後日譚77.事なかれ主義者は健闘を称えた
三位決定戦が終わり、舞台の修繕も速やかに行われた。
これから始まるのは今日行われる最後の御前試合。舞台には二人の男女が立っていた。
男女比が同じくらいになるように配慮したのかと思ったけど、実力で選んだからたまたまだそうだ。
「どちらもユグドラシル出身のエルフで、世界樹の番人の候補にも挙げられていた二人です。男の方がジュラハード。下級ですが、水と風の精霊と直接契約を交わしています」
「さっきの二人は契約を交わしていなかったの?」
「はい。大会出場者の中で精霊と契約を交わしていたのはユグドラシル出身の者だけでした」
「へ~……契約を交わしているとやっぱり有利なの?」
「そうですね。どのような場所でも呼び出せて一定の力を発揮できるのは大きいと思います。長い年月精霊と共に過ごしている内に精霊の格が上がれば、より強力な力を発揮できるようになります。そのため、戦闘職のエルフはまずは精霊と契約をするところを目指します」
「なるほど」
紹介されたジュラハードはエルフたちの中では珍しく重装歩兵、という感じの格好の人だった。
大きくて長い槍に、白銀に輝くミスリル製の鎧を身に着けている。
「女の方はジュリエル。下級精霊ですが、光の精霊だけではなく、精霊の中では数が少ない雷の精霊とも契約を交わしています。両者とも片方の精霊は補助的に使う事が多いようですが、育てば強力な個体となる可能性を秘めている精霊と契約してますね」
「……ちなみに精霊って育つまでにどのくらいかかるの?」
「そうですね。個体差はありますが数百年はかかります。一代だけでは上級精霊にならない時もありますから、次の世代に継承する事も多々あります」
「なるほど」
ユグドラシル出身のエルフたちは別格の強さだったのは精霊と契約を交わしていたからのようだ。
紹介が終わったのが伝わったのか、両者向かい合い、審判の合図とともに試合が始まった。
最初に動いたのはジュリエルだ。
彼女は重装歩兵っぽいジュラハードとは真逆で、とても軽装だった。魔物由来の素材っぽい革鎧を着ていて、最低限の所だけ守られている。
そんな彼女は速さに極振りしているかのような戦い方だ。
短剣を両手に持ち、雷鳴と共に動き回る彼女の動きは目で追えない。光の軌跡で彼女がどこを通ったか分かる程度だった。
今まではその速さで一方的に相手を切り刻んでいたけれど、ジュラハードの守りは強固なのか傷つける事ができていないようだった。
ジュラハードは守りには自信があるのか、果敢に槍で攻撃を仕掛けている。
だが、今までの戦いと比べると攻撃が単調だった。
「雷による感電を恐れて水の精霊魔法を使わないようにしているようですね。契約している精霊の力が強ければ電気を通さない水を魔法で生成できますが、下級の精霊だと難しいのでしょう」
「なるほど……? じゃあどちらも攻め手に欠けるって事?」
「そう言う訳ではありません。雷の精霊と契約しているジュリエルは速さに重点を置いて魔法を行使していますが、攻撃の際に雷撃を相手に浴びせる事もできるはずです。また、今のところ目くらましや回復などでしか使っていない光の精霊魔法も、使い方によっては固い防御を突破する力を持っています。対するジュラハードは、風の精霊魔法を鎧に纏わせる事で防御に活用しているようですが、その力を攻撃に回せば勝機はあるでしょう。また、相手に利用される事を覚悟すれば水の精霊魔法を使う事もできます。今はお互い、出方を窺っているだけかと」
よく分かんないけど、ジュリウスがそう言うのならそうなんだろう。
視線をジュリウスから舞台上に戻すと、丁度動きがあった。
ジュラハードが高く高く跳躍した。精霊魔法も併用しているのだろうか? 落ちてくる事はなく、空中に留まっている。
ジュリエルは地上から無数の雷撃を飛ばして攻撃しているが、ジュラハードさんはギリギリのところで避けていた。
「彼女はどうして追わないの?」
「空中を移動する手段がないのでしょう。雷の如く地上を走り回れても、空中を走る事は出来ない、という事でしょうね。今までは一瞬で勝負がついてしまっていたのでそれに気づく事ができなかったのでしょうが、ジュラハードはユグドラシルで行われた代表選抜大会や、決勝戦までの本大会で行われた試合を通して弱点を探っていたのでしょう。ジュリエルの敗因は、最初に様子見をしてしまった事でしょうね。全力の一撃を初手で放っていればあるいは勝利を手にする事ができたのでしょうが……殺傷する事は禁止されている大会だったので選ぶ事が出来なかったのでしょう」
そこから先は一方的な試合だった。
ジュラハードが放つ広範囲の風と水の精霊魔法を避けきる事が出来なくなったジュリエルが降参して決勝戦が終わった。
その後、優勝記念のトロフィーを労いの言葉と共に渡したら、ジュラハードは男泣きをしたけれど、誰も馬鹿にする事はなく、拍手喝采を浴びていた。




