527.事なかれ主義者は蒐集したい
陽太たちがドランの屋敷に暮らし始めたのを確認してから僕たちはまたクレストラ大陸へと移動した。
明たちはしばらく金策をするという事で新しい魔道具を作る必要はないっぽいけど、ダンジョンで見聞きした内容をまとめてもらい、報告書として提出してもらう事になった。
この時に役立ったのはやはり魔道具で『速達箱』という代物だ。
どれだけ離れていても、対となった魔道具に入れられた物がもう片方の魔道具に転送される。
厳密に言うと転送ではなくて、異空間の共有らしいけど、そこら辺はよく分からないからどうでもいい。
僕は朝ご飯を食べながら昨日のレポートを読んだ。
「……やっぱりミスリルとかも含めてたくさんの鉱脈があるだけで、それ以外は特に良いのは出ないっぽいねスケルトンの魔石はあって困る事はないけど、大陸間を移動するために必要な魔石とか手に入ると助かるんだけどなぁ」
僕のボヤキに反応したのは既に食事を終えて魔力マシマシ飴を舐めていたラオさんだった。
彼女は妹のルウさんと一緒に僕の子を妊娠しているのだが、服装に変化は特にない。
身長が二メートルあるから、古着屋さんに行っても目当ての服がないから作ってもらっている最中らしい。
「Bランク以上の魔石を安定的に狩るんだったらそれこそドランの高難度の方のダンジョンに行けばいいんじゃねぇか? あそこなら浅い階層でもランクの高い魔物が出てたと思うけど」
「そうね。あの子たちの実力は分からないけど、Aランク冒険者相当の実力は既についているのなら問題ないわよね」
「日帰りができないからって却下されたんだって」
明も大変だよな。あの二人の我儘に付き合わなくちゃいけないんだから。
そう思っていたけど、明自身もあまり長い間ダンジョン探索はしたくないらしい。ダンジョンで一夜を過ごすとなるとセーフティーエリアを見分けるのに一苦労するらしいし、見つかった場合でも悪意ある同業者対策のために夜の見張りをしなくちゃいけないんだとか。
僕が管理しているダンジョンだったら僕の奴隷以外は基本的にドラン軍の兵士なのでそこら辺の心配はしなくても済むらしいんだけど、食事は質素なものになるし、お風呂は入れないし……との事だった。
アイテムバッグに時間停止機能をつければ温かい食事をとれると思うけど思いつかないけど、魔道具の中を共有化して、決まった時刻に作りたての物をアイテムバッグに入れて貰えば食事はいつも通りになるよな。
お風呂も魔道具を使えば何とでもなる気がするけど、全員同じ気持ちであるのなら無理に魔石を取りに行かせる必要もないか、と思って三人にはとりあえず僕が自由にできるダンジョン『亡者の巣窟』の探索をお願いしている。
「鉄やミスリルはプロス様から授かった加護で使いたいしどれだけあっても困らないけど……できればアダマンタイトが欲しいなぁ」
「そりゃ無理だろ。アダマンタイトの鉱脈なんて聞いた事ねぇし、仮にあったとしても掘り出すだけでも一苦労しそうじゃねぇか」
「だよねぇ……」
アダマンタイトは鉱石として見つかった事はなく、ダンジョンの奥深くで、加工された状態の物が見つかる事が殆どだった。
中には重たすぎて持ち帰る事を諦めた物もあるらしく、ダンジョンに今も眠っている物もあるらしい。
「コツコツと交易で集めるしかないか。ホムラ、ユキ、そこら辺よろしくね」
「かしこまりました、マスター」
「分かっているわ、ご主人様」
口の周りを汚したまま食事をしていた二人の少女は僕が作ったホムンクルス……魔法生物だ。セバスチャンと違うのは魔石のランクだろうか? どうにかしてアップグレードできないかと考えを巡らせているんだけど、なかなか答えに辿り着かない。
真っ黒でとても長い髪を真っすぐに下ろしているのがホムラだ。透明感のある肌は日焼けをした事がないような白色だったが、口の周りだけは青い方の苺のジャムで青く彩られていた。
紫色の瞳は僕をしっかりと見据えていて何かを待っているかのようだったので、とりあえず手元にあったホムラ用のおしぼりで口の周りを拭ってやる。
口の周りがすっきりしたホムラは再びパンにかじりついていた。
「ご主人様、私のも綺麗にしてくれないかしら?」
「いい加減自分でやろうよ」
「私たちはご主人様と一緒にいられる時間が少ないし、このくらいはしてもらってもばちは当たらないと思うわ、ご主人様」
「その理論で行くとランチェッタさんとディアーヌさんにも同じ事をしないといけなくなるなぁ」
クスクスと笑っているのはもう一人のホムンクルスのユキだ。
ホムラと正反対のイメージで、と念じながら作ったからか、無表情なホムラと違って表情が豊かだ。
また、髪の色も反対で真っ白で、肌は褐色だった。体も肉付きが良く、グラビアアイドルにいそうな感じなんだけど、今はホムラと同じ魔法使いが来ていそうなローブで体がすっぽりと覆われている。
とりあえずユキの健康的に焼けた様な肌にできた牛乳の髭を彼女用のおしぼりで拭ってやった。
「もう十分な量がアイテムバッグん中に入ってっけど、何に使うつもりなんだよ」
「何にって……特に決まってないけど? 他の金属は大量にあるのにアダマンタイトだけ少ないとなんか気になるってだけだし……」
ラオさんが呆れた様な視線を向けてきたけど、前言撤回する気はない。
各国で使われていないらしいし、アダマンタイトを集めても誰も文句は言わないだろうから今後も集め続けよう。
……何かあった時に使えるだろうしね。




