513.事なかれ主義者は何となく察していた
当たるも八卦当たらぬも八卦、とは言うけれど、良い結果が出ると嬉しいし、悪い結果が出ると憂鬱になる。
所詮は占いだし、って割り切ろうと思っても神様が身近にいるし、魔法もある世界だ。未来予知的な感じで当たりそうで怖い。
ただ、それでも怖いもの見たさでやってみたくなってしまうから不思議だ。
ラクルの通りをフラフラと見て回ってみたけど、どれがいいか分からなかったのでパメラが選んだところに並んでみた。
街で暮らしている人だけじゃなくて、冒険者風の人たちも占いに並んでいるのはなぜかと思って聞き耳を立てていたら、どの依頼を受けるといいかとか、トラブルの恐れがある日はいつなのかを占ってもらうらしい。
絶対当たる、という訳じゃないけど、この国の冒険者たちのゲン担ぎみたいなものなんだろう。
そんな事を思いつつ並んでいると、僕たちの番が来た。一番最初に占ってもらうのはパメラだ。
今回の占いは水晶占いだ。占っている最中に水晶球がキラキラしていたから選ばれたのだろう。
占い師の指示でパメラは水晶球に触れて魔力を流した。水晶球に変化はない。
だが、占い師のお姉さんが水晶球に両手にかざすと水晶球がいろんな色を放ち始めた。
僕の左隣に立って順番待ちをしていたジューンさんが「加護を使った様ですぅ」と教えてくれた。
「今日の金運は壊滅的じゃな。お金は持たない方がよい」
「分かったデス!」
「元気よく返事をしているけど、少し経ったら忘れてるよね、きっと」
「そうですねぇ、パメラちゃんですから仕方ないですぅ」
「私たちが覚えておけば大丈夫です。とりあえず、占いが終わったら財布は預かる事にしましょう」
「それ以外は良好なようじゃ。とにかく、お金の扱いには気を付ける事じゃな」
「分かったデス!」
ほんの数分の占いではこの程度しか話さないらしい。
もうちょっとしっかり占い結果を知りたいのであれば、占いの神の教会に行くように、と営業を受けていたけど、きっとパメラはそれも忘れるだろう。
次に占ってもらったのはジューンさんだ。
ジューンさんが占ってもらっている間にエミリーはパメラからお財布を預かり、僕はパメラがどこかに行ってしまわないように左手で彼女の手をしっかりと握っておく。
「ふむ……今日の運勢は総じて問題ないようじゃ。可もなく不可もなし、と言った所じゃな。アドバイスは……火のような赤い色が強いじゃろう? 積極的に物事に取り組むとより良い一日になるという事じゃな」
「そうなんですねぇ」
のんびりとしているジューンさんが積極的になるってあんまり想像できないなぁ。
他のお嫁さんたちがいるといつも一歩引いたところにいる感じがするし。今日は普段よりジューンさんの意見を聞くようにしてみようかな。
ジューンさんの次はエミリーだ。緊張しているようで尻尾がボワッと膨らんでいる。
戻ってきたジューンさんはパメラの空いている手を繋ごうとして、固まった。
「どうしたデスか?」
「……いえ、何でもないですよぉ」
そう言いつつジューンさんは回り込んで僕の空いていた手を握った。
ジッと彼女の横顔を見ると、そっと顔を逸らされてしまった。金色の髪から飛び出している細長い耳が赤く染まっている。
彼女なりに積極的になってみよう、という事だろうか? 等と考察していると、エミリーの占いが始まった。
「ふむ……今日の運勢はあまりよくないようじゃな。こういう日はのんびりと過ごす事が大切じゃ。焦りも見受けられるが、他の人に任せるのも大事じゃろう。仕事も恋愛も、な」
「はい……」
尻尾が垂れてしょんぼりとしながら帰ってきたエミリーの頭を優しく撫でるとちょっと回復したようだ。
最後は僕の番になった。パメラはそろそろ飽きて来たのかキョロキョロし始めていたけど、両手をエミリーとジューンさんに封じられているのでどこかに飛んでいく事はないだろう。
「今日の運勢でよかったかのう?」
椅子に座ったところで占い師の女性が話しかけてきた。
喋り方はお年寄りのような印象を受けるけど、布の隙間から垣間見える目元を見ると皺がないので若い女性だと分かる。
「はい。よろしくお願いします」
「では、この水晶球に手を触れて魔力を流してもらえるかのう?」
言われた通りに水晶球に手を触れて、魔力をちょびっと流すと占い師さんに「それでよい」と止められた。
水晶球をジッと見ていると占い師さんが両手を水晶球にかざして占いを始めた。
「女難の相が出ておる」
それは占わなくても知ってる。
「気持ちを強く持つ事が大切じゃ。時には相手を傷つける覚悟を持って断る事も大切じゃぞ。じゃが、結婚運は悪くない。むしろ良い方じゃろう。今日出会った女性と結婚したいのであれば断らないのもいいじゃろうな」
「これ以上はちょっと……」
「であればしっかり断る事じゃな」
「はい、頑張ります」
今日出会った女性って、占い師のお姉さんも入るのかな? なんて事を思ったけど、口は災いの元っていうし、余計な事は言わずに退散した。




