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後日譚74.事なかれ主義者は堪えた

 ファマリアの南区には円形闘技場をはじめとした大きな施設が区画整理によって作られている。

 徒歩で移動するのはいろいろと問題があるので馬車を使って会場入りした。

 馬車から降りるとたくさんの視線を感じたけど、熱烈な歓迎ムードが苦手だと知れ渡っているのでチラチラと見てくる程度だ。


「レモンちゃん、じっとしててね」

「れもん」


 義母のパールさんによる指導のおかげで、レモンちゃんを肩車した状態でも姿勢を保っていられるけど、流石に肩の上で動き回られたら維持できないからね。

 レモンちゃんもピシッと背筋を伸ばして微動だにしなくなったのを感じつつ、馬車から出てきたレヴィさんに手を差し出す。

 いつもの農作業用のオーバーオールではなく、豪華なフリフリなどもついたドレスを身にまとっていて、いつも以上に綺麗だった。

 金色の髪は太陽の光を浴びて煌めき、青い瞳は宝石のようだ。胸元は大きく開いていて、魔道具によって作られた大きな胸が目立つ。

 視線が胸の方に吸い寄せられないように気を付けつつ彼女を連れて会場に入った。


「…………? 静かすぎない?」

「そうですわね。きっとシズトを待っているのですわ」

「れもーん。れも~~ん」


 普段なら駐屯しているドラン軍の人たちが訓練場として使っているから建物内の廊下を歩いていても声が聞こえてくるけど、今は僕たちの足音と声しか聞こえない。

 レモンちゃんは微動だにしないまま声が響く廊下で遊んでいるようだ。

 メイド服姿で静かに僕たちの案内をしているセシリアさんの後をついて階段をあがったり廊下を進んだりしていると、時折警備の人っぽい人族の兵士さんとすれ違う。

 レモンちゃんを肩車しているのはいつもの事だからか分からないけど、誰も微動だにしない。

 僕も彼らを見かける度にシャキッとするのを意識するので、何とか今のところぼろは出ていない……はず。


「れも~~~~~ん」

「そろそろ到着します。お静かにお願いします」

「…………もん」


 セシリアさんに注意されたレモンちゃんの事は置いといて、周りに気付かれないように気を付けつつ深呼吸した。

 大きな扉が見えてくる。アレがVIP席に繋がる扉だったはず。

 両開きの扉のすぐ近くには先程からすれ違っていた兵士の装備よりも豪華な鎧を身に着けた者たちが立っていた。

 ……あの人たちって普段レヴィさんに扱き使われている近衛兵だった気がする。本来の仕事をしているはずなのに何だか違和感を感じるなぁ、なんてどうでもいい考えが頭をよぎったのを見透かされたのか、ギュッと強く手を握られた。


「準備はよろしいでしょうか?」

「問題ないのですわ~」

「うん、大丈夫」

「レモン」

「かしこまりました。ではここからは私は後ろに控えております。何かございましたらお申し付けください」

「分かった。……あ、入る前にちょっと一個だけいい?」

「なんなりと」

「念のため一回試してほしい」


 何をとは言わなかったけどそれだけでセシリアさんは察したようだ。

 隣にいたレヴィさんも察しているようだけど特に動きはない。

 セシリアさんがサッと動いた。

 レモンちゃんの髪の毛も同時に僕に巻きついた。


「…………引っ張った方がよろしいでしょうか?」

「結果は分かってるから結構です」


 一度肩の上に乗るとそうそう離れないから仕方ないよね。

 レモンちゃんを下ろす事は諦めて姿勢を正して扉の前で立つと、近衛兵の方々が扉を開けてくれた。

 ゆっくりと歩く事を意識しながら扉をくぐると、太陽の光が僕たちを照らす。

 そして、眼下に広がる光景が目に入ってきた。

 円形闘技場の観客席を埋め尽くすほどエルフたちが大量にいる。席に座れなかったエルフたちは立ち見をするつもりなのか、通路にもぎっしりと詰まっていたし、空にもぷかぷか浮いている人たちもいた。……いや、あれは警備の人か? 仮面をつけているようにも見える。

 スタジアムには既に選りすぐりの選手たちが列を成していた。今日行われる大会だけではなく、明日以降の出番の人たちもいるようだけど、全員エルフの正装である真っ白な布地の服を着ていた。


「…………めっちゃいるじゃん」


 僕の小さな声は、大歓声によってかき消された。

 彼らに答えるために手を振ると、さらに声が大きくなった。

 収拾がつかなくなるのではないか? と思ったけど、僕が手を振るのを止めると段々と声が小さくなっていき、再び静寂が会場を包んだ。

 ゼロか百しかないのかこのエルフたちは! なんて事を思いながらもセシリアさんが目の前に用意してくれた魔道具『集音機』に魔力を流す。

 会場中に設置された魔道具『拡声器』と繋がっているか、マイクテストマイクテスト、って言いそうになるのを堪えた。


「おはようございます。本日はお日柄も良く、絶好の大会日和となりました。選手の皆様は悔いのないように全力で事に当たって頂ければと思います。観客の皆様には是非選手たちの応援をしてください。それでは、よろしくお願いいたします」


 最初の挨拶の相談を皆にしてみたけど、僕の言いたい事を言えばいいとだけ言われたので当たり障りのない事しか言えなかった。

 それでもエルフたちには満足して貰えたようで、闘技場の外にまで聞こえそうな大歓声をエルフたちが発している。

 開会の挨拶とかもパールさんにご指導してもらった方が良いのかなぁ、なんて思いながらも反射的に頭を下げそうになるのを抑えた。偉い人は簡単に頭を下げないらしい。

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