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後日譚63.事なかれ主義者は判断に迷った

 ドタウィッチ王国からの使節団を率いてきた使者の人は何というか……軽い印象の人だった。


「どーもどーもどーも! ドタウィッチ王国第一王子のコーニエル・ドタウィッチでっす!」

「音無静人です。よくお越しくださいました」


 黒い髪に黒い瞳、それから挨拶にハグではなく握手を求めてくるあたり、なんか日本人っぽいなぁ、と思うけれど顔立ちはこっち側の物だった。

 使節団の人たちはみなお揃いのとんがり帽子にローブを纏っているけれど、彼だけはちょっと豪華な装飾が施された物を身にまとっていた。


「無事に三柱の加護を授かったお子さんたちが生まれたそうで馳せ参じました! いやぁ、でも流石ドラゴニア王国。動きが素早いですね! 私たちは転移魔法を使ってまで飛んできたっていうのに、それよりも早く動くんですから」

「いや、今回に関してはドラゴニアだけの力ではない。シズト殿の恩恵が大きいな」

「ほぉ、そうなんっすね! 詳しいお話も聞きたいですけど、まずは贈り物をお受け取りくださいな」

「え、あ、ありがとうございます」


 だいぶフランクな人が来たなぁ、なんて思っていたらいきなり話を振られたので狼狽えてしまった。

 ただ、リヴァイさんもコーニエルさんも見ていたはずなのに気づいた素振りもせずに話をしている。


「ドラゴニアの祝いの品と比べるとマニアックな物しかないかもしれないけど、使ってもらえたら嬉しいっすわ」

「有難く使わせていただきます。ジュリウス」

「ハッ」


 僕がジュリウスの名を呼べばそれだけで彼には何が求められているか分かるようだ。

 エルフたちに指示を出してテキパキと荷物を受け取っていた。

 その様子を感嘆した様子でコーニエルさんが見ていた。


「いやぁ、あの閉鎖的なエルフたちのトップに君臨し、扱き使えるなんてシズト様流石っす!」

「それほどでもない、と思いますけど……とりあえず、中に入って話をしましょうか」

「中に入れてくれるんすか! まじ感激っす!」


 ……ほんとにいろいろと軽そうな人だなぁ。

 第一王子って事は、今の僕の立場は世界樹の使徒っていうエルフたちのトップだから彼よりも目上の存在になるはずなんだけど、最低限の礼儀以外はかなぐり捨ててるような感じがする。

 まあ、迎賓館の中に入った後は僕も堅苦しいのは慣れていないからそうなるんだけど……なんて事を思いながら再び迎賓館の中へと足を踏み入れた。




 元の部屋に戻ると、侍女と一緒におすまし顔のドライアドたちが壁際に控えていた。

 それにすぐに気づいたコーニエルさんは一瞬固まったけど「彼女たちがドライアドっすか。可愛いっすね」と言った。


「留学生のラピス・フォン・ドラゴニア様が彼女たちの生態についてまとめているのを読ませてもらったけど、まだまだ分からない所とかあるんすよね」

「そうみたいですね。あ、どうぞおかけください」

「ありがとうございます」


 僕が礼を言った所で、先程までずっと黙ってついて来ていたリヴァイさんが厳めしい顔でコーニエルさんを睨むと口を開いた。


「コーニエル殿、シズト殿が注意をしないから私から申させてもらうが、貴殿の先程からの口調はどうにかならんのか?」

「…………あれ、シズト様はフランクな方が好きそうだと愚考しましたが、違いましたか?」

「まあ、どちらかというと堅苦しくない方がいいですけど……」

「そうですよね。私、そういう事を見極める目だけは自身があるです。……それで、話し方はどちらの方が良いでしょうか?」

「えっと……どっちでもいいですよ?」

「そうっすか! わっかりました~。じゃあ、こっちの方がシズト様も話しやすいそうなのでこっちの話し方で話します。あ、あと社交の駆け引きとかもお嫌い……というか苦手なんですかね? そう言う風に見えるんで単刀直入に今回の訪問を話させてもらうっすよ」

「あ、はい」


 手っ取り早くて助かるんだけどそれでいいのか?

 対応の練習した意味……は、エンジェリアからも使節団が来るみたいだし、今後もこういう事があると思うから全部が全部無駄ってわけじゃないんだろうけど……。


「まず一つ目の目的は言うまでもなく結婚のお祝いっす。これは嘘偽りないっすよ。エンジェリア帝国よりも先に祝いの品を持参する事が目的だったので既に達成しちゃってるな。あ、どうもありがとうございます」

「レモン!」

「このドライアドたちは作物をシズト様以外にも渡すんすねぇ」


 そんな事を言いながらコーニエルさんは顔色一つ変えずにレモンを丸かじりしてしばらく咀嚼すると飲み込んだ。

 ……レモンなんて丸かじりする人初めて見たかもしれない。ドライアドを含めればいくらでも見た事はあるんだけど……。


「それで、二つ目っすね。ぶっちゃけ、私の箔付けという所があると思うっす。お恥ずかしい話、三十になるまで表舞台にあまり出なかったので立場的にちょっと弱いんすよ」

「なるほど……?」

「まあ、そのおかげでシズト様が好きそうな話し方が身に沁みついているんすけどね~」


 別にノエルみたいな話し方が好きってわけじゃないんだけどな。

 まあ、黒髪黒目であることや距離感も日本人っぽいし、ノエルと話し方が似ているから好感が持てるけど。


「そして最後の三つ目は、一つ目と被るんすけどエンジェリアの動向を見るため! なーんか、動きが怪しいなぁ、とは思ってたけど今回本格的に自分から動く情報をキャッチしたんでね。これは探りを入れなければ、と。シズト様さえよければ、使節団と会う時に同席させてもらえたら嬉しいんですけどぉ、ど~っすか?」

「どうって言われても……」

「ああ、もちろん何が何でも同席したいってわけじゃないっすよ。どっちにしてもしばらくファマリーに滞在する事にはなるからあわよくば間近で使節団の人となりを見たい、ってだけですし。ただ……ドラゴニア側は同席するつもりだったんじゃないでしょうか?」


 コーニエルさんは、リヴァイさんに向けて話す時はくだけた言い方を止めて真面目そうな表情になっていた。

 リヴァイさんはそんな彼をしばし見つめた後「……第三者として見守る程度だがな」と口を開いた。


「それに混ぜてもらうだけでいいんで! ほんと、だまーって端っこの方で見てるだけでもいいんで! なんだったら護衛として紛れ込む事もできると思うっすよ!」

「ん~……とりあえず、保留で」


 分からない事はその場で決めなくてもいいって言われていたし、ちょっと持ち帰って皆に相談しよう。

 ……ていうか、リヴァイさんも同席しようとしていたなんて、エンジェリアって信用がない国なのかなぁ。



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