幕間の物語248.お嫁さんたちは続ける事にした
クレストラ大陸にある元都市国家フソーの中心に聳え立つ世界樹フソー。
その周りをぐるりと囲むように木々が広がっているが、根元周辺はぽっかりと円形上に切り開かれたかのような場所があった。
その場所には、真新しい建物と祠、それから畑があるのだが、それ以外のほとんどの場所は様々な植物が生い茂っていた。
唯一の例外としてある空き地には『建設予定地』と書かれた立て看板が地面に突き刺してあり、草木が生えていなかった。
昼間は畑やそこら辺に生えている草花の手入れで賑やかな世界樹フソーの根元だが、月が真上に来る頃には人影もなく静かだ。
ドライアドたちはどこかに姿を消し、活動をしていた人族の女性たちは建物の中に帰っていた。
女性たちが帰って行った建物は、もう真夜中というのにも拘らず、窓から明かりがさしていた。
その明かりは蠟燭のような弱々しい光ではなく、室内を昼間のように明るく照らしている。
照らされた室内の中には、数名の女性が円卓を囲んで座っている。
お腹を大事そうに撫でている金色の髪の女性はレヴィア・フォン・ドラゴニアだ。シグニール大陸にあるドラゴニア王国の第一王女であり、異世界転移者であるシズトの正妻でもある女性だ。
夜遅くという事で露出が少なく、お腹周りに負担をかけないようなワンピース型の寝間着を着ているのだが、露出は少なくとも大きな胸の膨らみは隠す事は出来ないようだ。
彼女の近くに控えているのは専属侍女のセシリアだ。
まだメイド服を着ている彼女は手元の資料を見ながら先程からある事を報告していた。
「以上がホムラ様とユキ様にご協力して頂いて手に入れた着衣の正式な使用用途です」
「学校での正装がシズトの好みなのですわ?」
レヴィアの問いかけに応えたのは、いつもの魔法使い然とした格好ではなく、寝間着姿のホムラだった。真っ黒で長い髪に紫色の瞳が特徴的な少女だ。
彼女は無表情のままゆっくりと頷いた。
「はい。セーラー服はとても人気の高い物です。そのため、過去の勇者が伝えたのでしょう」
「私が着てシズト様が喜ぶのでしょうか……?」
不安そうに呟いたのは、祖先の血を色濃く受け継いだ黒髪黒目の少女モニカだ。
今はメイド服ではなく、レヴィアと同じようなワンピース型の寝間着を着ている。
「心配いらないわ。ご主人様はどちらかというとセーラー服派だったみたいだから」
「ブレザーもありましたが、過去の勇者様たちもセーラー服派が多かったようなので間違いないでしょう」
「いや、服の問題ではなくて……」
不思議そうに首を傾げるホムラとユキを見て、モニカはそれ以上問いかける事を止めた。
「……まあ、着る事になるのは当分先でしょうし、その時に考える事にします」
「それでいいと思うのですわ~。私も、出産後までは控えるのですわ~」
「私も控えた方が良いのかしら?」
悩ましそうな表情で首を傾げたのはルウという大柄な女性だった。
もう一人いる大柄な女性であるラオの妹で、顔立ちはどことなく似ているが髪の毛の長さが違うので見間違える事はない。
ルウは「ラオちゃん、どう思う?」と隣に座っているラオに話しかけるが彼女はただ一言「知らん」としか返さなかった。
「シズト様を興奮させる可能性があるそうですし、妊娠中は控えた方がよろしいかと。コスプレ衣装を貸し出していた店員に話を聞いた際、衣装を着てもらった異性と一緒に街を歩くのを楽しむ勇者もいたそうですが、夜にその衣装を着てもらって楽しむ者もいたそうです」
セシリアが聞いた内容をまとめた紙をめくって確認しながら答えると、ルウは残念そうに肩を落として「しっかり楽しむのなら出産した後の方がよさそうね」と呟いた。
「やっと子どもができたのは嬉しいじゃん。でも、タイミングが悪かったじゃん」
同じくしょんぼりと尻尾を垂れさせていた狼人族の女性シンシーラが呟くと、ルウは深く頷いた。
ほとんど毎日一人以上と夜を共にしていたのに三カ月以上誰も子どもを授からなかったので、三人も一気に懐妊したと知った時はとても喜んでいたのだが、贅沢な悩みだとラオは呆れた様子で二人を見ていた。
「ただ衣装を着てそれを見せるだけでいいならすればいいだろ。そんな事より、今後の事はどうすんだ? 当初の目標だった次世代に三柱の加護を授けてもらうっていう事は達成したんだろ?」
「無事に産まれれば、ですわね」
「そのためには護衛を増やす必要があるわけだが、それはジュリウスに任せればいいよな」
「そうですわね。変な所から受け入れるよりはエルフたちに任せた方が安心ですわ。シズトに絶対の忠誠を誓っているエルフたちであれば、例え加護がなくてもしっかりと護衛をしてくれると思うのですわ」
「だろうな」
熱狂的ともいえるほどシズトのために働こうとしているエルフの面々を思い浮かべ、ラオは苦笑いを浮かべた。
「まだ人員に余裕はあるだろうけど、このまま子どもを作る事は続けるのか?」
「そうですわね。一番心配だったノエルも何だかんだ言いつつ、今日もする事はしているはずですし、みんなシズトとの子どもが欲しいという思いは一緒だと思うのですわ。それに制限をかけるつもりはないのですわ。最悪、護衛に関してはお父様を頼ってもいいと思うのですわ」
「産婆や治癒術師、聖女もしっかりと確保しておいてもらった方が良いですね。シンシーラやルウの子どもは加護がない可能性もありますから。まあ、過去の勇者の記録を見ると、勇者が授かっていない加護を子どもが授かる事もよくあったそうなので、必ずしも加護を授かっていないとは言い切れませんが……」
セシリアがそう言うと、ルウも頷いて「それに、私が授かっている加護を授かるかもしれないわね」と言葉を続けた。
加護を授かっていないシンシーラは少し不安そうにまだ膨らんでいないお腹を撫でていたが、子どもが加護を授かるかは神の意思によるところが大きいのでどうしようもない。
一先ず、夜の営みはこのまま続ける事で話がまとまるのだった。




