幕間の物語247.ちびっこ神様ズはアドバイスされた
神々の住まう世界の片隅に、シズトに加護を与えた三柱の拠点がある。
彼らの拠点の周囲は、魔道具によって雪が降り積もり、一面を銀世界に変えられていた。
普段は大小様々な神々が訪れて、大きな雪だるまを見上げ、自分でも作ってみようと雪玉を転がしたり、雪合戦をしたり、かまくらの中で遊んでいる下級神たちを見守ったりしている。
だが、今いるのはそのほとんどが体の大きな神々だった。彼らは下級神だけでなく、下級神とも呼べない小さな光の球のような存在すらいない事を不思議に思いつつも、いつも通りかまくらの中でのんびりと過ごしたり、雪だるまや雪像を眺めたりしていた。
下級神や神とも呼べない小さな者たちがどこにいたかというと、三柱の拠点である大きな家の中だった。
三柱の領域に入るためには三柱の許可がいるのだが、建物が大きくなった事もあり、気前よく中に入ってもいいと許可を出していた。
下位の神々を招き入れた彼女たちは神の位が一つあがり、中級神に分類され、招かれた者たちは彼女たちと親と子のような関係になっていた。
実際にプロス、ファマ、エントが下級神たちを生み出したわけではないが、彼らに神の仕事を見せたり、面倒を見たりするのが親の仕事だった。三柱にもそれぞれ親はいるが、子ができたから一人前と認められて最近は顔を出していない。
「ま、また下界の様子を見てるんだなぁ」
「ファマくんだって、同じ事してたでしょ……?」
プロスが水晶玉を通して下界の様子を覗いている。
その周囲にはふよふよと浮かんでいる光の球のようなものや、幼児くらいのサイズの者たちが集まっていて、一緒に水晶玉を覗き込んでいた。
そんな様子をファマとエントが少し離れた所から見ていた。
「もしもの事がないか見張ってるの!」
「ま、まあ、気持ちは分かるんだなぁ。た、ただ何かがあってもオイラたちにできる事はシズトに知らせるくらいなんだなぁ」
「お腹の中の子に伝えても、何もできないもんね……?」
ファマたちが新しく加護を授けた者は、順調に母体の中で成長中だ。
だが、母体の中から外に伝えるための方法をまだ身に着けていないし、身に着けていたとしても「なんか動いているな」程度しか母体に伝わらないので意味がない。
であれば、もう一人の加護を授けた者に神託として状況を伝えた方が確実だ。
その場にいなかったとしても、何かしら対応はしてくれるだろう、とファマたちは考えていた。
幸いな事に、ファマとエントが加護を授けた子の母親たちはよく一緒に行動するようになっていた。
神力を消費するのが抑えられるから助かるね、等と話しつつお互いが分担して様子を見守っていたのだが、今はプロスが水晶玉を独占していた。
「新しい水晶玉を買った方が良いかな……?」
プロスが使っている水晶玉は、彼らの親に当たる物から貸し出された物だったが、中級神になった事でお祝いとしてプレゼントされていた。
だが、三柱がそれぞれ違うものを見たい、となった時に一つだけじゃ足りない。
今までは仲良く順番に使いまわしていたので問題にはならなかったが、今後の事を考えると増やした方が良いだろう。
「で、でも、高いんだなぁ」
「貢物を売りに行くのもありかも……?」
「め、珍しい物は特にないんだなぁ」
「シズトくんにお願いしてみる……?」
「い、今はなんか大変そうなんだなぁ」
「堕ちちゃった子が悪さしてるみたいだもんね……?」
「は、早く見つかるといいんだなぁ」
「そうじゃな。ずっと逃げ隠れしている様じゃから見つけられんからのう。だいぶ力が溜まっているから、もうそろそろ尻尾くらいは出すと思うんじゃがのう。用心深い奴じゃ」
「さ、最高神様!?」
「こんにちは……?」
話し込んでいた二人のすぐ近くに現れたのは最高神と呼ばれる最高位の神だった。
全ての神の親である最高神は創造神とも呼ばれる存在で、神域であればどこにでも行ける神だった。
悪い事をしていないのに慌てるファマを愉快そうに見る創造神だったが、エントの挨拶にはしっかりと挨拶で返した。
「元気にやっておるようで何よりじゃ。プロスも無事に次代の者に加護を授けたようじゃの」
プロスは水晶玉に映されているラオという赤髪の女性の様子がとても気になる様子で、最高神が現われた事にも気づいていない様子だった。
そんな様子を温かく見守っていた最高神だったが、ふと思い出したように口を開いた。
「次に加護を授ける相手は決まっておるのかのう?」
「ま、まだ決まってないんだなぁ。し、シズトに関係のない相手を選ぼうと思っているけど、選ぶ基準が難しいんだなぁ」
「あんまり関係ない相手に与えても広めてくれるか分かんないもんね……?」
「の、農作業にも使えるってシズトが言ってたからそういう人に授けるのもありな気がするんだなぁ」
「エントはどうじゃ?」
「私は、シズトくんの子どもか、シズトくんに近い人にしようと思ってるよ……? 魔道具作りで大変そうだだからね……?」
「一つに固めるのは危険を伴うが、確かにありかもしれんのう。プロスはどうなんじゃ?」
「ドワーフにしようかなって言ってたよ……?」
「なるほどのう。それぞれある程度決まっているようじゃな。であれば、出向いた甲斐があったというものじゃ」
最高神は白い髭を弄りながら頷くと言葉を続けた。
「お主たちに先達としてアドバイスじゃ。もしも加護を授ける事ができるくらい神力が溜まったとしてもすぐに使わないようにな」
「ど、どうしてなんだな? す、すぐに加護を授けた方が広まると思うんだな!」
「もちろん、そうじゃな。ただ、何かのアクシデントで加護を与えた者たちが全員亡くなってしまい、信仰も薄れてしまったら大変じゃぞ?」
「確かにそうかも……?」
「同じような失敗をするものを見て来たからのう。先に伝えておこうと思ってきたんじゃ。そんな事が起きない事が一番良いが、一カ所に加護を授けた者が集まっていると起こりやすいから、エントは特に気を付けるんじゃぞ」
「うん、わかったよ……?」
素直に頷いたエントの頭を優しく撫で、最高神は三柱の家から出て行った。
結局、最高神が来た事に気付く様子もなく、プロスと小さな者たちは水晶玉に映り込む者たちをじっと見つめているのだった。




