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後日譚60.事なかれ主義者は断固反対

 ラオさんとルウさんが無事に出産した翌朝、ご飯をもぐもぐと食べていると報せが届いた。


「リヴァイさんたちが来る? なんでわざわざ手紙で伝えてくるの? いつも勝手に来てるじゃん」

「普段は非公式の訪問ですわ。今回は、公式の会談を希望しているみたいですわ」


 出産直後は金色のツインドリルが無い日もあったレヴィさんだけど、今日は彼女の顔の横ら辺にドリルは健在だった。

 服装も見慣れた農作業用のオーバーオールを着ている。お腹に負担をかけても問題ないからオーバーオールじゃなくてもいいんだけど「ポケットが多くていい感じなのですわ!」と気に入ったようだった。ポケットの中には魔道具を使うために必要になる魔石などが詰め込まれている。

 ドレスにポケットをたくさんつければ、ドレスを普段着るようになったかもしれない。今はもう加護がないのでアイテムバッグ化できないから試す事は出来ないけど。


「どうやらエンジェリア帝国よりも先に、出産祝いをしたいみたいですわね」

「エンジェリアも来るの? 聞いてないけど……」

「先触れが来ていない所から考えて、エンジェリアはまだ準備をしている段階じゃないかしら?」


 綺麗な姿勢で座って食事を進めていたランチェッタさんが話に入ってきた。

 このあたりでは見ない褐色肌の女性だ。ショートヘアーの髪と同色の灰色の目は真ん丸で可愛らしい。目が悪いので丸眼鏡をかけているけど、あれを外すと目つきが鋭くなって眉間に皺が寄る。

 小柄で、童顔なので幼く見えるけど、僕よりも年上のれっきとした大人の女性だ。

 シグニール大陸の南西にある海洋国家ガレオールの女王なので、国同士のやり取りはレヴィさんよりも詳しい。


「その準備段階の動きをドラゴニアが掴んだんじゃないかしら?」

「へ~、なるほどね」


 レモンを使ったマーマレードをまんべんなく焼いたパンに塗りながら相槌を打つ。

 朝の日課のお祈りをしている際に肩の上に乗ったレモンちゃんは話に興味はなく、片手に持ったレモンを差し出してくる。


「今塗るのに忙しいから後でね」

「れもん?」


 レモンちゃんは納得いかないのかレモンをグイグイと押し付けてきたのでそれを受け取り、壁際に控えていたジュリウスにしまっておくようにお願いした。

 僕以外で室内にいる唯一の男性の彼は僕の専属護衛と化しているけど、世界樹の番人と呼ばれるエルフのエリート集団のリーダー的な存在だ。

 エルフは美男美女ばかりの種族なので彼もまた美青年だった。

 エルフ特有の金色の髪は動きやすさ重視のために短いから見た目で女性と思う事はないけど、髪を伸ばしたら女性と勘違いする人も出てくるかもしれない。

 ジュリウスは僕からレモンを受け取るとアイテムバッグの中にしまい、代わりに一通の書状を取り出した。


「どうやらドタウィッチ王国も同様の情報は掴んでいるようです。ユグドラシルを経由して出産祝いのための使節団を派遣したいという内容が書かれた書簡が届きました」

「なんでユグドラシルに?」

「どうやらユグドラシルの領土内に転移してからドラゴニアの地に足を踏み入れるつもりの様です。その許可が欲しいようでした。いかがいたしましょうか?」


 いかがいたしましょうかって言われてもなぁ……どうなんだろう?

 返答に困ったので、ランチェッタさんを見る。


「……この場合は許可しておけばいいのかな?」

「そうね。恐らく転移魔法をを用いた転移でしょうし、人数に限りがあるでしょうからいいんじゃないかしら? 私だったら許可するわ。エンジェリアよりも先に使節団を派遣した、という状況に持っていきたいという向こうの思惑に乗れば、エンジェリアが何か言ってくる可能性も若干少なくなるでしょうし」

「そうなの?」

「たぶんね。エンジェリアの目的はおそらく私たちの子の誰かと自国の子の結婚の約束を取り付けたいんでしょうね」

「断固拒否! ……って、言いたいところだけど、王侯貴族の間では政略結婚が普通なんだっけ……?」


 僕、王侯貴族じゃないけど、奥さんたちの中には偉い立場の娘さんもいるからなぁ……。その子たちは結婚の約束を迫られるのは普通なのか……?


「王族ともなると、産まれる前から相手が決まっている、なんて事も稀にあるわ。ただ、自由恋愛を是としている国もあるから一概にそうとは言い切れないわね。ここに関してはその子の両親……シズトと私たちの誰かが納得するか否かでしょうね」

「なるほど。じゃあ僕は反対で」


 子どもたちには自由に過ごしてほしいからね。

 これ以上の話し合いはお断りしたい……けれど、向こうから勝手にやってくるんだから相手をしないわけにもいかない、という事でドラゴニアとドタウィッチそれぞれに返事のお手紙を書く事になった。

 ……僕はまだ公式の手紙を書けるほど知識はないので、ジューンさんとレヴィさんにやってもらった。


「ここら辺も覚えないとなぁ……」

「焦る必要はないのですわ。一つずつゆっくり覚えて行けばいいのですわ~」

「それもそうね。サポートするためにわたくしたちがいるわけだし」


 レヴィさんとランチェッタさん、それから他のお嫁さんたちと楽しそうに談笑しているジューンさんには今後もお世話になるんだろうなぁ、なんて事を考えながらパンを齧った。

 ……ちょっと塗りすぎたかもしれない。

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