501.事なかれ主義者は心配だけどサポートする事にした
シンシーラの妊娠が発覚したのは、ダンジョンの探索をしている時だったらしい。
いつもラオさんたちが鍛錬する時に使っている『離れ小島のダンジョン』などの僕が保有しているダンジョンには、いつでも帰れるようにダンジョン内に『転移陣』を設置している。
だけど、フソーの近くにあったダンジョンは冒険者ギルドが管理しているダンジョンだったので、転移陣を設置していなかった。
途中で引き返すよりも踏破してしまった方が早い、と判断したラオさんたちはシンシーラを護衛しつつダンジョンを一気に踏破した後、パメラに手紙を託して先に帰らせたそうだ。
ラオさんたちは万が一の事を考えてシンシーラを護衛しながらゆっくりとこっちに戻ってきた。
「シンシーラ、体調は大丈夫なの?」
「大丈夫じゃん。体調が悪くなるのは早くても数週間くらい先じゃん。皆大げさじゃん」
「大げさデスか?」
「大げさじゃないと思うわ」
パメラに問われたルウさんが首を横に振った。
「レヴィちゃんとモニカちゃんのお腹の中の子は加護を授かっているから、普段通り生活していても支障はないけど、シンシーラのお腹の中の子は加護を授かっていない可能性が高いわ。エント様の教会で式を挙げたでしょ? モニカちゃんのお腹の中の子に加護を授けたばかりだから、しばらくはエント様は加護を授けられないってシズトくんが言ってたじゃない」
「………なるほどデス!」
たぶん分かってないな。
皆も同意見だったようだけど、パメラは皆の視線を気にした様子もなく「おやつ食べるデス!」と言って飛び去ってしまった。
「まあ、アレだな。何が起こるか分からねぇし、規則正しい生活をさせる必要もあるだろうからシンシーラは出産まで夜警はなしだな」
「まあ、仕方ないじゃん」
「一緒に畑のお世話をするのですわ? 適度な運動は大事なのですわ!」
「何もしないのは落ち着かないからそうするじゃん?」
「それじゃあドライアドたちに紹介するのですわ! ムサシの所にいくのですわ~」
レヴィさんとモニカさんに連れられて、シンシーラが農作業をしているムサシの所へと向かっていく。
残ったのは僕とドーラさん、ラオさん、それからルウさんだった。
「三人共ありがとね」
「ん」
「別に礼を言われるような事はしてねぇよ」
「当然の事をしただけだけど、お礼を言われるのは嬉しいわ! ね、ラオちゃん、ドーラちゃん」
「ん」
「うっせぇな。……んな事より、夜警はどうすんだ? ファマリーだったら、昼も夜も、警備っつってもほとんど勝手に入ってきた者たちの救出業務ばっかりなんだろ?」
「まあね」
世界樹の周りはドライアドやら世界樹に居ついている魔物やらがいるから侵入者が入ってきてもだいたい彼女たちが何とかしちゃうらしい。
アンジェラの両親であるアンディーやシルヴェラさんに昼の警備をしてもらっているけど、彼らがするのは救出作業と巡回兵への引き渡し業務ばかりだった。
昼はどちらかというとルールを無視してつながりを作ろうと侵入してくる商人が多い。中にはルールを知らずに入ってきてしまう人もいるからそういう人は注意だけして巡回兵に引き渡す事はないんだとか。
夜はもっと侵入してくる人は減るらしいけど、時々侵入者が転移魔法を使って入ってくるらしい。
まあ、それも夜警をしている人が気づいた時にはドライアドやらエルフやらに捕まってるらしいけど。
「これを機に、夜警に関してはエルフたちに一任してもいいかもな。パメラはやる事がなくなっても特に気にしないだろ。ただ、遊び惚けるだけになるだろうから、ダンジョンに魔石やら素材やらを集めに行かせるか」
「一人で行かせるのは心配だから、私たちも行きましょ。シズトくんの身辺警護に関してはジュリウスに任せれば十分だろうから、私たちが冒険者家業を再開しても問題ないと思うし。そうよね、ジュリウス」
ルウさんが問いかけるとどこからともなく現れたジュリウスが「そうですね」と返事をした。
「必要とあらば各地の世界樹の番人たちから選りすぐりを集めて身辺警護をさせますので、問題ありません」
「じゃあ決まりだな。また冒険者として活動する時は数日前位に伝える感じでいいか?」
「当日でも問題ありません」
とんとん拍子で話が決まっていく。
どうやらラオさんたちは本格的に冒険者として上を目指していくらしい。
珍しい素材や高ランクの魔石を手に入れるためなんだとか。
高ランクの魔石が定期的に手に入るのは有難いけど、それだけ危険な所に行くって事だよな。
帰還の指輪があるからダンジョン以外の場所だったらだいたいなんとかなるだろうけど……冒険に役立ちそうな魔道具を作っておこう。
ラオさんたち用の魔道具を作るのが先かな?
ああ、でも魔力はお出かけする前にほとんど使いきっちゃったから今日は無理だな。
明日から呪い用の薬を作る前にちょっとずつ魔道具を作って行こう。




