後日譚16.事なかれ主義者は次回から検閲するつもり
歳をとると誕生日はアプリの通知とかで思い出す事があるらしい。
ただ、僕は今後、自分の誕生日を忘れて過ごす事はないと思う。
「おめでとうございます!」
「シズト様~」
「わ、こっち見た!」
「シズト様~~~」
世界樹ファマリーの周辺に作った町ファマリアは、その住人の殆どが僕の奴隷だ。
直接管理はしていないので、誰かなんてわからない。そういう事はホムラとユキに丸投げしている。もっとしっかりと見張っておけばよかったなぁ、と思いつつなんかでっかい神輿みたいなものの上で声に答えて手を振る。
神輿のような物は人力ではなく、ジューロちゃんが一生懸命改良に改良を重ねている『回転』の魔道具が動力源となっているようだ。
ゆっくりとだが、しっかりと車輪は回っている。こういうパレードのような時には重宝しそうな魔道具だ。
「なんでこんな騒ぎになっちゃったんだろうねぇ……」
周りには僕以外誰もいない。
神輿の周りには仮面をつけたエルフたちが警備をしているのが見える。
やっぱりパレードなんて断っておけばよかっただろうか、と思いつつも事前に気付く事ができなかった自分を恨むしかない。
普段、魔動トロッコが通っている場所をぐるりと一周したら終わりと聞いているのでそれまでの辛抱だ。
そう思いながらひたすら笑みを浮かべながら手を振り続ける。座っているだけでもいいと言われたけど、それはそれできついんだ。
ぎこちない笑顔でも町の子たちは喜んでくれているのが不幸中の幸いだろう。
神輿のような物はぐるりと一周すると、円形闘技場の前で止まった。
これから数日間、ここで大会の本線が行われるという事だった。パレードがなければ今日だけでもがんばれば終わらせられたのではないだろうか、と思いつつ降りるのを手伝ってくれたジュリウスと一緒に円形闘技場の中に入った。
案内されたのはとてもよく見える場所だった。その席に座って待っていた人たちが立ち上がって僕を出迎えた。
「誕生日おめでとう、シズト殿」
「ありがとうございます、リヴァイさん」
「パレードはどうだった?」
「とても疲れました……」
「あれでも規模を小さくしたそうだが……早い内に慣れておくといいぞ」
もう二度度やりたくないのですが、なんて事は言えず、ただ黙って首を縦に振る。
そんな僕を困ったような笑顔で見るのはリヴァイさんだ。ドラゴニア王国の王様であり、僕の義父でもある方だ。
金色の髪は男の人にしては長く、肩辺りまで伸びているのだが、クルンと外側にカールしているので実際はもっと長いのだろう。
青い瞳はレヴィさんと同じ色で、優し気な印象を与えるその目元はレヴィさんとそっくりだった。
「こちらからよく見えるわ。……開会の挨拶は本当に先に終わらせて良かったのかしら?」
「はい。大勢の前で喋ったことがないので……」
そう、と残念そうに呟いたのは僕の奥さんのお義母様であるパール様だ。
レヴィさんと同じ髪型に目が行きがちだが、目元以外はパール様に似たんだな、なんて事を考えていると何やらごそごそとしていたリヴァイさんがボトルを取り出した。
「誕生日プレゼントを何にするか悩んだが、ドラゴニア名産の酒にする事にした。シズト殿はまだ……?」
「飲めない……というか飲んじゃいけない年齢なので。来年になったら飲めるのでその時にでも飲みます」
「そうしてくれ」
「あなたの生まれ年と同じ物を取り寄せたわ。長期熟成してもいいし、来年になったらすぐに飲んでも構わないわ」
「赤ちゃんのお世話で大変な状況になっていると思うので、また皆と相談します」
リヴァイさんとパールさんはきょとんとした様子で僕を見てきた。
それからお互い顔を見合わせて何やらアイコンタクトをしている様だったけど、結局二人が何かを言う事はなかった。
僕はとりあえず受け取ってしまったボトルを控えていたジュリウスに預け、二人に促された席に座る。
「……お二人の間って、なんかダメじゃないですか?」
「そんな事はない。あくまで俺たちは息子の祝いの席にお忍びで来ただけだからな」
王冠を被っているじゃないですか。全然忍べてないですよ、なんて事を言っても仕方がない事は分かっているので「そうですか……」と流した。
「そろそろ始まるみたいね」
パール様の視線を追うと、見覚えのある大柄な男性が、観客席よりも高い位置に建てられた櫓の上にいた。
彼が魔道具『マイク』を手に持ち、口を開くと闘技場の観客席にいくつも設置されている魔道具を通して声が響き渡る。
「さあ、シズト様も奥方様も揃ったようですから、早速大会を始めさせていただきます。実況は予選と同様、『お喋りタンク』のボビーが務めさせていただきます。今回最初に行われるのはクイズ大会! その場にいなかった方々のために予選の様子をお伝えすると、想定以上の出場者だったため、〇×形式でふるいにかけたそうです! いやぁ、優勝賞品である『家庭教師候補券』はそれだけ人気という事ですなぁ。あ、優勝賞品の説明を軽くすると、これから生まれてくるシズト様の御子様たちの専任の家庭教師になる権利が貰える、という物ですな。ただ、御子様たちが家庭教師が必要であれば、が前提なので候補券ですが――」
冒険者ギルドでよくイザベラさんに氷漬けにされているボビーさんが今回も実況をするようだ。
彼が喋っている間にもステージの準備が整っていく。
それを見ていると、リヴァイさんがボビーさんの方を見ながら口を開いた。
「ドラゴニア貴族からも多数の出場者がいたんだぞ」
「そうなんですか?」
「予選で落ちてしまったようだがな。他の国々も一定数いたようだが、地元民でも分からん問題がいくつかあって諜報力か運が試される物があってなぁ」
パールさんもすました顔でボビーさんを見ながら後に続いた。
「余計な勢力からの介入を避けるためだったのかもしれないわね。あくまで『候補券』だから、優勝したとしても雇わないという可能性もあるみたいだけど」
「それって大丈夫なんですかね?」
「まあ副賞もあるし文句は出ないでしょう」
……なるほど? まあ、そこら辺は皆が上手い事やってくれているだろう。
そう割り切ってクイズ大会の様子を見る事にしたのだが……。
「僕に関するクイズ多くない?」
「観客もそれを求めているから仕方がないんじゃないか?」
「息子の知らない一面を知ることが出来て私は楽しいわ」
僕だけじゃなくて世界樹のある所の事や奥さんたちに関する事も出てるから不公平感はないけどさぁ……もしかしてこれ毎年やる感じなのかな?
……うん、次からはクイズ大会のクイズだけは確認させてもらおう。




