517.事なかれ主義者は報告を受けた
朝、目が覚めると隣に小柄だけど胸がとても大きい褐色肌の女性が僕の体に抱き着くようにして眠っていた。がっつりと眠っているようで起きる気配がない。
「おはようございます、シズト様。昨夜はお楽しみでしたね」
声のする方に視線を向けると、メイド服を着た二人の女性が並んで立っていた。
揶揄ってきたのは悪戯っぽい笑みを浮かべたディアーヌさんだ。
僕に抱き着いて眠っているランチェッタさんの専属侍女で、僕のお嫁さんの一人だ。
昨夜楽しんだのは彼女もだと思うんだけど、僕は言い返す事無く口を噤んだ。何か言うと揶揄われるだろうから。
昨日のお世話係はレヴィさんとセシリアさんだけの予定だったんだけど、今日からまた別の大陸に行くという事で妊娠しているレヴィさんはランチェッタさんとディアーヌさんに譲り、セシリアさんを含めた四人で愛し合う事になった。
夜遅くまで続いたけど、安眠カバーのおかげでシャキッと目覚める事ができた。
ディアーヌさんとセシリアさんは眠たそうな様子もなく、既に寝間着から着替え終わっているのは流石だ。
「おはようございます、シズト様。レヴィア様の様子が気になるので失礼します」
ぺこりと頭を下げてからそう言うと、セシリアさんは部屋から出て行った。
残されたのは僕に抱き着いて眠っているランチェッタさんと、その様子を優しい眼差しで見ているディアーヌさんだ。
「……見てないで助けてくれない?」
「よろしいのですか? 柔らかな感触を堪能されているのかと思ったのですが」
「朝からそういう事をするつもりはないから。お風呂に入りたいんだけど、思った以上にがっしりとくっついてるから……ほんとに寝てるよね?」
「はい。ぐっすりと眠られてますね。本当はもう少しゆっくりと眠っていてもらいたいんですけどね」
「最近もやっぱり夜遅くまで仕事をしているの?」
「そうですね。いつシズト様が戻られてもいいようにと、いつも以上に頑張っていらっしゃいましたから。魔道具のおかげで効率化したとはいえ、今までしていた仕事量よりも多くこなしていたら意味がないですよね」
ランチェッタさんは昨日、昼食を食べてからは僕たちと一緒に過ごした。
その時間を作るために睡眠時間を削って仕事をしていたらしい。
普段一緒にいる事ができないから、少しでも時間を捻出しているようだ。
有難い事だけど、体をもう少し大切にしてほしい。
なんとかディアーヌさんの手伝いのおかげで抜け出す事ができたけど、朝風呂を終えて食堂に向かった時には着替えを済ませたランチェッタさんが何食わぬ顔で食卓を囲んでいた。
食事を終えると、ランチェッタさんとセシリアさん、それからドライアドたちに見送られながら都市国家イルミンスールへと転移した。
イルミンスールで出迎えてくれたのは、こちらの仕事を任せている勇者タカノリさんと向日葵ちゃんだ。他のドライアドたちは近くにはいるけどまだ寝ている子が殆どのようだった。
「今回は随分と大勢でいらっしゃったんですね。奥方様たちですか?」
「護衛もいるけどね。紹介は後ででいい?」
「大丈夫です」
「ありがと。レヴィさんたちはとりあえずそこにいる向日葵ちゃんに挨拶しておいて」
「分かったのですわ~」
そうしておかないとトラブルになる可能性もあるからね。
今回、ランチェッタさんとディアーヌさん以外は一緒について来たけど、こっちの大陸に来るのは初めての人もいる。
ドライアドたちに覚えてもらわないと大事になりかねないので、護衛も含めて向日葵ちゃんに覚えてもらう事が最優先課題だった。
ただ僕は覚えてもらう必要がないので、世界樹イルミンスールのお世話を手早く終わらせる。
エンシェントツリードラゴンにジッと見られながらするのにももう慣れた。
お世話が終わったらついて来ていたタカノリさんが話し始めた。
「ご報告をしてもよろしいでしょうか?」
「うん、大丈夫だよ。街の方はどう?」
「街に関しては世界樹の番人が見回りをしていたので特に大きな混乱はありません。ウィズダム魔法王国との交易も転移門を通じて始まりましたから少しずつ賑わいを取り戻しつつあります」
「呪いの方は?」
「国内だけを見れば特に何事もないです。他国まで広げると、邪神の信奉者の活動が活発化しているようですが、呪伝の加護による被害は他の大陸と比べると少ないですね。一応、知識神の教会を通じて身体接触を避けるように、という話は広めていますが、それぞれの国の文化もあるのでそれが難しい所もあるかもしれません」
「そっか。まあ、転移門のせいで広がっている状況じゃなければ別にいいか。あ、治療薬を求められたら適正価格で売っていいからね」
「分かりました。知識神の教会と、ウィズダム魔法王国の使節団の方がお求めになられていたのでその様に対応しておきます」
「他の国はどんな感じ?」
「明日以降からウィズダム魔法王国との友好関係にある国々の使節団が順次到着する予定です。また、ウィズダム魔法学院の留学生たちも教師と共に来訪予定です」
「そっか。その対応はちょっとどうするか相談しておくから、僕がいてもいなくても問題ないように段取りしておいてもらえる?」
「かしこまりました」
その他に報告は特になかったけど、向日葵ちゃんへの自己紹介はまだ続いている様だったので、その様子を眺めながらのんびりとタカノリさんと他愛もない話をした。
仕事モードじゃないタカノリさんの話は基本的に奥さんとお子さんの事ばかりだったけど、私生活が充実しているようでよかった。
「そのうち二人目の子どもができるかもしれない」
「じゃあその時は僕の子と友達になってあげてね」
「随分友達がたくさんできそうだ」
「まあ……そうだね」
一人ずつはできてもおかしくない。
そうなると両手で収まらなくなるし、タカノリさんのお子さんは友達が出来なくて困る事はなさそうだ。




