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後日譚34.船長は全力で止めた

 予定よりもだいぶ短かった航海を終えたキャプテン・バーナンドは、アドヴァン大陸の最北端にあるサンレーヌ国のとある港街にいた。

 街を統治している代官との話し合いが長引いていた事もあり、一週間ほど時間を持て余していた彼らだったが、同乗したエルフたちはせっせと商売に勤しんでいた。

 積み荷として運んできた物のいくつかは代官を通じて領主へと贈られる事になった。

 贈り物の中にはシグニール大陸でも有名なドラゴーニュというワインや、高品質のミスリルだけではなく、廉価版の魔道具などがあった。

 ただ、その中でも特に喜ばれたのは、世界樹から採れる素材だろう。

 アドヴァンの世界樹は休眠期に入ってしばらく経ってしまっているので、世界樹の素材の価格は上がり続けていた。


「キャプテン、俺たちも商売を手伝った方が良いんじゃないっすか?」

「いらねぇって言われちまったんだから仕方ねぇだろ? まあ、俺らは運ぶ事がメインだったから交渉の駆け引きとかはあいつらの方が上手いだろうし、適材適所ってやつだ」


 そんな事を言いながら、街で遊ぶのに飽きた船員たちのポーカーに混ざっていたバーナンドの元に、見張りをしていたエルフが近寄ってきた。


「また来たぞ」

「はぁ。しつこいなぁ、あいつらも」

「それだけシズト様がすごい、という事だな」

「はいはい、そうだな。すごいすごい。お前ら、話し合いは終わったし、明日には出港するから準備しておけよ」

「へ~~~い」


 バーナンドの船に同乗しているエルフたちは、エルフの中でも信仰が篤い者たちばかりだった。

 話をしっかりと聞いていると延々とシズトの話をされるのでバーナンドは彼を適当にあしらい、ポーカーを続けようとしていた者たちに指示を出してから船から降りた。

 下りた先にはズラリと後ろに兵士を引き連れた男が立っていた。


「今日はどんな御用ですか、代官様?」


 代官と呼ばれたちょび髭がトレードマークの男は、自分よりも大きなバーナンドを精一杯威圧するかのように胸を張って彼を真っすぐに見ていた。


「明日には出港すると聞きましたから、最終確認をしようと思いましてな」

「それでわざわざご足労いただいたんですか。でも、答えは変わらないですよ」

「雇い主が払っているお金の倍以上を払っても?」

「変わらないですよ。変わっちまったら俺が殺されちまうからな」

「なんと恐ろしい! 我が国はアドヴァンでも有数の武力を誇っていますから、暴力で従わせようとする悪辣な雇い主から全力で守ると約束しましょう! もちろん、船員の方々も」

「いや、雇い主自体はのほほんとしているというかなんというか……恐ろしいという言葉からは無縁な男だけどな? あんまり悪く言わねぇ方が身のためだと思いますよ」


 甲板から見下ろしているエルフたちの耳に聞こえているんだろうなぁ、と思いつつ背中に感じる視線から意識を逸らしたバーナンドは、代官を見下ろした。


「どんな条件を出されたとしても、あの船を譲る事はありえないです。お引き取りを」

「…………最終通告です。船を引き渡しなさい。さもなくば、海の藻屑になってしまいますよ?」


 代官が目線で示した水平線にはいくつもの軍船が姿を現していた。

 バーナンドは眉をしかめ「船を沈めるつもりかよ」と呟いた。


「こちらとしては、沈めた後で回収すれば何も問題ないんですよ。善意であなたたちの身柄の安全を保障しますよ、と提案していただけです。船と共に沈みたいのであれば、どうぞ船にお戻りください。停泊している間は攻撃はしません。ですが、私の忠告を無視して沖に出るのであれば……命の保証は出来かねます」


