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後日譚36.事なかれ主義者は残された

 ガレオールの首都ルズウィックはクレストラ大陸との中継地点としてよく使っていたけど、実験農場から出る事がなかったので実はあまり街の中について知らない。

 実験農場にいきなり現れた僕を見て、兵士さんが慌てて馬車の手配をしてくれた。歩いて行っても良かったけど、それはいろいろ問題がありそうなので大人しく待っているとレモンちゃんの事が気になるのか、それとも僕の事が気になるのかアルバイトにやってきていたドライアドたちがわらわら集まってきた。

 残念ながらレモンちゃんと同種ではないのでレモンちゃんの意思は思うように伝わってないようだ。

 髪の毛を懸命に動かして僕の体を登ってくる小柄なドライアドたちを止めようとしている。


「……坊主、それ鬱陶しくねぇのか?」

「人間って慣れるもんなんだよ」

「そ、そうか……」


 バーナンドさんが何とも言えない顔で僕を見てくるけど、身体強化の魔法が付与された服を着込んでいても、彼女たちの前では無力なので大人しくしているしかないんだよ。

 そんな事を思いながら待っていると馬車の用意ができたとの事で案内の兵士さんがやってきた。

 先程の兵士さんとは違って煌びやかな防具を身に着けているので恐らく近衛兵だろう。

 アルバイト中のドライアドたちに別れを告げて、ジュリウスに警護をしてもらいながら僕は馬車に乗り込んだ。

 潮風がきついのか、馬車に入るまでは元気がなくなっていたレモンちゃんだったけど、馬車に入ったら再び元気になった。


「バーナンドさんたちも乗ればよかったのにね?」

「レモン?」


 馬車は王家が使う物だったようで、僕と小柄なレモンちゃんの二人だけだととても広い。

 だいたいこういう馬車には侍女も乗り込んでお世話をしてくれるそうだけど、急な訪問だったからか、緊急性の高い内容だと判断されたのかは分からないけど誰も乗っていなかった。

 以前、親交が深い王家の馬車の改造依頼が来た際に、ガレオールの馬車もある程度改造しておいたので揺れに酔う事はないけど、暇つぶしの道具とか作っておけばよかったなぁ。


「とりあえず、外の景色でも見てようか」

「レモン!」


 ガレオールの首都ルズウィックの街並みは真っ白! と感じるくらいほとんどの壁が白で統一されている。

 冒険者ギルドなどの国際的なギルドでも街並みに溶け込むように白い建物だった。

 ただ、どこもかしこも白い建物ばかりだと観光や商売を目的に来た他国の人たちが困るだろうから看板などでアピールしているのだろう。他の国と違う点は、看板が絵ではなくて文字の物も多い事だろうか?

 商業が中心だからか、識字率は高い方らしい。

 王城へと続くメインストリートを走る馬車から見えた建物はそのほとんどが何かしらのお店のようで、とても賑わっていた。


「他の大陸からも来てるんだろうねぇ」

「れもん?」

「転移門で繋がる時があるから、人の出入りがより一層多くなったらしいよ」

「れもーん」


 人気のお店で気になった所はまだ成人していない僕には早い気がしたので、来年まで覚えていたら訪れてみよう。




「わたくしが決めた事には反対しないのよね?」

「え? うん、まあ、ガレオールとアトランティアの共同事業だし……?」


 状況をしどろもどろになりながらも伝えたバーナンドさんの話を聞き終えたランチェッタさんは、僕に視線を向けて問いかけてきた。

 今いるのは執務室で、僕の目の前の席にはバーナンドさんが座っていて、ソファーに座っている僕のすぐ隣にはランチェッタさんがいた。レモンちゃんは僕の膝の上で大人しくしている。

 ランチェッタさんは肌面積が多めのドレスを着ていた。僕が加護を失ってしまったので新たに『適温ドレス』を作れないからだろう。妊娠してから着るようになったドレスはどれもお腹を締め付けないタイプの物らしい。

 丸眼鏡をかけているのはいつも通りだけど、今は頭の上に豪華な冠がのっている。


「そう、分かったわ。ジュリウス、向こうの判断に任せるわ。好きに行動させなさい」

「え!?」

「反対しないのよね?」

「そうだけど……トラブルになるんじゃないかなぁ?」

「もうなっているわよ。シズトの気持ちは重々承知しているけれど、外交では舐められたら都合がいい時もあるけれど、終わりの時もあるのよ。今回がまさにそれだと思うわ。とにかくジュリウス。向こうの判断に任せるわ。軍船が動いているって事は上に抗議したところで無駄でしょうし、力を示すしかないわね」

「かしこまりました。机をお借りします」


 ジュリウスが僕から離れて部屋の隅の方に置かれていた小さな机の上で何やら紙を書き始めた。


「ディアーヌ」

「はい」

「貴方はクレストラ大陸の大使に話を通しておきなさい。確かヤマトとラグナクアがサンレーヌと関わりがあったはずよ」

「かしこまりました」


 優雅に一礼をしたディアーヌさんは部屋から出て行った。

 ポカンとしていたバーナンドさんはランチェッタさんに「バーナンド」と呼ばれてビシッと姿勢を正した。


「貴方はいますぐに向こうに戻りなさい。そして、船員を連れてこっちに戻ってきなさい。交渉する際の証人になってもらうわ」

「俺に船を捨てて逃げろって言うのか! ……ですか?」

「貴方が残ったところで戦力にはならないでしょう? むしろ人質にされて面倒事になる可能性もあるわ。向こうは魔動船について知らないだろうから下手に砲撃をする事はないだろうけど、向こうの影が忍び込んで船員に危害を加える可能性は高いわ」

「実際、既に侵入しようと試みた者はいるようです。全て護衛として派遣していたエルフが対処したようですが」

「俺は聞いてねぇぞ!」

「余計な混乱を避けたかったのでしょう」


 手紙を書き終えたジュリウスがアイテムバッグの中から取り出した魔道具『速達箱』に手紙を入れ終えると僕の近くに戻ってきた。


「そういう訳だから、貴方も含めて船員は全員、ガレオールに戻ってきなさい。これは命令よ」

「……わーったよ……です」

「分かったのなら早く行動しなさい」


 ランチェッタさんに促されたバーナンドさんは席を立ちあがるととぼとぼと歩き始めた。

 ……転移陣で戻るのなら僕もついて行かないと面倒事になるのでは?


「僕も――」

「シズトは座ってなさい」

「あ、はい」


 バーナンドさんは案内してくれた人が責任をもって送り届けてくれるらしい。

 実験農場にいるドライアドに協力してもらえば問題ないだろう、との事だった。


「……さて、それじゃあシズト。余所者はいなくなった事だし、お話をしましょうか」

「………………はい」


 いつも以上ににっこりと微笑んだランチェッタさんは、なんか怖かった。

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