後日譚87.ちびっこ神様ズは驚いた
自分たちの秘密基地に占いの女神ディヴィネと、彼女が連れてきた下半身が蛇のような見た目の男神を招き入れたエントは、水晶にシズトの赤ん坊たちの様子を映したままどんな人に加護を与えるか話し合っているプロスとファマの下へ戻ってきた。
流石にエントが知らない二柱を連れてきたらプロスとファマも話し合いを止めてエントの方を見た。
「ディ、ディヴィネ様がこんなところになんのようなんだな?」
「同じ中級神になったんだ。様なんて付けなくていい。ちょっと相談したい事があったから来たんだ」
「そ、そうなんだなぁ」
「わかった! 助け合いってやつだね!」
「お、お互い様ともいうんだなぁ」
「まだ話の内容を聞いてないよ……? 安請け合いはできないよ……?」
「なに、大した話じゃないさ。今話題の異世界転移者にこの子の事を伝えて、信仰を広めて欲しいんだよ。ほら、アンタからも言いな」
「…………別に、僕はどうでもいいし」
ディヴィネに促されても男神はそっぽを向く。
その様子を見てディヴィネは深くため息をついた。
二柱の様子を見て、エントたちは顔を見合わせ、エントから彼に話しかけた。
「チャムくん、だよね……? 最高神様と一緒にいるようにって言われてるはずだけど、ディヴィネさんと一緒にいるのはどうしてなのかな……?」
「おせっかいな婆さんが連れ出したんだよ。別に僕はもう下界に関わる気なんて一切ないからこのままでいいのにさ」
「ど、どういう事なんだな?」
「どうもこうもないさ。もともとチャムが司っていた『まじない』は『占い』と混同されやすいものみたいでね。占いの一部、なんて解釈が以前からされていたんだけど、こっちに戻ってきたチャムが私に吸収されかかってるんだよ。呪いの神を信奉する者は今はもうほとんどいないから、まじないの神に対する信仰で存在を維持するしかないんだけど……昼間は異世界転移者が作った町で暮らしている子たちがこの子の事も含めてお祈りしてくれてるから何とかなってるけど、夜になると体が透けてしまって今にも消えそうになってしまうのさ」
「大変じゃん! どうしてチャムは信仰を広めないの!?」
「もうそういうのは懲り懲りなんだよ。それに、分かってるの? 僕を広めるって事はまた呪いの力も広められかねないって事。欲深い人族共が、まじないの部分だけを信じます~、なんて都合のいい事する訳ないでしょ?」
エントたちは何も言い返せなかった。
実際、エントたちは人間たちの信仰によって、新たに共通して『退魔』を司る事になっていた。また、個別に見ていくと『雪だるま』や『浄化』、『不変』などを司るという事にもなっている。
複数の事を司るようになった事もまた、中級神になった理由でもあった。
「僕が加護を授けなくても、そういう神だという信仰が広まってしまえば僕はそれを授けるしかない。そうしないと逆恨みした人族どもによってさらに異形の存在になってしまうからね。僕が僕でなくなるのならいっそ、いなくなった方が苦しまなくて済むでしょ?」
「と、いうわけで自分からは信仰を広めようとしないんだ。下界にいた頃はこの子に対する恐れが力になっていたけど、ここじゃ祈りしか力に変わらないからね。なんとかしてこの子の事を広めよう、と思っていたところに邪神だったこの子と間接的に戦った異世界転移者がこの子のための祠を作ったのを思い出してね」
「あー…………そういえば作ってたかも?」
「最高神様に言われたのかもしれないね……?」
「こ、ここに来た理由は分かったんだなぁ。で、でもオイラたちもシズトとは話せないからどうしようもないんだなぁ」
「神々と縁を切った者に干渉できない事は知ってるよ。でも、彼に近い人物に加護を授けたんだろう? 天啓でも授けて、この子の事を報せて欲しいんだよ」
「最高神様に言えばいいじゃん」
「あの御方の力を借りるくらいだったら、私が神託を授けている子に代わりに伝えるように言っているわよ。ただ、あの子よりもギュスタンとかいう子の方が適任だって占いの結果で出たからね」
「ふーん……あ! イクオが浮いた!」
プロスはそういうものなのかな、と思ったようだったが視界の端に入れるようにしていた水晶玉の映像の中に動きがあったのにすぐに気づいて水晶玉を覗き込んだ。
水晶玉の中にはイクオと呼ばれた赤子が宙に浮いている。
「シ、シズトがいるんだなぁ?」
「周りの人たちもみんな見てるからきっとそうだよ」
「今日もいつも通りみたいだね……?」
「へぇ、神降ろしをするとこういう感じになるんだねぇ」
ディヴィネも机の真ん中に置かれた水晶玉を覗き込む三柱と一緒に様子を見ている。
そんな四柱を見て、チャムは小さな声で呟いた。
「…………いるっていうか、映ってんじゃん」
チャムの一言によって騒いでいた三柱は固まった。また、ディヴィネも目を丸くして三柱と同様にチャムを見た。
「な、なんだよ」
四柱から凝視されてたじろぐチャムだったが、水晶玉を覗き込んでいた下級神以下の者たちは我関せず、と言った感じで水晶玉の中をジッと見ていた。




