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【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~  作者: みやま たつむ
第25章 片手間にサポートしながら生きていこう

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幕間の物語261.深淵に潜みし者は放っておく事にした

「どうしてこんな事に……」


 そう呟いたのは誰だったのか、とある国の王には分からなかった。

 怒れる民衆の怒号がどんどんと近づいてくる事だけが分かる。


「衛兵は何をしておる! こういう時に鎮圧させるために高い給料を払っているのだろうが!」


 煌めく宝石をたくさん身に着けた男が叫んだが、衛兵は機能していないという事を誰も知らなかった。貴族たちが中抜きをして私腹を肥やすために予算をどんどん削られ、安月給で働かされていた彼らにも不満が溜まっていたのだろう。民衆の味方になっている者が殆どだった。

 パーティーの最中、喧騒に気づいた時には既に逃げ場もなく、ただただ豪華なダンスホールで身を寄せ合っている女性たち。

 我先にと闇夜に混じって空から逃げようとした者は、反逆した元王国軍の竜騎兵によって捕えられてしまっていた。

 大人しく投降しようとした者は、立て籠もっている者たちの見せしめとして広場に磔にされ、暴徒たちに物を投げられている。

 王族だけでも逃がそうとした近衛兵たちは、限られた者しか知らないはずの隠し通路の先で物言わぬ躯となっていた。

 命からがら戻ってきた王子は酷い怪我を負っていたため治療されているが、国王には怪我一つない。

 それまで騒いでいた者の中の誰かがそんな国王を見て「今こそ陛下の力を示す時ですぞ!」と言うと、一人、また一人と賛同する者が出てきた。

 そんな事ができる訳がないのに、傀儡として操っていた者たちですらその様な言葉を紡いでいる。


(ああ、これが蜥蜴の尻尾切りというやつか……)


 国王は呆然としながらも、心の中でどうでもいい勇者たちの国の諺を思い出していた。


(やはり、弟を呪い殺してしまったのは間違いだったんだな)


 賢王と讃えられていた先代の国王に嫉妬した心がこうなってしまった原因の一端である事を自覚していた王は、それでも自分で責任を取るつもりはなかった。

 キョロキョロと視線を彷徨わせてある人物を探す。が、先程まですぐ近くにいたはずの人物はダンスホールのどこにも見当たらない。


「さあ、今こそ王家に代々伝わる加護を用いて、民衆を鎮めるのです!」


 先程から他の者たちを煽るような発言をしているのは、探している人物のはずだ。だが、その姿は見えない。

 魔力探知ができればよかったのだが、現国王には弟のような魔法の才能はなかった。

 また、王家に代々伝わる加護も、当然授かっていなかった。

 彼が持っているのは、つい最近授かった他者を呪う力だけだった。

 ただ、それもその他大勢には効果がない。

 一定の条件を満たさないと使えない物だったので、今にも乗り込んできそうなその他大勢の有象無象には何の効果も与える事ができないだろう。

 国王は必死に考えた。

 自身を民衆たちに差し出して難を逃れようとしている者たちを不敬罪として捕えても意味がない。何より、彼らを捕らえるための人手もない。

 王家のみに伝わっていたはずの隠し通路は他の者に漏れているのは先程確認して分かっている。

 必死に逃げ道を探そうとしている王の視線はあちこち移っていたが、数人の男たちに捕まり、部屋の出口へと連れてかれそうになる。


(いっその事、こ奴らを全員呪ってしまえば……いや、それでは何も解決せぬ。どうすれば助かる? いったい何をすればいい?)


 そう自問自答するが、答えが返ってくるわけもなかった。普通であれば。


『身を委ねなよ。そうしたら、僕が全て片付けてあげる』


 頭の中に響いたその声を聞いて一瞬硬直した王の隙を、外に押し出そうとしていた者たちは見逃さなかった。国王は部屋の外へと追い出され、大きな扉が閉じられていく。

 国王は呆然とした様子で廊下の奥からぞろぞろとやってくる者たちを見ていたが、ハッと我に返ってゆっくりと閉まっていく扉の方を見た。


『どいつもこいつも救う価値のない者たちだろう? 僕に身を委ねてくれたら、お前を差し出した醜い豚共も、お前を狙っている愚かな民衆からも守ってあげる』


 自分ではどうしようもない事は分かっている。

 だが、この声の主が誰なのかを察していた国王は返答に迷った。

 呪いの力を授かっただけでも大問題だったが、これ以上この声の主に頼っていいのか。

 国王は迷っている様子だったが、彼に残された時間はごくわずかだった。




 暗い闇の中、邪神の笑い声だけが響く。


「楽しいねぇ。ちょっと背中を押しただけでどんどん堕ちていく者たちを見るのは。明日はどうやって遊ぼうかなぁ」


 邪神は映し出していた水晶の中には、荒れ果てた街の中を王冠を頭の上に乗せた男性がたった一人で歩いているのが映っていた。


「他の大陸に向かう船を悉く沈めておいて正解だったよ。あの鬱陶しい異世界転移者も邪魔しに来ないし、あいつが作った魔道具もこっちには届かないしねぇ」


 邪神が今、加護を授けた者を操って遊んでいるのはタルガリアと呼ばれている大陸だった。

 クレストラ大陸から西へさらに進んだところにある大陸の一つで、元々世界樹がない大陸だった。

 自身の信奉者たちを暗躍させ、万が一にもタルガリア大陸の惨状が異世界転移者に伝わらないように、異大陸と交易をしている国をまずは滅ぼそうとしている所だった。

 一国が滅びれば、その領土を狙って他国が攻め入ってくるだろう。戦が起これば邪神の信奉者がより動きやすくなる。

 中には、邪神の信奉者の力を借りて敵国を滅ぼそうとする者も出てくるはずだ。

 これからどんどん忙しくなるぞ、と邪神は喜んだ。


「あの転移者が死ぬまでは退屈しないで済みそうだ」

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