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【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~  作者: みやま たつむ
第24章 異大陸を観光しながら生きていこう

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509.事なかれ主義者は何度も話を止めた

 セシリアさんと一緒に転移門を通って訪れたのは、宝石や鉱石が取れる事で有名な山岳地帯にある国ボルトナムだ。

 一際大きな山の山頂に大きなお城が建っていて、斜面には城下町が広がっている。

 大きな山の周辺には小さな山がいくつもあるが、そこは鉱山として使われているらしい。

 転移門が設置されたのはお城に近い上の方だったみたいで、見晴らしがいい広場だった。

 転移門を利用しようと思っていた人たちの視線が僕に集まる。

 視線が集中するのはやっぱり慣れないな、なんて思いながら隣にいるセシリアさんを見ると、彼女は微かに笑みを浮かべて姿勢良く立っていた。僕の視線を受けると「どちらへ向かいますか?」と尋ねてくる。

 どうやら僕が動き出すのを待ってくれていたようだ。

 既にジュリウス以外の仮面をつけたエルフたちは散り散りになっていて姿は見えない。


「とりあえず、場所を移動しようか」

「かしこまりました」

「それでは、私も離れます。何かご用命であればお気軽にお呼びください」


 ジュリウスはそう言うとその場から消えるかのような速さでどこかへ行ってしまった。

 いつまでも転移門の前で立っていても、順番待ちをしている人たちの邪魔になってしまうからと、広間の隅っこの方に移動すると、ゆっくりと待機列が動き始める。

 なにかしらの原石をたくさん積んだ荷車もあれば、何かを入れた箱を積んだ馬車もあった。


「あの箱の中も石でいっぱいなのかな」

「おそらく加工品などでしょうね。加工して売ったほうが高く売れますから」

「なるほどねぇ。………じゃあなんで原石も売ってるの? 全部加工しちゃえばいいじゃん」

「加工師の数に限りがあるからじゃないでしょうか。街に必要な作物を一人で育てる事ができるシズト様もそういう事をせずにドライアドや町の子たちに任せていらっしゃいますよね?」

「まあ、それはね。やりすぎると需要と供給のバランスが大変な事になっていろんな人に迷惑がかかるし、何より他の事ができなくなるのは嫌だからね」

「つまりそういう事です。まあ、もちろん良い原石は輸出しないでしょうけど」


 どうやら原石にも等級のようなものがつけられているらしい。

 露天商の中にはそういう掘り出し物が混ざっている事もあるらしい。それを探すのもこの国の楽しみ方らしいので行ってみる事にした。

 ただ、見分ける事ができる自信はない。セシリアさんに任せるか、鑑定眼鏡に頼るか悩む。

 とりあえず近場のマーケットに行ってみよう、とセシリアさんと手を繋いで歩いた。


「………」

「………」


 沈黙が辛い!

 いつもなら賑やかなレヴィさんがいるから話題が尽きる事はなかったんだけど、どうしたものか……。

 チラッと横目で見たセシリアさんはやはり微笑を浮かべていた。

 横顔はとても綺麗で、薄い青色の切れ長な目はまっすぐに前を見据えている。瞳と同じ色の髪は、動きやすさを重視して短く切り揃えているらしい。

 道をすれ違う男の人の視線が彼女に自然と向かうのは、メイド服を着ているからだけじゃないだろう。

 普段はレヴィさんの専属侍女として目立たないようにしているから注目を浴びる事は少ないけど、彼女もまた高位貴族出身のため当然のように端正な顔立ちをしていた。


「? どうかされましたか?」


 僕がジッと見過ぎたからか、不思議そうにセシリアさんが尋ねてきた。


「いや、何でもない……」

「そうですか? てっきりレヴィア様がいらっしゃらなくて何を話して良いか分からず、気まずい思いをしていたのかと思ったのですが」

「いや、まあ、そうだけどさ……。セシリアさんは気まずくないの?」

「特には。静かなのは好きですから。ですが、普段お仕えしているのがあのお方ですので……」

「あー……まあ、レヴィさんはいつも元気でいろいろ喋るもんね」

「はい。最近はそうですね」

「前は違ったの?」

「ええ。それもシズト様のおかげですね」


 クスッと笑って、流し目を送ってきたセシリアさんは「喜んでいいのか時々分からなくなってしまいますが……」と小さな声で呟いた。

 何と答えていいか分からず苦笑していると、セシリアさんは再び口元を微かに綻ばせた。


「沈黙が耐えられない、という事であればシズト様とお会いになる前のレヴィア様のお話でもしましょうか?」

「んー……本人からはあんまり楽しい話は聞いた事がないからなぁ」

「加護のせいで苦労されましたからね。でも、そういう事が分かる前は愛らしくて、幼いのによく気が付く方だと評判だったんですよ。まあ、それも侍女の心を読んで何を求められているか分かっていたからでしょうけど」

「加護を持っているって周りが知ったのはいつ頃なの?」

「そうですね。記憶が確かであれば、会話が流暢になる頃だったと思います。五歳だったか、六歳だったか。心の奥底にしまっておきたい思いまで悪意なく話してしまって、いろいろ大変でした。……どうしても苦労話に繋がってしまいますね。面白い話であれば、おねしょとかでしょうか?」

「それは心の奥底にしまっておいてあげて」


 セシリアさんは悪戯っぽい笑みを浮かべて「承知しました」と答えると、他に面白い話を思い出そうと頑張ってくれた。

 商業ギルドが管理している市場に辿り着くまで何度か聞いてはいけない黒歴史が暴かれそうになったけど、何とかレヴィさんの尊厳は守られたのだった。

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