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後日譚84.事なかれ主義者は断固拒否した

 ミスティア大陸に広がる大樹海にドライアドが関係してそうな気がするけど、確証はないので後日確認しよう、と気持ちを改めて他国の使者の方々と話を続けた。

 話は当たり障りのない所から始まった。

 英雄譚としてエルフたちがせっせと布教しているらしい邪神騒動の事についてとか、ミスティア大陸の国々の情勢についてとか。

 ミスティア大陸は大樹海を挟んで東と西に分けられていている。

 レベッカさんの国ギャンバラは大樹海の西側にある国だ。

 過去の勇者たちが西側の国々を一つに統一し、それを人数でできる限り平等になるように割って国を興したそうだ。だから国境はまっすぐな直線である事が多いらしい。


「今回は先んじてイルミンスールに赴き、転移門を設置した私たちが招かれた、というわけです。ギャンバラから伝わる情報で安全だと分かった残りの七か国も、予備として作って頂いていた転移門を設置し終えたようですよ」

「タカノリさんから聞いてます。ビッグマーケットをいくつかに分けるほど賑わっているそうですね」


 呪いが蔓延して活気が失われていたイルミンスールばかり見ていたからあまり想像ができないけれど、悪評はだんだんと薄れてきているようだったので良かった。

 ちょっと向こうのドライアドとお話をするついでに今度見てみようかな。


「そうですね。西の八か国間でも遠い距離にある国々との交易もできるようになり大変賑わっております。ただ、やはりイルミンスールでしかやり取りできないのは不便ですね。できれば、他国にも転移門を使って行く事ができるようになると良いのですが……」


 おっと、余計な事を考えている場合じゃなさそうだ。

 レベッカさんを見ると真面目そうな表情で僕の方をジッと見てくる。眼鏡越しに切れ長な目と目があった。黒に近い茶色の瞳はやはり勇者から遺伝したのだろうか?


「各地に設置してある『転移門』は、通ろうと思えば誰でも通れますよね? 私たちの国では賭け事が盛んなので、他国の方々がいらっしゃってくれないと国が潤わないんです。シズト様がお好きなボードゲームのおかげで多少他国からのお金は入ってきておりますが、それ以上に出て行くお金が多いんです」

「あー……貿易摩擦的なアレかな」


 今までの話を聞く限りだとギャンバラは名産品と言える物はそれほど多くない。

 どちらかというと観光業が盛んで、わざわざ賭け事をするために海外からやってくるギャンブラーもいるそうだ。

 ギャンバラとしては、より多くの人々にやってきてほしい、という思いがあるようだ。

 転移門も、使用制限の解除がされる事を見越して国の中で一番大きな国営のカジノがある場所のすぐ近くに建ててあるらしい。


「他の方々もそうなった方が良いんじゃないでしょうか?」

「それはどうかしら? 私たちは今のままでも十分な気がするわ」


 ノルマノンの使者であるジャンヌ様は首を傾けてそう答えた。

 彼女たちの国から来る商人は、大樹海から溢れてくる魔物を倒した際に手に入る素材や、大樹海の浅い所で手に入る珍しい植物をビッグマーケットで売っているそうだ。

 ギャンバラのように名産品はそこまでない、との事だったけれどあんまり乗り気じゃないのは、ギャンバラと違って産業が偏ってないからだろうか?


「ルンベルク国は私たちと同意見ですよね?」

「ん~…………」


 首を体ごと傾げて考えるドワーフの女性エルメンガルト様は、目を瞑ったまま考え込んでいる様子だったけど、パチッと目を開けると「そうですね!」と大きな声で元気よく言った。


「出入りできる商人がどうしても限られてしまいます。我々の国に来てもらえればそれだけ私たちの作品を買い取ってもらえるかもしれません」

「そうですね。ルンベルク国の鍛冶職人が作り上げた武具は有名ですし、宝飾品も王侯貴族の間で持つことが一種のステータスになってますから。それに、腕に覚えのある冒険者の方々がルンベルクのダンジョンに挑戦しに行きやすくなりますし」

「なるほど、確かにそうですね!」


 ダンジョンの事はエルメンガルト様はあまり詳しく知らないらしいけど、確かに多くのダンジョンがあればそれだけ冒険者がやってくる可能性は高くなるだろう。

 冒険者が来れば宿にお金を落とすだろうし、ダンジョンさんの物がたくさん手に入る。

 トラブルはもちろん増えるだろうけど、メリットは大きいのだろう。

 先程よりも元気な声で「是非、制限の撤廃を!」とお願いしてきた。

 どうしたものかな、とランチェッタさんとレヴィさんをチラッと見たけれど、二人は僕の考えをひとまず聞こうと考えているのか紅茶を優雅に飲んでいるだけだった。

 うーん、と考え込んでいると、アビゲイルさんがおずおずと手を挙げた。


「実は私の祖国からもある程度の制限の解除の要請が来てます。邪神の信奉者が本当にいなくなったのか調査しやすくするため、という建前もあると思いますが、どちらかというと魔法学校の関係があるように思います」

「というと?」

「フィールドワークがしやすくなる、とか遠く離れた国から留学しに来ている方々が帰りやすくするため、とかもあるかと」

「…………なるほど。一旦持ち帰って検討させてもらっていいでしょうか?」


 気軽に許可したら影響が計り知れないけど、断固拒否してもそれはそれで何か問題があるかもしれない。

 転移門や転移陣に関しては慎重に動いて行きたい、という答えは提案者のレベッカさんも予想していたのだろう。彼女はこの件に関しては食い下がる事はなかった。ただ――。


「転移門の事はひとまず置いておくとして、もう一つシズト様にお話したい事がございます」

「なんでしょうか?」

「前任の世界樹の使徒であり、事実上のエルフのトップであるシズト様との関係を深め、エルフの国々との関係を良好なものにしたいと考えております。つきましては、シズト様の御子様のどなたかと我が国の姫君の婚約を申し出たいです」

「あ、ウィズダム魔法王国のバンフィールド公爵家以外の公爵家からも縁談の申し込みがあります。是非、付与神の加護を授かった子と婚約をしたい、との事です」


 うん、まあこっちが本命の話だよね。

 とりあえず笑顔は崩さないようにしつつも丁寧にお断りしておいた。

 レヴィさんとランチェッタさんからの視線が気になったけど、まだ産まれたばかりの我が子たちに政略結婚させるつもりはない!!

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