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後日譚72.箱入り王女は寝落ちした

 ドラゴニア王国の南に位置する所にある神聖エンジェリア帝国の首都には皇族が住まう巨大な城があった。

 真っ白な塗料で塗られたその白の謁見の間には二人の男女がいた。

 一人は神聖エンジェリア帝国の第四王女であるオクタビア・デ・エンジェリアだ。

 父親とは全く似ておらず、ツリ目がちな目は髪と同じく紺色で、小柄な少女だった。

 齢十五にして大人顔負けの女性らしい体つきをした彼女は胸元が大きく開いたドレスのまま父であるアルスリア・デ・エンジェリアに今回の件について報告をしていた。

 その報告を聞いているアルスリアは尊大な態度で彼女を見ていたが、他の者からの情報と相違がない事を確認すると「もうよい」と彼女の話を遮った。

 加護を授かった異世界転移者の子どもと婚約する事ができなかったのは残念だが、元々可能性が皆無に等しい賭けのようなものだった。

 それよりもさらに成功率が低いと思っていた異世界転移者本人との結婚の約束を結ぶ事が出来たのは奇跡に等しい事だった。


「此度の一件、大儀であった。今後の事を話し合う必要がある。部屋に戻り待機せよ」

「はい」


 おそらく皇帝派の上層部で話し合いをするのだろう、とオクタビアは特に気にする様子もなく謁見の間から出て長い廊下を歩き、自室へ戻った。

 自室に戻った彼女はファマリーで見た数々の物を報告書にまとめていたのだが、それが一段落したところで専属侍女であるセレスティナが話しかけた。

 現在、皇帝派の一員であると周囲から思われているオクタビアだったが、実際は既に反皇帝派に所属していた。


「シズト様の後ろ盾を得る事ができた影響でフェルナンドが所属していた公爵派と私が所属していた博愛派がまとまり、第四王女派になる事でまとまったとフェルナンドから報せがありました」

「そう。フェルナンドは?」

「オクタビア様が不在の間に任された職務の関係でこちらに顔を出す事ができないそうです。そのため、当初の予定とは異なり私が派閥をまとめて会合をする手はずを整えています」

「大丈夫なの?」

「はい。現皇帝派は今回の大戦果に浮かれて浮足立っていますから、多少目立つ行動をしても気が付かないでしょうから」

「……国をまとめる派閥としてどうなのかしら」

「仕方がない事でしょう。それほど今回の婚約は影響が大きいんです。お相手のシズト様は加護を返還されたとはいえ邪神騒動の結果、民衆から熱烈な人気があります。他種族を側室に迎えている、という事でトラブルになる可能性はありますが、それは時間が解決するでしょう。国際的に孤立しているエンジェリアですが、シズト様と家族になった事で再び仲間入りできるはずだ、と外務貴族派が皇帝派にすり寄ってますし、領地貴族はおこぼれに与ろうと何やら動き始めているみたいです」

「皇帝派が再び力をつけ始めないかしら?」

「それぞれの派閥に使者を送っていますからそれ次第でしょうね。ただまあ、情勢を見る事ができる者たちはこちら側につくでしょう」

「そう…………であるならば、猶更私は気を引き締めなければいけないわね。三年の猶予を貰ったけれど、その間に国をしっかり立て直しつつ、シズト様に見限られないような女性にならないと」


 オクタビアは決意を新たに、報告書の作成を再開した。




 その後、一ヵ月の間に大きく事が動いた。

 力を弱まっていた皇帝派は異世界転移者と自派閥の女性が婚約を結んだというのに他派閥の者たちの協力を思うように得る事ができなかっただけではなく、第四王女派の噂を掴んだ有能な者たちは鞍替えをしていったためさらに力を弱めた。

 会談が行われた一週間後には皇帝派以外の派閥は、異世界転移者との婚約の話が出回ると第四王女派の傘下に入った。

 それからさらに一週間後には皇位簒奪の準備が整っていたのだが、平和的に事が進む事を願ったオクタビア――というよりも争い事が嫌いと評判の後ろ盾に配慮して血が流れる事がないように皇帝派の切り崩しを進めて行った。

 二週間後には皇帝派と呼ばれる派閥の殆どは鞍替えしてしまい、皇帝と第一王子の味方はほとんどいなくなってしまった。残ったのは派閥のトップに近い者たちばかりだった。

 彼らは以前から噂されていた邪神の信奉者との繋がりがあった、という事実が広まっても彼ら自身が過去に接点があったため鞍替えをする事ができなかったようだ。


「即位おめでとうございます」


 豪華な白いドレスを身にまとい、冠を頭の上に載せたオクタビアに対して恭しく頭を下げたセレスティナが祝いの言葉を述べた。

 婚約が決まった会談から一ヵ月後、平和的に皇位継承を終えたオクタビアはやっと一息つける、と深く息を吐いた。


「お父様とお兄様は?」

「監視を置いておりますが今の所目立った動きはありません」

「そう。何かしらしてくると思ったけれど、本当に何も力がないのね」

「加護を取り込んできませんでしたからね。我々の派閥は貴族ばかりですから加護を授かっている者も一定数いますから抵抗しても無駄だと理解しているのかと」

「邪神のために加護を血筋に入れて来なかった事が仇となったのね。……諸外国に向けた戴冠式の事は明日以降でもいいかしら?」

「構いませんが、出来るだけ早く動いた方がよろしいのでは?」

「そうだけど、ちょっと疲れたわ」

「左様でございますか。かしこまりました。では、こちらでできる事はこちらで対応しておきますので本日はゆっくりお休みください」


 セレスティナは恭しく礼をした後、部屋から出て行った。

 一人残されたオクタビアはこの一ヵ月の事を振り返り、ろくに寝てなかった事を思い出した。平和的に事が運ぶように心血を注いでいたため睡眠時間を削っていたのだ。

 自覚すると体に疲れがどっと押し寄せるように感じた彼女は、着替えるのも億劫だと椅子に座ったまま目を閉じた。

 その日、オクタビアが目を覚ます事はなかった。

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