後日譚24.事なかれ主義者も安心した
「次も呼びなさいよね。一週間くらい後だったわよね?」
「そうだけど、それは僕が決める事じゃないからなぁ。とりあえず気を付けて帰ってね」
なんだかんだ言いつつ、夜遅くから今まで待機してくれてたんだよなぁ。まあ、それが彼女の仕事だと言えばそれまでなんだけど……。
もう一度お礼を言ってドランに帰っていく姫花を見送った後は、レヴィさんの部屋に戻ったけど、まだ賑やかだった。
一番最初に抱っこさせてもらったから今は部屋の入り口辺りで覗くだけでも満足だ。
「イクオ~、こっち見るデスよ~」
「馬鹿ね。まだ目が開いてないわよ」
「まあ気持ちは分かるじゃん」
獣人の三人組に現在抱っこされている赤ん坊が僕の第一子であり、レヴィさんが頑張って産んだ子どもだ。
名前はさんざん悩んだけれど、こちらの世界だと加護を授かっている事が分かると、それに関する名前を付ける事が多いとの事だったので『育生』と名付けた。男の子でも女の子でも読み方さえ変えれば行けると思ったのでこの名前にした。
問題は付与とか加工の加護を授かった子なんだけど……まあそれは追々考えよう。
ドラゴニアの王家では、金髪碧眼という特徴が受け継がれているか、もしくは長男だったら龍の名をもじって名づけをするらしい。だから、男の子だったら龍人もありかな、とか思ったけど最終的にはいくつかの候補の中からレヴィさんに選んでもらったのでこれでよかったんだと思う。
そもそも僕、ドラゴニア王家とつながりはあるけど王族じゃないし。
「ラオさんたちはもう抱っこしたの?」
「ああ」
「ラオちゃんったら面白いのよ? ものすごく慌ててて。動きもぎこちなくってね~」
「余計な事を言うな!」
「レモン!」
「レモンちゃんはさっき抱っこしたでしょ」
「レモ~~ン」
「髪の毛わさわさしても駄目なものはダメ! 外の子たちにも伝わってて大変だったんだから」
レモンちゃんが体験した事は、レモンちゃんよりも年上のドライアドたちには筒抜けなので、外で屋敷の中をジッと見ていたドライアドたちに「私たちも~~~!」と言われて大変な目に遭ったのだ。
世界樹の番人であるエルフたちに入って来ないように見張っていてもらっているけど、きっとうまくやってくれているのだろう。
じゃないと窓に張り付いて部屋の中の様子を窺うドライアドは出て来ないと思うから。
様子を見ようとして髪の毛を器用に使って壁を登って来たのかな……窓に張り付くように中を覗いているのは普通に怖いからやめて欲しい。
僕の視線に気づいた産婆さんの一人がカーテンを閉めた。
「ほ~ら、じぃじですよ~」
「貴方、長いわよ。早く変わりなさい」
「ジャンケンで負けたからって拗ねるな。順番なんてそう変わらんだろう。ね~~~」
いつの間にやらエミリーたちからリヴァイさんに受け渡しがされていた。
どうやらジャンケンで抱っこする順番を決めていたようだ。パールさんが早く変われと急かしている。
今のうちにレヴィさんとちょっとでもお話をしよう、と思ったけど産婆のリーダー格である女性に止められた。
「まだする事あるんですか?」
「あるよ。アンタ、血が苦手なんだろ? さっさと出ていきな」
チラッとレヴィさんを見ると、だいぶ疲れた様子だけどセシリアさんとお喋りをしている様だった。
僕の視線に気づいた彼女は笑顔を浮かべて「大丈夫ですわ」と言ったけど……笑顔がなんか力がない感じがする。
「ポーションとかエリクサーとかガンガン使って大丈夫ですから、よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げて部屋を後にすると皆ぞろぞろとついて来た。
パールさんは赤ちゃんを抱っこするために少し残るそうだ。『癒し』の加護を授かっているので、姫花と入れ替わりでやってきた『聖女』の加護を持った女性たちの助力もできるだろう、との事だったけど、きっとあれは赤ちゃんを構いたいだけだろう。
「王妃様、そろそろ」
「まだよ」
なんてやり取りをしているけど大丈夫かなぁ。
ちょっと心配になったけど部屋の扉が閉められて中の様子が分からなくなったので信じるしかない。
「モニカは今のところ体調大丈夫?」
一緒に部屋を出てきた黒髪の少女モニカは来週出産予定の奥さんだ。
普段着ているメイド服は最近着ておらず、お腹が圧迫されないような服を選んできている。
今はゆったりとしたワンピースを着ていて、お腹の膨らみがよく分かった。
彼女は僕に問われるとお腹を優しく撫でながら「今日は割と大丈夫です」と答えた。
陣痛にも種類があるらしく、レヴィさんもモニカもちょくちょく痛みを感じると言っていたけど、産婆さんは大丈夫だと言っていたので大丈夫なんだろう。レヴィさんも大丈夫だったし。
「心配されなくても大丈夫ですよ。神様から加護を授かっている子ですから、安産は約束されてますし」
「でも痛みは感じるんでしょ? 辛かったら言ってね。できる事だったら何でもするから」
「分かりました」
モニカは頷きながら優し気な笑みを浮かべた。
最近は思い詰めているような様子を時折見かけたけど、レヴィさんが無事に赤ちゃんを産む事ができたのを見て安心したのかもしれない。
ただ、やっぱり心配だから気にかけておこう。