 交渉が無駄に長引いてしまったのは、魔動船に目をつけた代官がそれを求めたからだった。

 船を扱う者がその価値を理解しないはずがない。交渉に応じる訳がないのに値を吊り上げて交渉を止めようとしなかったのはこれが狙いだったか、とバーナンドは納得した。


「さて、どうしたものか……」


 手で頭部をぼりぼりとかきながら魔動船に戻ったバーナンドは、話が聞こえていたエルフたちの視線をビシバシと感じながらも船員たちの元へと向かうのだった。




 船を沈めるぞ、と脅された後のバーナンドはとりあえず乗組員を全員集めて話し合いを行った。

 信心深いエルフたちはシズトを悪く言われたからか好戦的で、港街を占拠しよう! と息巻いているが、船員たちはそれに否定的だった。

 だが、船員たちも魔動船を下りるつもりはない。


「刻一刻と過ぎていく時間が味方をするのは向こうだ。軍船の数は増えてるんだよな?」

「本気でこの船を取りに来てるみたいっすよ、キャプテン」

「あいつら戦争でもしたいんすかねぇ」

「それだけの価値があるって事じゃね?」

「濾過サーバー付きだしな~。水の心配をしなくていいって普通有り得ねぇし」

「いや、あいつらは流石にあの魔道具については知らねぇんじゃね?」

「まあ、知らんだろうな。それに、他の魔道具についても知らんだろ。普通、海を越えて軍隊が攻めてくるなんて思いもしないだろうからな」

「え、でも転移陣とかあるじゃないっすか。まあ、今は手元にないっすけど……」

「転移陣とか作れるとは思ってないんだろ。この大陸にはシズト様の事はあんまり伝わってないみたいだし。だから世界樹の世話をしろとか、そういう話は俺たちにはしてこなかったんだろうしな。あー、でもこんな事なら『携帯式転移陣』が余ってるって言ってたし借りておけばよかったぜ……」


 大きくため息を吐くキャプテン・バーナンドは、ふと顔を上げると船員たちが自分ではなく自分の後ろに視線を向けている事に気付いた。


「何見てんだ……!? って、それって……」

「きな臭かったので持ってきてもらいました」

「持ってきたよ~」


 エルフが高らかに掲げているのは、携帯式転移陣を抱えたドライアドだった。


「これで、根絶やしにできますね」


 そう言うエルフの後ろには青筋を立てたエルフたちが完全武装して立っていた。


「根絶やし? 予定とは違う子が増えちゃったの?」

「待て待て待て待て! 坊主にバレたら一発でアウト案件だろそれ!」


 ドライアドの問いかけにバーナンドは答える事もなくエルフに食い下がる。

 エルフはドライアドを地面に下ろすと肩をすくめた。


「バレなければ問題ありません。一度我々の力を見せつけておくべきです」

「いや、待てって。転移陣があれば他にやりようはあるだろ?」

「これの事~? とりあえず設置すればいいの~? どこがいいかなぁ」

「武力を用いて脅しをかけてくるような相手には同じ武力で分からせるしかありません。そうそう、武力と言えばキャプテン・バーナンド。シズト様から賜った者の使い時ではありませんか? Sランク以上の魔石を用いた魔法生物であれば、十分戦力になると思いますよ」

「まあここでいっか。ここにおいて~、ここにはめて~」


 エルフたちの中のまとめ役とバーナンドが言い合いをしている間に、地面に下ろされたドライアドは携帯式転移陣を置いていつでも起動できるように準備をしていた。


「貴方に使う勇気がないというのであれば、私が有効活用致しましょう。さあ、魔石をこちらに」

「いや、渡すわけねぇだろ!? お前らに起動させたら余計な考えを持ちそうだからな!」


 だが、状況的には使い時であるのは確かだった。

 ただ、それは転移陣がなかった先程までの状況なら、だ。

 いつでも逃げる事ができる状況が整ったのであれば、シズトならどういうだろうか。

 船よりも命の方が大事だから早く逃げろというのではないだろうか。

 魔動船の価値を誰よりも理解しているバーナンドは船を置いて行くつもりはないが、命を預かっている船員やエルフたちだけでも帰すべきじゃないか。そう考えながら今にも戦を始めそうな雰囲気のエルフたちを全力で止めるのだった。

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[気になる点] ドライアドがさりげなく転移魔方陣起動しはじめてる件(船長、エルフを止めてる場合なのか(何か出てこない?
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