520.事なかれ主義者は集めたい
ライアスさんは顔が怖いけど、優しいおじいちゃんという感じの人だった。
孫のレイ君や娘のアビゲイルさんはもちろんだけど、タカノリさんに向けられる視線も優しい。……本人が見ていない時だけだけど。
僕が自作したゲームには参加しなかったけど、レイ君のすぐ近くに座り、いろいろアドバイスをしていた。
どのゲームも初見のはずなんだけど、ゲーム慣れしている感じがすごい。
「ライアスさんはこういう遊びをした事があるんですか?」
「ん? ああ、ギャンバラに訪れた際にな」
「ギャンバラ?」
「シズトくんは知らないか。イルミンスールよりも西にある国で賭け事が盛んな国なんだよ。シズトくんと同じように、勇者に巻き込まれて転移した人が建国した国で、遊戯も司っている運命の神様を信奉している宗教国家だね」
賭け事が盛んな宗教国家ってなんかやばそう。
「あそこの国王様は代々神様から加護を授かっていろんなゲームを作っているんだよ。あんまりボードゲームには詳しくないけど、シズトくんが記憶を頼りに作ったゲームもあるんじゃないかなぁ」
「テレビゲームとかもある?」
「いや、流石にそれはないんじゃないかな。邪神の信奉者を捕まえに行った事があるけど、見かけたら覚えているだろうし」
「そっか。……明日会う事になってる使節団の中にギャンバラの人はいるの?」
「いや、いないよ。ギャンバラに限った事じゃないけど、大樹海の向こう側の国々とはウィズダム魔法王国はあんまり交流がないんだよ。国立の魔法学校であれば留学生の中に西側の国の子がいるだろうけど、そのほとんどが交易が盛んな国ばかりだからね」
「そっか。どうせなら記憶を頼りに作ったなんちゃってボードゲームより、しっかり作られた物がやりたかったんだけどな」
「じゃあ今度来た御用商人に仕入れてくるようにお願いしておくよ。そうでもしない限りは外に出回らないだろうからね」
それもそうだよね。商人も売れるか分からないゲームより、美味しい食べ物やら希少な素材を運んだ方が確実に儲けられるし。
そんな事を思いながらサイコロを振る。
「なんで二個のサイコロを振って三になるかなぁ……」
「やった! シズトさん、コイン八枚ください!」
たくさん同じカードを集めていたレイ君が飛び跳ねて喜んでいる。
結局、その後はレイくんが三軒目のランドマークを建ててゲームが終わった。
負けて終わるのは悔しいけど、時間も時間なのでお暇させていただいた。
「初見の人にだったら勝てると思ったんだけどなぁ」
「ライアス様がついていたからしょうがないよ」
タカノリさんに慰められながらとぼとぼと禁足地へと続く通りを歩いた。
翌日、世界樹の使徒として正装に着替えた僕は、同じく白い布に金色の刺繍が施されているワンピースを着たジューンさんと禁足地の外に出た。
今回の護衛としてジュリウスはすぐそばに控えていて、交渉役として魔法使い然とした格好のホムラとユキも後ろをついて来ている。
「おはようございます、シズト様。ここからは馬車で移動しますのでお乗りください」
昨日とは全く違う喋り方のタカノリさんに促されるがまま純白の馬車に乗り込む。
馬車を曳くのは真っ白な毛並みが綺麗な馬……いや、ペガサスだ。
エルフってやっぱり白が好きなのかな、なんてどうでもいい事を考えつつ馬車に揺られて移動する。
「……この馬車も改良しないとね」
「そうですねぇ。普段使っている馬車と比べると揺れを感じますねぇ。これでもいい方だと思うんですけどぉ」
馬車の揺れと共にジューンさんの大きな胸が揺れる。
目の前に座っているホムラとユキはローブで隠れているから分からないから視線の置き場所に困る事はないんだけど、何となく窓の外を眺める事にした。
しばらくそうしていると、今回の会談場所である迎賓館に着いた。
ホムラとユキの後に続いて僕とジューンさんも降りると出迎えてくれたのはダークエルフとドワーフの女性だった。
ダークエルフはエルフと異なり肉付きの良い体をしている事が多いけど、目の前にいる女性もまたグラビアにいそうな体型の人だった。あんまりじろじろ見ては失礼だし、すぐに視線を逸らした。余計なトラブルは避けたい。
視線を逸らした先にいるドワーフの女性はやっぱり小柄で、お子様体型だった。
こっちもこっちでじろじろ見て誤解されても困るしタカノリさんに視線を移した。
彼は僕の視線に気づくと、近くに寄ってきて「お言葉をお願いします」と言ってきた。
……僕から言う感じなのか。
「えっと……わざわざお出迎えありがとうございます。音無静人です。よろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げてから、そういえばタカノリさんみたいに苗字を伝えない方がよかったのかも? とか思ったけど、他の人にも苗字ありで自己紹介してるから今更か、と考えるのをやめた。




