540.事なかれ主義者は後の事は考えずに行動した
『ほんと、鬱陶しいなぁ、もぉ!』
巨大な邪神の信奉者(?)をおちょくるようにホムラがドローンゴーレムを操作し続けて分かった事は、あの大きさは伊達ではないという事だ。
「普通に地形が変わってしまってますね」
「ダンジョンから出て来た時点で変わってただろ」
明が画面を食い入るように見ながら分析している隣で陽太はポテチを守りながら食べていた。守らないとパメラが盗み食いするからそうしているんだけど、誰も触れてないので僕もスルーしている。
陽太はパメラのモフモフの翼には興味がないようだ。まあ、あれは触れてみないと良さは分からないもんね。分かってもらう必要性もないけど。
『これで何かしてくる様子もないし、もう無視してもいいよね。どうせ引き籠ってるだけなんだったら相手する必要もないし? それよりあっちにたくさんいる生き物に生き地獄を見せた方が楽しいんじゃないかな。面白い反応も見れるだろうし? 相手なんかしてないで向こうに行こうか。うん、それがいいよねぇ』
裂けている口で歪な笑みを浮かべた邪神の信奉者は随分とお喋りなようだ。
さっきからこっちに話しかけているのかと思っていたけど、自分で問いかけて自分で答え、自己完結している。
明たちは見ただけで存在の格の違いを実感してしまい、戦意喪失しているみたいだし、ジュリウスも僕の安全第一で戦う事を進言してこない。
ぶっちゃけ、僕も放っといたらどこかに行ってくれるのならそれもいいかな、なんて思っている。
ただ、問題があるとすればちょっと見ただけでも呪われてしまった事だろうか。
「いや、明たちも呪われているし見たからではない……?」
「アレが静人を呪った方法について、ですか? それはおそらく、近くにいたから呪われたのだと思います。あの者は膨大な魔力を有しているようですし、その魔力にあてられて、かもしれませんが……」
「そこにいるだけで呪ってくる加護なんてチート過ぎない?」
「何らかの弱点はあるかと思いますが……加護と言えば『呪言』もあると思います。動画を見返して思いましたが、意図をもって呪い殺そうとしている節がありました。ゴーグルを気にしていたので『呪眼』もあるでしょうし、映像を見る限り『呪躰』もあるかと……」
確かに明が言う通り、どれもこれも持っていても不思議ではない。
邪神の信奉者だけ何個も加護を持っていてずるい気もするけど、加護を三つも持っている僕が言える事ではないだろう。
「いずれにせよ、悠長に構えているわけには行かないようです、マスター」
「アレの目指す方向にファマリアがあるわ」
「ファマリアって……止めないと!」
「向こうに行かせたムサシとライデンは無事、ファマリアに着いたようです、マスター。ただ、向こうでも転移陣が使えなくなったのと、空が闇に覆われているように見えて不安がっている者たちがいるようです」
「ライデンとムサシから状況を聞いた王女様を筆頭に、一先ず世界樹ファマリーの根元に避難誘導している所みたいよ、ご主人様。ただ、どこまでが呪いの効果範囲か分からないけど、足止めをする必要があると思うわ」
ホムラとユキはドローンゴーレムの操縦をしながら明たちが使っている耳当て型の魔道具『どこでも念話』を使ってやり取りもしているようだ。
あの巨体を止めるとなると、アダマンタイトの量が心配だけど、ひたすら薄くして金箔のようにして固定するしかないか……?
そう悩んでいる間にも邪神の信奉者がファマリア方面へと結構な速さで向かっていく。ぼとぼととその体から堕ちているのは何か気になったけど、一先ず捕まえようと映像を頼りに【加工】の加護を使った。
「やった!」
『……なにこれ、拘束のつもり?』
「って、そのまま動けるん!?」
「静人も先程の様子を見ていたじゃないですか。あの巨体は伊達ではない、という事ですね」
地面に固定してみたけど普通に土がめくれて拘束できなかった。
僕たちが逃げ込んでいる物は結構地面の奥深くに根を張るようにしたから僕たちのとくっつけても良かったけど、もし抜けたらやばいか……いや、でも――。
『これもあの変な金ぴかのやつか。……じゃあ、これで叩いたら面白い事になるんじゃないかなぁ?』
「やっべ」
口角を不気味な程上げてこちらにゆっくりと迫ってくる邪神の信奉者。
「武器を与えてどうすんだよ!」
「まさかああも簡単に抜けるとは思わなかったんだよ! 動いている相手に纏わりつかせただけでも褒めて欲しいんですけど!?」
陽太のヤジに言い返している間に、邪神の信奉者の巨大な尻尾が僕たちのシェルターに迫る。
「【加工】!」
黄金にコーティングされた部分を思いっきり叩きつける前に、ジュリウスが用意してくれたアダマンタイトを加護で形を変え、屋根の部分に分厚い盾を作り上げた。
次の瞬間にはそこへ尻尾が衝突した。
シェルター周辺が思いっきり凹んだし、結構な衝撃が室内を襲ったけどジュリウスのおかげで僕自身は何ともない。
「もういっちょ【加工】!」
土煙がもうもうと立ち込めている間に、叩きつけられた尻尾諸共アダマンタイトでシェルターを包み込んだ。
ついでに地下深くまで広げていた根っこをさらに広げておく。
……これでも抜けてしまったらその時考えよう。




