516.事なかれ主義者はよく話しかけられる
「種まきだ~」
「これ植えていいかなぁ」
「いいんじゃない?」
「関係ない物は植えちゃダメですわ」
「水やりだ~」
「気持ちいい!」
「美味しいねぇ」
「水遊びしちゃ駄目なのですわ」
「収穫だ~」
「たくさんあるねぇ」
「レモ~ン!」
「レモンはないのですわ」
「堆肥作るよ~」
「箱にどんどん入れるの~」
「土も入れるの~」
「頑張るのですわ~」
レヴィさんの指揮のもと、黒と白のドライアドたちが入り乱れつつもせっせと作業を効率的に進めていくおかげで僕は【生育】の加護を使う事に専念する事ができた。
世界樹の葉っぱも落ちてくる物だけじゃ足りない可能性もあるのでドライアドたちに選んでもらって取りに行ってもらっている。
あとどのくらいこれを続ければいいのか分からないけど、シグニール大陸の二倍くらいの面積があるクレストラ大陸がもうそろそろ落ち着きそうだから割とすぐかもしれない。
「クレストラ大陸のようにすんなりと行かない気がするのですわ。向こうは一つにまとまってくれていたから楽だったのですけれど、こっちは大陸の東側にある小国家群の関係で一つにまとまる事が出来ていないのですわ」
魔道具『加護無しの指輪』を着けていなかったレヴィさんが僕の心を読んでこっちの大陸の事情を教えてくれた。
「でも、そこら辺には転移門は設置してないし、あんまり広がってないんじゃないかな」
「……それもそうですわね」
転移門のせいで伝播する呪いが広がってしまった、っていう感じだったから根回しをして全力で対応しているけど、転移門を設置していない所は言っちゃ悪いけど僕のせいじゃないと思うし自分たちで何とかしてほしい。
それに、薬師ギルドや各国の有力な商人たちにも転移門があるところだけだから、と言って了承してもらっているし、それ以外の所をしたら恨まれる可能性もあるからな。
「小国家群が転移門を設置する状況になったら手を貸すとは思うけどね」
「侵略戦争をしない、という条件に引っかかってしまうから難しそうですわ」
「だよねぇ」
まあ、転移門の影響がない所について考えても仕方がないし、と気持ちを切り替えて魔力が切れないように残量に気を付けつつ【生育】の加護を使い、希少な薬草を量産するのを再開した。
昼食の時間になるとランチェッタさんがディアーヌさんと共にやってきた。
「ある程度仕事を任せられる者が増えてきたわ」
「シズト様と一緒に過ごす時間が増やせますね」
ニマニマとしながら言ったディアーヌさんをキッと睨んだけど、今のランチェッタさんは丸眼鏡をかけていたので普段よりも迫力はないようだ。
目の下のクマもほとんどない。お化粧で隠しているのかもしれないけど、ディアーヌさんの愚痴というか告げ口がないので健康的な生活になりつつあるようだ。
魔力がもう切れる寸前になっていたので作業を切り上げ、屋敷に戻る。
レヴィさんの後をぞろぞろとドライアドたちがついて来るけど、彼女たちは屋敷には入れてもらえなかった。ひょこっと窓の向こうに色とりどりの花が並んでいるのはドライアドたちが隠れているからだろう。頭隠して花隠さず、的な感じだ。
食堂にはほとんどみんな揃っていた。ノエルもその内来るだろう。
ホムラとユキはそれぞれ魔道具店の状況の確認をしに行っているのでいないため、席を詰めて座る。普段ホムラとユキが座っている席にはランチェッタさんとレヴィさんが座った。
「一気に三人も妊娠するなんて驚いたわ。手紙で読んだけど、『加工』の加護を授かったのはラオのお腹の中にいる子なのよね? ルウとシンシーラは大丈夫なの?」
「極力安静に過ごすようにしているわ。でも、特に今のところこれと言って何かあるわけじゃないのよね。シンシーラちゃんは?」
ランチェッタさんの隣に座っていたルウさんは、お腹を大事そうにさすりながらシンシーラに話を振った。シンシーラもまたお腹を優しく撫でている。
「私もそうじゃん。でも、何かあったら困るから安定期になるまではとりあえず大人しくしておくじゃん」
「そういうものなのね」
「もしかしたら私と同じ加護を授かっている可能性もあるけど、こればっかりは時間が経たないと分からないわ」
「神様は教えてくれないの?」
僕が尋ねると、レヴィさんが「神託はよっぽどの事がない限りはないのですわ」と教えてくれた。
妊娠はよっぽどの事じゃないらしい。
………あれ? でも、割とどうでもいい事でも結構話しかけられることあるような気がする。
異世界転移者だからだろうか?
それとも信者がそれほどいないから?
……まあ、どっちでもいいか。




