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【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~  作者: みやま たつむ
第26章 他力本願で生きていこう

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幕間の物語268.魔法生物は起きるまで待ち続ける

 不毛の大地にあるダンジョン『亡者の巣窟』に潜んでいた邪神が姿を現し、『神降ろし』を使ったシズトによって神々が住まう世界へと戻されてから数日が経った。

 数日も経つと各地から報告が集まり、ある程度の事が判明した。


「まさか、邪神がこんな近くに潜んでいるとは思わなかったのですわ」


 そう言いながらお腹を擦っているのはレヴィア・フォン・ドラゴニア。

 ドラゴニア王国の第一王女であり、邪神を神々の世界へと帰したシズトのお嫁さんの一人だ。

 当時はその場におらず、ファマリアに住んでいる者たちを落ち着かせるために奮闘していたため、邪神が現われたなんて思ってもいなかった。

 その場に居合わせていた者たちから手練れの邪神の信奉者が現われたくらいだろう、と思っていたら最高神を祀る教会から「地に堕ちた神を助けた英雄に感謝を」というお礼の品々と共に、相手をしていた存在について知らされた。

 手紙を途中まで読んだ彼女がベッドの上で横になっているシズトの身ぐるみを剥ぎ、どこも呪われていないか隈なく確認したのは余談である。


「私がいても状況は変わってなかっただろうけど……悔しいわ」

「だからって睡眠時間を削って寝たきりのあいつの面倒を見ようとするのはやめろよな」


 しょんぼりとしながら魔力マシマシ飴を舐めているのは妹のルウで、そんな彼女に呆れた目を向けているのはラオだ。

 妹のルウは若干タレ目で赤い髪を背中辺りまで伸ばしているが、ラオはツリ目がちで髪の毛は動きやすいようにショートヘアーにしていた。

 二人とも冒険者という事もあり早食いのため夕食は既に食べ終えていて、のんびりと食後の甘味を味わっている所だった。


「ラオの言う通りだわ。もう体の方には何も問題はないって言われたんでしょう?」

「ランチェッタ様は自分を省みてから発言されたらどうかと思います」

「最近はしっかり寝てるでしょ!」

「あの出来事が起こるまではそうでしたね。状況が状況ですし、信頼できる者の力量も把握できたのですから、他の者に丸投げしてこっちでしばらく過ごしてもいいと思います」

「あんな出来事があったからこそ、女王である私が不安を与えるような行動をするべきではないのよ」


 後ろに控えていた専属侍女であるディアーヌとここ数日何度も行われている言い争いをしているのはランチェッタ・ディ・ガレオール。

 ディアーヌと同じくシズトのパートナーである彼女は、海洋国家ガレオールの女王でもある。

 邪神騒動が人知れず終わっていたとしても民衆に不安を与えてはいけない、とここ数日執務に励んでいたランチェッタだったが、幼少期からずっと見守ってきたディアーヌから言わせると「心ここにあらずと言った感じで効率が悪い」らしい。

 それでもミスをする事もなく仕事をしているのだからいいだろう、というのがランチェッタの言い分だ。


「それよりも、今日はタカノリが来て様子を見たんでしょう? 何か分かったのかしら?」


 ランチェッタがディアーヌからの追及を逃れるために話題を変えたが、どうやら結果は芳しくなかったらしい。

 タカノリが来た際に対応した面々が首を横に振ったり、肩をすくめたりした。


「寝たきりになるなんて聞いた事がない、と言っていたのですわ」


 ため息交じりに答えたレヴィアの後に、ゆっくりと食事をしていたエルフの女性ジューンが付け加えた。


「膨大な魔力を一気に使ってしまったからかもしれませんしぃ、三柱を同時にその身に宿したからかもしれないって仰ってましたぁ」

「結局、原因は分からないって事ね……」

「そうですねぇ……」


 この話題になるとどうしても食堂内の雰囲気が暗くなってしまうが、そんな事を気にした様子もなくノエルは口の中にたくさん食べ物を詰め込むと、嚥下する前に立ち上がって何やらもごもご言いつつ食堂を後にした。


「ノエルは平常運転ですわね」


 レヴィアが何とも言えない表情でノエルを見送ると、それまで黙って食事を続けていたホムラが否定した。


「いえ、効率が落ちてます。ここ数日、ノルマ達成するために夜遅くまで作業させています」

「睡眠不足で効率が落ちてしまうのも良くないし、減らす事も考えた方がよさそうだねぇ」


 普段通りなのは魔法生物である自分たちくらいではないだろうか、とホムラとユキは考えつつも口の周りを汚す事もなく食事を終えた。




 入浴を終え、静まり返った本館の中をホムラは歩いていた。

 普段の魔法使い然とした格好ではなく、ネグリジェ姿だった。シズトが見たら「目のやり場に困る!」と文句を言うだろうその恰好を注意する者は今は誰もいない。

 自室から歩き続けた彼女は、三階の一番奥にある部屋の扉を開いた。

 パーテーションで区切られた通路を歩き、目的の区画へと辿り着くと、そこには一人の少年以外誰もいなかった。

 寝たきりのままの少年は身の回りの世話をされているので清潔な状態だった。

 ホムラはそんな彼のもとへとゆっくりと近づくと、間近で彼の様子を見た。


「すべて問題ありませんね」


 聖女の加護を持つ者たちからもお墨付きをもらっていたが、自分の目と耳で確認し終えた彼女は用意していたエリクサーをアイテムバッグの中にしまった。

 その代わりに取り出したのは枕カバーだった。


「失礼します、マスター」


 そっとシズトの頭を持ち上げ、下にあった枕を取り出すとそのカバーを新しく取り出したカバーと取り換えたホムラは、再びシズトの頭を持ち上げると彼の頭の下に枕を差し込んだ。

 すると、枕カバーが淡く輝き始め、カバーに描かれた魔法陣が浮かび上がった。

 無事、魔道具が起動した事を見届けたホムラは満足そうに頷くと、ベッドに横になり、じっと少年の寝顔を見続けた。

 朝日が昇ってしばらく時間が経つまで紫色の目で少年の寝顔を見ていた彼女は、枕に浮かび上がっていた魔法陣が光を失って消える頃に口を開いた。


「おはようございます、マスター」

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