産婆さんたちを残して部屋から出て行ってもらっている。

 ただ、すぐには入らない。室内の片付けとか、母子の様子の確認だとか諸々あるらしい。


「シズト様、準備が終わりました」


 産婆さんの一人が扉を開けてくれたので、僕はお礼を言って中に入る。

 ドーラさんの部屋は大きな盾と金属鎧が置いてある事以外は女性らしい可愛らしい小物が多く置かれている部屋だった。

 ぬいぐるみなどはもこもこな物が多いのを見ると、泡で遊ぶのが好きなのにも納得できる。

 部屋の奥の方に置かれているベッドに横たわっていたドーラさんは僕に気付くと顔だけこちらに向けた。

 まだ起き上がる元気はないのかもしれない。


「シズト、早く入るのですわ」

「あ、うん」


 僕の後からついて来たレヴィさんに促されてベッドの方へと向かうと、レヴィさんを筆頭にお嫁さんたちも室内に入ってくる。幾ら広いと言っても部屋に十数人いると狭く感じるわ。


「ドーラさん、お疲れ様」

「ん。男だった」

「そうなんだ。じゃあ龍斗だね」

「ん」


 龍斗と名付けられた男の子はまずは最初に僕が抱っこする、と決まっているようで産婆さんたちが準備していた。

 僕はとりあえず抱っこしやすいようにいつもよりマシマシでくっついているドライアドたちを手の空いていたお嫁さんたちにそれぞれ持ってもらって……レモンちゃんは剥がれなかったので諦めた。


「ちょっと小さい……かな?」

「ドーラちゃんが小柄だからかしら? シズルちゃんも、ランカちゃんも大きかったわよね?」

「どーなんだろうな」


 僕の上から覗き込んでいたラオさんとルウさんが産んだ子どもたちは確かに他の子たちよりも大きかった気がする。

 個人差なのか、それとも遺伝なのか……あんまり大きすぎると母体に負担がかかるとかも聞くし、そこら辺も関係しているのかもしれない。


「リュート、こっち見るのですわ~」

「レヴィア様、まだ目はあまり見えてないと思いますよ」

「そ、そんな事わかってるのですわ!」

「抱かせて~」

「抱かせろ~」


 レヴィさんとセシリアさんはドライアドをしっかりと抱っこしながら龍斗を見ていた。

 まだ一人につき一人だから抑える事ができているようだ。

 近くで静かに控えているジュリウスは、魔道具『鑑定眼鏡』で龍斗を見ながら多くのドライアドを引っ付けているけど、手の届かない絶妙な距離感を取っているからドライアドたちも諦めて……いないな。目が合ったら髪の毛を伸ばして主張してくる。

 ジュリウスはさらに距離を取りながら「ドーラ様と同じ加護を授かっています」と教えてくれた。


「今回は加護を授かってたから安産だったんだね」

「ん、神様に感謝」

「レモ~ン」

「ちょ、レモンちゃん、分かったから髪の毛をわさわさ動かさないで! 首に当たってくすぐったいから!」


 レモンちゃんが髪の毛を伸ばし、布に包まれた龍斗をしっかりと掴むと、持ち上げて自分が見えやすい所まで持ち上げた。

 レモンちゃんが満足したら次はさらに騒ぎ始めたドライアドたちだ。同じ体験をしたがるのでこればっかりは仕方がない、とお嫁さんたちも諦めているのか見守ってくれている。

 その様子をドーラさんと一緒に見守っていると、扉がノックされた。

 入ってきたのは黒髪黒目の女性モニカだ。もうすっかり体調は回復したようで、メイド服を着て雑務をこなしつつ子どもたちの面倒も見てくれている。

 そのモニカは騒いでいるドライアドたちをぐるりと見回した後、僕で視線を止めた。


「どうしたの、モニカ」

「ギュスタン様がいらっしゃってます」

「ギュスタン様が?」

「はい。どうやらファマ様から神託を授かり、それを伝えに来たそうです。詳しい事はギュスタン様がご説明があるかと思います。まだ外でお待ちですが、いかがなさいますか?」

「そうだね……ドーラさんも龍斗も大丈夫そうだし、今すぐ行くよ。神様たちに生まれた事をお伝えするのと、ドライアドたちを外に出すために一度出る予定だったし。ほら、みんな抱っこしたよね? 外に出るからおしまいだよ」

「はーい」

「ばいば~い」

「またねー」

「レモン!」


 お嫁さんたちとジュリウスに預かってもらっていたドライアドが全員僕に引っ付いた事を確認してもらってからモニカと一緒に外に向かった。

 外に出ると、縦にも横にも大きな男性が、畑の様子を見て回っている所だった。

 ドライアドたちは見慣れているから特に警戒している様子もない。

 レモンちゃん以外のドライアドたちが僕から離れていく間に男性が僕に気付いた。まあ、賑やかだもんね。


「お待たせしました。モニカから神託があったと聞きましたが、僕に関係がある事ですか?」

「はい。言われた事をありのままお伝えすると『チャ、チャムの祠の前でチャムに対してお祈りして欲しいんだなぁ』だそうです」

「まじないの神様に? まあそのくらいだったらすぐにできますけど……ギュスタン様も来ますか?」

「お邪魔じゃなければ」


 ギュスタン様とモニカ、それからいつの間にかついて来ていたジュリウスと一緒に歩く。

 祠まではそこまで時間がかからないけど、道中は暇だったのでギュスタン様にファマ様の容姿が変わってないか聞いてみたけど、どうやら声だけが聞こえたとの事で、見た目は分からないらしい。

 神様の姿を見る事ができるのは相当勇者の血が色濃く出ている子孫か、勇者本人くらいだそうだ。

 そういえば以前そんな話を聞いた事があるようなきがするなぁ、なんて事を考えながらチャム様の祠まで歩いた。

 チャム様の祠はファマ様たちの祠の近くに建てた。近くにあった方が管理するのが楽だから、というのとお祈りがまとめてできて楽かなって思ったからだ。

 ただ、加護を失ってから祠を作ったので、三柱の祠よりはちょっと地味な感じになってしまっている。

 観音扉を開いても後光は指していないし、像もアダマンタイトじゃなくて金で作られた物だった。


「……わざわざお祈りしてって言うんだったら何かありそうだな」


 神様たちとの縁は既に切れてしまっているはずだけど、ギュスタン様にわざわざ神託をしてまで伝えるって、何か起きますよって言われているようなものだと思う。

 立ったままだと危ないかもしれない、と思っていつものお祈りをする時のスタイルである両膝をついて座った。服が汚れるけど、魔力が流せば汚れが落ちる魔道具があるので問題はない。

 何が起きるんだろうか、と思いつつも心を無にしてからチャム様に対して祈りを捧げた。

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