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後日譚29.道楽息子は相談した

 ギュスタン・ド・アリーズはファルニルの外交貴族である侯爵家に生まれた青年だった。

 だが、他者との交渉の才能がなかった。また、魔物という危険な存在や他国との戦争などの非常時に必要な戦闘に関する力も全くなかった。

 興味があるのは食事だけで、興味の赴くまま趣味に没頭していたため眉を顰められるような見た目になってしまっていた。

 農家の息子に生まれてたら楽に生きる事ができたのに、と数えきれないほど思っていた彼だったが、家族には恵まれていた。

 才能がない事が分かっていたのか父親には早々に見限られたが、食材に興味を持った際に余っていた土地と求めた種をたくさん集めてくれた。

 母親は実家の伝手を使って農業に詳しい者を連れてきて農作業の基礎を学ぶ機会を用意してくれた。

 弟は兄を蔑む事なく見守り、兄の代わりに父と一緒に他国に外交をしに出掛け、妹はギュスタンが作った料理について忌憚ない意見をいつもくれていた。

 こんな生活も悪くない、なんて思いながら農作業をしていた彼だったが、生育の神ファマ様から加護を授かって状況が一変してしまった。空前絶後のモテ期が襲来したのだ。


「縁談が毎日舞い込んでくるんだよ。一応僕も侯爵家の人間だからお相手もそれ相応の家格が必要になるからまだ少なくて済んでるんだけどね……。クレストラ大陸だけで収まるかと思ったら、エルフさんたち経由で他の大陸の国々の王侯貴族からも縁談が来てて……」

「分かるよ。もうほんとどんだけ来るんだよ、って感じだよね」


 膝を抱え込むようにして地べたに座り込んでいるギュスタンの隣でうんうんと頷きながら彼を慰めているのは異世界転移者であるシズトだ。

 彼の肩の上にはレモンちゃんと呼ばれているドライアドもいる。シズトの真似をしようとしているのか、小さな手を伸ばしてギュスタンの体をポンポンと叩こうとしている。


「断り続けると家族に負担が行っちゃうから、そろそろ潮時だと思うんだけど、高貴な方とは円満な家庭を築けるとは思えないんだよね。ほら、僕ってこんな見た目だし……」


 自業自得ではあるが、ギュスタンの体型は世間一般的に見ると肥満体型と言ってもいいほど横にも大きかった。もちろん縦にも大きいのだが、貴族社会に限らず、この世界では太っていると相手に悪印象を抱かせてしまう。


「僕の脂肪燃焼腹巻使う?」

「脂肪燃焼腹巻?」

「そうそう。ダイエット系の魔道具なんだけど、これ使えばその内痩せるんじゃないかな」

「有難く使わせてもらうよ。エルフたちは何も言わないけど、世界樹の使徒がこんな見た目だと困るだろうからね。まあ、痩せたところで考え方に差がありすぎるから上手くいく気はしないけど」

「あー……まあ、僕が話しやすい時点でそうだよね……。かといって、家格が低い相手をお嫁さんに貰うのもちょっと大変だろうね」

「やっぱり?」

「僕も言われてそう言うものなんだなぁ、って思ったけど、男爵家のご令嬢をお嫁さんに貰ったらそれ以下の人たちは身を引く事が多いけど、それ以上の王侯貴族はより激化するだろうね」

「そうなるよね……。今のところ過激な内容は送られてきてないらしいけど……」

「分かりやすく脅迫とかはしてこないだろうねぇ。後ろ盾がエルフの国だし。ただまあ、何かしらはあるんじゃないかなぁ……何があるかは分かんないけど。この世界で言うと平民出身だし」

「レヴィア様のような方だったらいいんだけどね」

「それはなかなか難しいんじゃないかなぁ」


 生い立ちが特殊だったため、第一王女でもシズトの考えにある程度合わせられたが最初はいろいろ考え方の違いがあってトラブルがあった事を思い出し、シズトは眉間に皺を寄せた。


「農業を積極的にやり始めたのも僕と出会ってからだったし……結婚してからこっちに合わせてもらうのは大変かもね。いっその事、条件を付けるのもいいかもね」

「条件?」

「そうそう。農作業に理解があって、体型を気にしない方だけ……的な?」

「……なるほど」


 ギュスタンは今まで選んでもらう側だったので考えが至っていなかったようだ。

 ただ、要望を通すにはある程度力が必要になる。

 ファルニルの侯爵家にその力があるのかは二人には分からなかった。

 だが、シズトが近くに控えていた世界樹の番人であるジュリウスに話を通した事によって流れは変わった。


「世界樹の使徒として働いてもらってるし、そこら辺のサポートって何かしてあげられないかな?」

「『世界樹の使徒の配偶者は農業に理解がある人物ではないといけない』、『世界樹の代理人・もしくは世界樹の番人の承認を得なければいけない』という契約を結ぶのはどうでしょうか」

「……それをするって言う事はどういう事?」

「世界樹を擁する都市国家がギュスタン様の後ろ盾になってある程度コントロールする、という事です。今後、新たに加護を授かる者が他国の者だと、内政干渉だと主張する国も出てくるでしょうね」

「なるほど……こういう事はよく分かんないし、レヴィアさんかランチェッタさんに確認を取った方が良いよね。ちょっと呼んでくる」


 シズトは「よっこいしょ」という掛け声とともに立ち上がった。

 そして、屋敷にいるであろう人物たちを呼びに行こうと歩き始めたところでジュリウスがボソッと話を続けた。


「ですが、こうしておく事でイクオ様のお相手をある程度こちらが絞る事ができるようになります」

「なるほど。じゃあ、それでいこう。なんか問題が起きたらその時対処するって事で」

「かしこまりました」


 それで大丈夫なのだろうか、とギュスタンは不安そうな顔をしていたが、数日後、縁談の申し込みの数が一気に減り、家族が喜んでいたのでこれでよかったのだと思う事にした。

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