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後日譚23.事なかれ主義者は何度も魔道具を使った

 朝食を手早く食べ終えたけど、他の皆はいつも通りのんびり過ごすとの事だった。レヴィさんがそれを望んでいるから、と。

 皆と別れた僕は、やっぱりいつも通りとはいかないので祠に向かって熱心に安産祈願をした。

 周りにドライアドが纏わりつこうが、レモンちゃんが肩の上で雄たけびをあげようが無視して祈る。

 この祈りは神様たちには届いていないのだろうけど……そもそも前世だったら神様なんてほんとにいるとは思ってなかったから、気持ちの問題だろう。

 都合のいい時だけ神頼みするのは今も昔も変わらないのかもしれない。

 そんな事を思いつつ静かに祈りを捧げていると、お昼頃に近くで控えていたジュリウスが口を開いた。


「そろそろのようです」

「ほんと!?」

「はい。レヴィア様の部屋の中の魔力の動きが慌ただしくなっていますから」


 慌てて立ち上がると、僕の体に纏わりついていたドライアドたちがそこら辺に転がった。

 まだ数人くっついているし、レモンちゃんはいつものごとく頭の上でのんびり過ごしているけど、構っていられないので着込んでいる魔道具を使って身体強化を行い、屋敷へと急ぐ。

 ただ、僕がどれだけ急いだところで、他の皆ほど早くは動けないので、僕がレヴィさんの部屋の前に着く頃には皆揃っていた。


「もう産まれた!?」

「まだだ。っておい、部屋には入るなよ」


 ラオさんに引っ張られて扉から引き離された。


「なんで?」

「万が一の事を考えて、室内は産婆さんと治癒魔法使い以外は入らないようにしているみたいよ」


 ルウさんは「本当はどんな感じか見ておきたいんだけどね」と膨らんだお腹を優しく撫でながらそう言った。


「っていうか、お前は立ち会わない方が良いんじゃないか?」

「なんで?」

「なんでって……血が無理だったら出産の立ち合いも無理だと思うぞ?」

「……なるほど?」


 そういうものなのか。そもそも出産の様子のイメージが浮かばないのであれだけど……万が一の時は部屋から追い出す手間も惜しいだろうし、大人しくここで待っていた方が良いのか。

 ホムンクルス二人組とディアーヌさん以外は妊娠組という事で、中の様子は気になるようで、出産についての話をしている。

 あ、パメラは勝手に飛び出して行かないようにシンシーラに止められているからあまり興味ないのかもしれない。

 ハーフエルフのノエルはいつも通り魔道具の魔法陣を眺めているけど、あれは聞き耳を立てている時のノエルだ。ピクピクと、エルフよりは少し短い耳が動いていた。

 話に入っても良かったけど、気になりすぎてそれどころではない僕は、体にくっついたドライアドたちがフリーダムに動かないように手で押さえながら待った。




 どれくらい待っただろうか?

 とても長い時間のようにも感じたが、実際はそれほど時間は立っていなかったかもしれない。

 元気な産声が室内から聞こえてきた。

 勢いよく開いた扉から姿を現したのは珍しく興奮した様子のセシリアさんだ。真っ白できめ細やかな肌が珍しく紅潮している。彼女はレヴィさんの侍女だから室内で待機していた。


「シズト様、生まれた子は男の子です!」

「ほんと!?」


 となると名前は……と思考が逸れかけたところで少し離れたところでこちらの様子を見守っていたリヴァイさんが歓喜の声をあげた。

 驚いてそちらを見ると、パールさんがリヴァイさんのお腹に裏拳していて、強制的に静かにさせていた。


「今、諸々を整えておりますので今しばらくお待ちください」


 自分よりも興奮していたリヴァイさんを見て冷めたのか、いつものおすまし顔になったセシリアさんはぺこりと頭を下げて部屋の扉を閉めた。


「……え、ていうかレヴィさんは!?」

「セシリアが落ち着いてたし大丈夫じゃねぇか?」

「そうよね。それに、レヴィちゃんのお腹の子は加護を授かっていたから、安産だったはずだし」

「産まれたデスか! 見てみたいデス!」

「もうちょっと待つじゃん。今バタバタしてるじゃん。ちょっとエミリー、抑えるのを手伝ってほしいじゃん」

「仕方ないわね」

「名前は結局どれにしたのですか、マスター」

「男の子用の名前になるのよね、ご主人様?」

「男ならファフニルがいった!!!」

「貴方はちょっと黙ってなさい。シズト殿、ここに名前をまとめた紙があるから今から決めましょう」

「いや、もうレヴィさんと候補は男女それぞれで絞ってたから……ごめんなさい」


 ショックを受けた様子のパールさんを気にした様子もなく、僕の体に纏わりついていたドライアドたちがより活発に動き始めた。


「れもーん!」

「産まれたね~」

「新しい子だね~」

「リーちゃんも喜んでるね~」

「皆にも伝えに行かなくちゃ!」


 わらわらとくっついていたドライアドたちが好き勝手離れていき、廊下の奥にあった窓を開けるとそこから出て行った。

 レモンちゃんは赤ちゃんの産声が気になるのか、それとも返事をしているのか「れもーん、れもーん」と言っているだけで肩の上から降りるつもりがないようだ。


「……ハッ! 赤ちゃんを抱くかもしれないなら清潔にした方が良いよね!」


 ボーッと待っていても仕方がない。どんな状況になってもいいように自分の体は綺麗にしておかなければ。

 そう思って自室にあるクリーンルームに慌てて向かった。

 リヴァイさんとパールさんもショックから立ち直ったらクリーンルームを使ってもらおう。

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