61.事なかれ主義者のしたい事
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ルウさんと一緒に緊張しながらお風呂に入った後は寝間着に着替えて眠るだけ……なんだけど。
僕の広い部屋についてきたルウさんとホムラが揉め始めた。
「マスターを寝かしつけるのは私の仕事です。新参者は引っ込んでなさい」
「待って? そんな仕事ないよ?」
「お姉ちゃんがお世話するからホムラちゃんはゆっくり休んでていいのよ? マーケットで露天商をするんでしょう? 朝早くに起きないといい所はなくなってしまうわ」
「ルウさんルウさん、お世話はもういいかなーって思うのでホムラを連れて部屋から出てもらえると嬉しいなぁ、って」
「マスターのお世話が終わってから露天商をするので心配無用です。あなたこそ、マスターのお世話をする時間があるなら鍛錬に励むべきでは? 長い間眠っていたのなら体が鈍っているかと思いますが」
「お世話をせずに露天商しに行ってもいいと思うんだけどなぁ?」
「呪いの加護の影響か分からないのだけれど、肉体的に衰えとかはないのよ~。ホムラちゃん心配してくれたのね! ありがとー、お姉ちゃん、嬉しいわ!」
むぎゅっと抱き付かれたホムラを眺めていると、ひょいっと後ろから騒ぎを聞きつけてやってきたタンクトップにパンツ姿のラオさんに抱き上げられた。
そのままベットに問答無用で運ばれ、「おまえ、さっさと寝とけ」と寝かされた。
安眠カバーの効果ですっきり快眠目覚めの良い朝だったが、起きた時にはホムラしかいなかった。
「ローテーションでマスターのお世話をする事になりました、マスター。今日は私です。しっかりお世話させていただきます」
「そういうの、私たちの仕事だと思うんだけどな」
そんな事を朝食の準備をしていた狐人族のエミリーが呟いたけど、ホムラはスルー。
必要ないからお願いしてなかったけど、確かに奴隷の仕事かもね。まあ、そういう事は奴隷を雇った際に断っておいたんだけどね。
とりあえず何か言いたげなエミリーの視線を受け流しておいて、エミリーが準備してくれた朝食を食べる。
「他の皆は今なにしてるの?」
「ノエルは魔道具作りをさせています、マスター。ノルマを達成させるために椅子に縛り付けておいたので勝手に抜け出す事はないでしょう」
「そ、そう。無理させないようにね」
「休息はしっかりと取らせたので問題ないかと、マスター。レヴィア様とセシリア様、ドーラ様は木の世話をしに行きました。ルウ様とラオ様は護衛がてら、ついていっています。私は食後、マーケットに行く予定です。何かご要望はありますか?」
「んー、とりあえず情報収集を継続してお願い。販売の方は定期収入があるからそこまでしっかりしなくてもいいからいろんなところで話を聞いてほしいかな。まだ木の事で騒ぎになっていないんだよね?」
「今の所は話に上がっていません、マスター。ユグドラシルに行ったものが帰ってきていない、と商人の間で話がでているようですが、そこはこの街の領主や国が対応する事だと思われますので、マスターが気に病む事はありません」
「あの木の事で何かしらの厄介事が起こると思うからそういう話がないか、聞いてきて」
「かしこまりました、マスター」
「あとはあの木の事を誰にどこまで話すかをちょっとしっかり考えないとね。まあ、そこら辺は向こうで考えてくるよ」
「かしこまりました、マスター」
無表情でそう言う彼女の口元をハンカチで拭いながら、どっちが世話してるか分かんないな、とか思っていたらエミリーも同感の様だった。
世界樹は今日もニョキニョキニョキニョキ伸ばす予定だ。
まだドランからは見えなかったけど、そのうち見えるようになるだろう。騒ぎになるのは明白だし、面倒事がやってくるまでには周囲の防衛方法を確立しておきたい。
とりあえず、結界の外には地面を鉄で覆った。どういう理屈か分からないけど、土の中から魔物が出てくるので土を覆ってしまえばあいつらは外側から歩いてくるしかない。時々、鉄の上を歩いていると、足元から物音がするのが怖いけど、それ以外は問題ない。
いい加減ドランの屑鉄がなくなるんじゃないか不安になるのであと少ししたらひとまず切り上げようと思う。
「ドーラさん、ラオさんとルウさんは?」
「外の魔物狩りしてる。体が鈍らないように、って」
「ドーラさんはしなくていいの?」
「私は常にしてる」
まあその金属鎧も大きな盾もとても重そうだもんね。
そんな事を思いながら【加工】で鉄の床の範囲を広げ続けながら考える。
世界樹の事を誰にどこまで話をするのか。
少なくとも、ドラン公爵には伝える必要があるだろう。
ドラン公爵に話したら多分この国の王様にも話す必要がある。っていうか、レヴィさんがいる時点で筒抜けな気もするから今更か。
その内、献上品とかした方がいいんだろうな、きっと。
まあ、とりあえず育てろと言われたから育ててるだけだし、木から取った物と引き換えにいろいろしてくれるなら好きにしてくれればいいんだけどさ。
「そういう事は気にしないでいい」
「そうかな?」
「そのために私たちがいる。シズトはシズトがしたい事をしてればいい。シズトは何がしたいの?」
僕のしたい事か。したい事、ねぇ。
「死ぬ時に楽しかったな、って思えるように生きたいかな」
「そう。……頑張って楽しませる。明日のお世話は私。期待してて」
「え、ドーラさんもお世話ローテーションに組み込まれてんの? なんで?」
「それが私のしたい事だから」
ドーラさんは眠たそうな目を細めて、微笑んだ。
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