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後日譚85.お嫁さんたちは共有した

 ドラゴニア王国の最南端に広がる不毛の大地は、以前までは夜になると暗闇が広がっていた。

 だが、世界樹が生え、その周囲にファマリアという町が出来上がると、魔道具によって大通りは常に照らされるようになった。

 明るい時間が増えれば、その分人々の活動時間が延びるのだが、町で暮らしている首輪を着けた者たちには門限が厳しく決められており、真夜中まで出歩いているのは他所からやって来た者たちくらいだった。

 昼間の活気が消えているのはファマリアだけではない。世界樹ファマリーの根元も、昼間の喧騒が嘘のように静かになっている。

 昼間は屋敷の壁をよじ登って窓から中を覗き込んでいるドライアドたちも、真夜中の見回りだけ残して姿を消している。

 町に住んでいる奴隷たちも、ドライアドたちも寝静まった夜遅い時間だったが、それでも起きて活動している者たちがいた。

 世界樹の根元に建てられた本館と呼ばれている三階建ての建物で暮らしている者たちだ。


「それで、結局どうなったのかしら?」


 そう問いかけたのは身長が二メートルほどある大柄な女性ルウだ。

 普段は後ろで一つにまとめている長くて燃えるような赤い髪は下ろしている。

 寝間着として使っている服は、薄地のタンクトップとパンツでシズトがいれば「目のやり場に困る」というような出で立ちだったが、服装について注意する者はいなかった。

 出産してからそれほど経っていないが、体調は問題ないようだ。睡眠もしっかりと取れているようで、目の下に隈はない。


「まあ、予想通りの結果だったわ」


 ルウの問いかけに答えたのは、シズトと一緒に迎賓館に赴き、ミスティア大陸から来た使者との会談に同席した女性の一人ランチェッタだ。

 腹部を締め付けないようにワンピース型の寝間着を着ていた彼女は、大きく膨らんだ腹部を優しく撫でながら苦笑いを浮かべた。


「シズトや子どもたちに来た縁談の申し込みは全てお断りしていたわ。特に子どもたちに来たそういう話は即答していたから、今後もそうだと思うわ」

「あら、シズトくんに来たお話はすぐには答えなかったの?」

「断り辛かったようですわ~。あれもこれも断りすぎかな? って思ってたみたいですわ」


 もう一人の同席者であるレヴィアが肩をすくめてルウの質問に答えた。

 魔道具『加護無しの指輪』を嵌めずに会談に参加したので、シズトの気持ちも、使者たちの思惑も手に取るように分かっていたようだ。

 寝る前だが金色のツインドリルとシズトから呼ばれている縦巻きロールは健在で、その先っぽの方を細い指で弄っている。


「それでも断る所はシズトらしいわよね」

「そうですわね。ただ、向こうも加護を返還してしまって神様たちとの縁が切れてしまったシズトには以前ほど魅力を感じていないのか、食い下がってくる事はなかったのですわ」

「それはそれで複雑な気持ちになるわね」


 顔を顰めたルウに同意するようにレヴィアも「まったくですわ」とため息をついた。


「でもぉ、その分シズトくんとの時間が減らなくてよかったんじゃないですかぁ? ねぇ、エミリーちゃん」

「わ、私に振らないでよ!」


 ニコニコしながら隣に座って尻尾のブラッシングをしていた狐人族のエミリーに話しかけたのはエルフのジューンだ。エルフ特有の緑色の瞳は、尻尾をボワッと膨らませたエミリーを面白そうに見ている。


「じゃあシーラちゃんに振ればいいのかしらぁ?」

「こ、こっちにも振らないで欲しいじゃん!」


 反対側に座って我関せず、と言った感じで栗毛色の尻尾をブラッシングしていたシンシーラに顔を向けたジューンは楽しそうだ。他の者と話す時は基本的に敬語だが、獣人組とはだいぶ打ち解けてきたようだ。

 その様子をルウの姉であるラオが何となく見ていたが、ふと思い出したように口を開いた。


「転移門の件はどうするつもりなんだ?」

「シズトの気持ちが変わらない限りは現状のままだと思うのですわ」

「エルフに命令をする事ができるのはシズトだけだから仕方ないわね。ガレオールとしても自由に転移門を使う事が出来たらより発展するんだけど……」

「ジューンは世界樹の使徒の代理人デスよね? ジューンが言ってもダメデスか?」


 黒い翼がトレードマークの翼人族の女性パメラが、両隣の獣人と談笑していたジューンに問いかけたが、ジューンはゆっくりと首を振った。


「私はぁ、ある程度の裁量権を持っていますがぁ、世界樹の番人たちへの命令権はありませんので無理ですぅ。門を守っているのはぁ、世界樹の番人たちですからシズトちゃんの命令しか聞かないんですぅ」

「そうなんデスか? 野菜の水やりをする時に手伝ってもらってなかったデスか?」

「あれはぁ、あくまでお願いですからぁ。私のお願いよりもぉ、シズトちゃんの命令の方が優先なんですよぉ」

「ジューンですらその対応だったら使徒の代理人でもなんでもないわたくしたちが言っても動かないのは当然よね」

「そうですわね。ただ、シズトも転移門についてはその場で答えるほど強固な意志があるわけじゃないですし、迷っているみたいですわ」

「そう。じゃあ相談されたら提案してみようかしら」

「それが良いと思うのですわ~。会談に関しては後は特に重要な話はなかったのですわ。今度はイクオたちの今日の様子とか教えて欲しいのですわ~」


 レヴィアがそう尋ねると、それまで静かに話を聞いているだけだったメイド服姿のモニカが話し始めた。

 それを補足する形で他の面々も話をしたり、時折話が脱線して関係ない話をしたりしていたので談話室の明かりは夜遅くまでついたままだった。

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