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後日譚48.事なかれ主義者はできる事を増やしたい

 ラヴォー侯爵がマルセルさんたちを連れ帰ってから数日が経った頃、再び使者がやってきたと報告が入ったので、僕たちはまたアドヴァン大陸にやってきていた。

 転移した街が前回と違う事や、街の規模が大きくなっていたり、領主の館が豪華になっていたりする事は気にしない方がいいんだろうなぁ……。

 なんて事を考えているとランチェッタさんに咳払いされたのでシャキッと気を引き締めて部屋まで歩く。

 どこで誰が見ているか分からないから、立ち振る舞いは常に気を付けるように言われているのだ。


「こちらでお待ちです」

「ありがとう」


 案内をしてくれたエルフにお礼を言うと、開けてもらった扉をくぐる。

 今回は護衛の人数が増えていた。それもそのはず、相手はこの国の王様だ。

 マルセルさんたちを他の大陸に連れて行った成果だろうか? 思った以上に動きが速かった。ランチェッタさんは想定の範囲内だったみたいだけど。

 用意されていた円卓の一番奥まったところに移動し、椅子に座らずに使者を見る。

 王冠を頭に乗せた男性は、この世界では珍しい肥満体型だった。


「余がエドガール・ド・サンレーヌである。時間を取って頂き感謝する」

「こちらこそ、お越しいただきありがとうございます。静人・音無です。こちらは妻のランチェッタ・ディ・ガレオールです。今回の一件は妻が統治している国で起きた出来事なので、彼女と話をして頂ければと存じます」


 僕は言うべき事を言い終えると、エルフに引いてもらった椅子に腰かけた。

 前回は僕が自己紹介をしなかったので紹介される事もなく終わったようだったので、今回は最初にしてみたんだけど……ランチェッタさんに咳ばらいをされなかったという事は問題行動ではなかった、という事だろう。

 隣に腰かけたランチェッタさんに視線を向けると前を向くようにと言いたげな雰囲気だったので視線を元に戻す。

 サンレーヌ国王もまた椅子に腰かけていたが、先程までランチェッタさんをじろじろと見ていたのに、今度は僕を値踏みするように見てきた。


「それで、今回も和平交渉をしに来た、という事でよかったかしら?」

「相違ない。今回の件に関してはこちらに非がある部分が多い。可能な限りそちらの要望に応える故、占領している土地から兵士をひいて欲しい」

「……話が速くて助かるわ。では、こちらの条件を提示させていただくわ」


 ランチェッタさんは真面目な表情で淡々と要求を伝えていく。

 まず、今後の交易船団の安全の保障と、今回の騒動の発端となった出来事に関する謝罪と賠償。

 それから、僕が進行している三柱の教会を各地に作り、布教する事を認める事。

 さらに、交易の際にかかる税などを免除する事。

 その他、破棄した場合の罰則など細々とした事をランチェッタさんが言う度にエドガールさんは「分かった」と首を縦に振った。

 話が一段落着いたところで、エルフの内の一人がサンレーヌ国王の前に一枚の紙を置いた。


「以上の事を誓文書にまとめておいたわ。問題がなければサインを」

「…………うむ」


 サンレーヌ国王は問題がない事を確認し終えると、スラスラとサインした。

 これで今回の騒動は一段落、と言った所か。

 ランチェッタさんに目で合図をされたので僕が席を立つと、ランチェッタさんたちも僕に続いた。

 サンレーヌ国王も立ち上がったが、どこか慌てた様子だった。


「ちょ、ちょっと待て。今後の交易について、まだ話をしておらんぞ」

「何の事かしら?」

「マルセル侯爵から話を聞いたが、貴殿らの国々は転移門と呼ばれている魔道具で繋がり、交易をしているそうじゃないか。この大陸にもその魔道具を設置するのであろう? その話し合いを――」

「ああ、それの事。残念ながら、あの魔道具に予備はないの。新しく手に入ったら検討させていただくわ。行きましょう、シズト」

「あ、うん」


 ランチェッタさんに促され、サンレーヌ国王がポカンとしている間に、そそくさと部屋を出た。




 その後、特に問題もなくファマリーに戻って来れた。

 抱っこしていたクーを別館に返してから本館の談話室へと向かう。

 そこではランチェッタさんが他のお嫁さんたちに話をしている所だった。

 焼き菓子が用意されていたので、ジュリウスが引いてくれた椅子に腰かけて焼き菓子に手を伸ばすと、ランチェッタさんが咳払いした。

 姿勢を正すと、彼女は満足したように頷く。


「常に意識をしておくのが大事なのですわ」

「結構疲れるんだけど……」

「慣れですわ」

「そうね」


 ランチェッタさんはレヴィさんに同意すると、紅茶を一口飲んだ。

 その動作も洗練されていた。


「お家の中だったらちょっとくらい気を抜いてもいいんじゃないかしら?」


 ルウさんが僕をフォローするためにそう言ってくれたけど、ランチェッタさんとレヴィさん、それからモニカまで首を横に振った。


「今後も他国の王侯貴族と関わっていくのならば、意識せずにできるレベルになるまでは続けるべきよ」

「頑張ります……」


 出来れば関わりたくはないけど、いつもランチェッタさんやレヴィさん、モニカが対応できるとは限らない。

 なにより加護を失い、僕自身ができる事がほとんどない事を痛感したので、得手不得手はあるだろうけど、少しでもできる事を増やしていこうと思う。


「とりあえずお母様に協力してもらうのですわ!」


 レヴィさんはそう言うと、手紙を書くために部屋から出て行ってしまった。

 お手柔らかにお願いしたいなぁ……。

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