後日譚5.町の子たちはみんな訓練に参加したい
不毛の大地に聳え立つ世界樹ファマリーの周りをぐるりと囲むように作られた町ファマリア。
日々拡張されているこの町は、異世界転移者であるシズトの奴隷たちが暮らす町だ。
奴隷以外にも商人やらギルド関係者やらも生活を営んでいるが、奴隷の方が圧倒的に多い。
普通の街であれば奴隷が主人もなしで外に出歩く事なんてありえないが、この町ではそれが当たり前だった。
それだけではなく『お小遣い』として主人から一定額のお金を与えられている事もあり、奴隷なのに自由に町で買い物をする事だってできる。
彼らが行う仕事は劣悪な環境ではなく、一般人でも羨むような働き方だったので、その話を聞いた駆け出し冒険者などは奴隷になりたがる者もいたんだとか。
それほど世間一般とファマリアで暮らす奴隷の扱いが違う。そのため、初期は奴隷に対する扱いに関してトラブルがあったが、ここ最近は全くそう言うトラブルはなかった。
今日も奴隷たちは朝日と共に目を覚まし、いつも通りの生活を送る……はずだった。
魔法使い然とした格好の少女を筆頭に、エルフたちが町の目立つところに立て看板を設置していく。
そこには文字が書かれていた。普通の奴隷であれば読めない物が殆どだ。読み書きができる奴隷は知識奴隷としてそれなりに高く売れる。
だが、ここの奴隷たちは知識奴隷として買われたわけじゃないが、全員が文字を読めた。研修所の成果だろう。
立て看板を読んだ奴隷たちはしばらくその看板をきょとんと眺めていたのだが、誰かが「シズト様と訓練ができるって事!?」と叫ぶと一気に騒がしくなった。
「シズト様ってあのシズト様だよね!?」
「いや、あのシズト様以外にシズト様はいないでしょ」
「でもシズト様と訓練なんて……近づく事すら冒険者希望の子くらいしかできないのに」
「前は畑の世話をする子たちは間近で見る事ができたみたいだけどそれもなくなっちゃったもんね」
「もしかしたら気に入られちゃったりするのかな!」
「そしたらお嫁さんに迎えて貰えるかも!」
「いや、でもシズト様のお嫁さんたちってお綺麗な人ばかりだよ。太刀打ちできないんじゃないかなぁ」
「変な事して今の生活が出来なくなっても困るでしょ。変な夢は持たない方が良いよ」
「いや、でもぉ……」
最近は金が有り余ってしまっている、という事で金額が高めの美しい奴隷や、戦闘奴隷も買っているが、町で暮らす大半の奴隷は奴隷の中でも安めな子たちだった。
見目が平凡だったり、怪我を負っていたり、病気を持っていたりと何かしら訳アリだった子たちばかりである。
身綺麗になったとはいえ、自分たちが嫁候補になるとは到底思えない。
ただ、それでももしかしたらと夢を見てしまうのは仕方がない事なのかもしれない。
結局、結婚の可能性に否定的だった子たちも選考会に応募するのだった。
立て看板が設置された翌日にはファマリアで生活しているすべての奴隷たちが選考会に応募していた。
町とは呼ばれているが広さは、街と言ってもおかしくないくらいになっているので、生活をしている奴隷も多かった。
その選考に時間がかかるかと思われたが、魔法使い然とした格好の女性が二人、夜の間に書類選考を終えていた。
元冒険者だった奴隷たちは全員書類選考をするまでもなく落とされた。
納得がいかない様子の者もいたが、シズトのレベルと同等の者でなければいけないと言われては引き下がるしかない。
戦いどころか、簡単な身体強化すらした事がない愛玩用の奴隷たちも軒並み落とされた。
いくら見た目に自信があっても身体強化が使えなければ練習にならないと判断されたようだ。
シズトが所有する『離れ小島のダンジョン』で冒険者として頭角を現し始めていた子どもたちも実力に差があるからと落とされた。
中には実技選考の際に意図的に手を抜いていた者たちもいたが、漏れなく落ちた。選考に駆り出された教官や引退間近の中年冒険者たちの目は騙せなかったようだ。
そうして残ったのはまだ研修をし始めたばかりの者たちや、幼い子どもたちだった。元々奴隷の中でも性別の比率に偏りがあるので選ばれた子たちも女の子の方が多いのは当然の事だろう。
幼子たちは単純に主人であるシズトに興味を示しているだけのようだったが、一部の女の子たちはそうでもないようだ。どうやってアピールしようかと思考に耽っているようだ。
ただ、そういう目的ではない奴隷たちも、シズトにいいところを見せようという思いは変わらないようで、やる気に満ち溢れていた。
だが、そんなやる気になっていても人数が多いため全員同時に訓練をする事はできるはずがない。ローテーションでシズトと訓練をする事になった。
「絶対シズト様に気に入ってもらうわ!」
そう意気込む子は悉く、次の訓練の時には呼ばれる事はなかったという。
その後も定期的にシズトの訓練相手が募集される事があったが、あわよくばお嫁さんになろう、なんて思う者は出て来なかったらしい。




