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後日譚41.事なかれ主義者はお茶会に混じった

 転移陣の機能を見せてから代官のアントナン・ジョスランはすっかり大人しくなった。

 ランチェッタさんはそんな彼にいくつか質問すると、部屋から出て行く。

 見張りを残して、ぞろぞろとランチェッタさんに続いた。

 ランチェッタさんは、遮音結界を設置した部屋に移動すると、ため息をついて椅子に腰かけた。


「面倒な事になったわね。まさか領主だけじゃなく、国王もある程度知った上での行動とは思わなかったわ」

「そうなの?」

「はい。嘘は言っていないようでした」

「それは……確かに面倒そうだね」


 下の人が好き勝手していると上の人にチクればそれで終わりだと思っていたけど、まさか上の人間が悪さをしているとは……。


「それで、どうするの?」

「……そうね。大きく分けて二つかしら? 王都に向かうか、向こうが来るのを待つか。どちらにせよ、魔動船があるこの街を拠点にしたいところだけど……流石に大軍を動かしたら向こうも何かしらの行動に出てくるわよね?」

「そうでしょうね。そのため、トネリコ出身の精鋭はここで待機させ、ユグドラシル、フソー、イルミンスールそれぞれの兵士たちで構成した軍を指揮して周辺の街を制圧していくのはどうでしょうか。サンレーヌ国の地上の軍隊は外側を守る経験はあっても、内側に入られた時の対応はほとんど経験したことがないでしょうから」

「そうね。こちらの犠牲は最小限に抑えたいところだけど、下手に時間を掛けて水軍が集まってくるのは避けたいわ。それで……最初はどこを攻めるつもりかしら?」

「この地を治める貴族の領都です。領主は基本的に領都から出て来ないそうですから、こちらから出向く事にしました。魔物相手の城塞都市のようですが、既に先遣隊を送っています。今日の夕刻頃には壁の内側に潜入しているかと」

「そう。……じゃあ、うまくいくか分からないけど、とりあえず領主を夜襲してもらっていいかしら? できれば無傷で捕まえたいわね」

「かしこまりました。極力無傷で捕えるように伝えておきます」


 ランチェッタさんとジュリウスが話をしている間にも周りの兵士たちはどんどん部屋から出て行く。

 二人の会話を聞き、その準備をするためなんだろうけど、二人の気が変わってしまったら準備が無駄になっちゃわないかな?

 ああ、でもさっきランチェッタさんが「あまり時間を掛けたくない」って言ってたし、それはないか。

 ……もしくは僕が気づいていないだけで何かしらのサインを兵士たちに送っているのだろうか?

 二人が会話をしている時の動作を注視する。


「それで――ああ、これは失礼いたしました。シズト様もどうぞお座りください」

「え? いや、別に大丈夫だけど……」


 魔道具『パワースーツ』のおかげでクーとレモンちゃんを抱えていても疲れは感じない。

 だけどジッとジュリウスを見ていたから僕が不満を抱いてしまったと勘違いさせてしまったようだ。

 彼は部屋に残っていた兵士と一緒に手際よく机と椅子をならべ、テーブルクロスを敷き、クーを僕から引き離すと椅子に座らせた。


「ちょっと、お兄ちゃんの膝の上はあーしの場所なんですけど?」

「レモン!」

「ハッ! もしかしてこうなる事を見越して前に行った……?」

「レモ~ン」

「クー様はこちらにお座りください。シズト様のすぐ近くに席を用意させていただきました。これであれば食べさせてもらう事も可能かと」

「……まあ、ウスウスに免じて今回はそれで我慢する。……次からは抱っこにしてもらお」


 クーの呟きは皆に聞こえているだろうけど、誰も反応しなかった。

 ジュリウスは紅茶を淹れると僕の目の前に置き、エルフたちがアイテムバッグから焼き菓子を取り出すと机の上に並べ始めた。


「……って、流されちゃったけど、急いでいるんだったら僕の事は放っておいて話の続きしなよ。って、ランチェッタさんも何ですぐ近くに座ってんの?」

「何か問題があるかしら?」

「何も問題は御座いません。この状態でも今後の方針を話し合う事は可能です」

「そうよね。ジュリウス、私にも何か飲み物を用意してもらってもいいかしら?」

「レモン!」

「あら、レモンをくれるの? ありがと」

「レモ~ン」

「……こんなにのんびりしていても大丈夫なのだろうか」

「それだけエルフたちに信頼を置いている、という事じゃないかしら?」


 代官が自分たちの事を知らない事が分かってからずっと静かについて来ていたメグミさんが、お茶会が始まった様子を見て困惑した様子で口を開くと、レスティナさんが肩をすくめて答えた。


「あ、お二方もどうぞお座りください。こんなにお菓子が会っても食べきれないので」

「有難く頂戴するわ」


 レスティナさんはにこっと微笑むと、エルフが用意した椅子に腰かけた。

 メグミさんは僕に話しかけられて冷や汗がドバッと流れ始め、無理そうな雰囲気だったけど、エルフが着席するように促すと、ぎこちない動きでそこに座った。


「そういえば二人は今日、どうするのかしら? 私たちはクレストラ大陸に一度戻る予定だけど……」

「ご一緒できると嬉しいわ。代官と会えば事態が好転すると思ったけど、空振りに終わっちゃったし」

「わ、私はどちらでも大丈夫です! これでも元々は兵を指揮していましたから、戦力として数えてもらっても構いません」

「流石にヤマトの女王陛下を前線には送れないわよ。気持ちだけ有難く頂戴するわ」

「そうですか……。では、私も一度ヤマトに戻れたらと思います。お飾りの女王とはいえ、いた方が良いでしょうから」

「分かったわ。会う手筈が整ったらまた協力してもらう事になると思うわ」

「あのエルフの数を見たらそれもすぐな気がするわね。数日前には知らせて欲しいけれど、当日でも対応できるように仕事は調整しておくわ」

「私はいつでも大丈夫です。私がいなくても仕事は回りますから」


 どうやら話はまとまったようだ。

 わざわざ来てもらったけど、特にやってもらう事もなかったし、申し訳ないなぁ。

 なんて思っていたけど、二人からしてみると僕たちとの親睦を深める事が目的でもあったらしい。

 ランチェッタさんが報告に来るエルフたちの話を聞いて指示を出す合間、産まれた子たちの話や妊娠中のランチェッタさんに関する事を楽しそうに話していた。

 女性たちの会話に入るのはちょっとハードルが高かったので、僕はひたすらレモンちゃんとクーの三人で出される焼き菓子を食べ続けた。

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