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【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~  作者: みやま たつむ
第23章 呪いの対策をしながら生きていこう

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幕間の物語241.侍大将はお金の使い道に悩んだ

 クレストラ大陸に唯一ある世界樹フソーの周りを囲むように作られたエルフたちの国フソー。

 かつては世界樹の恩恵を受けて栄え、街行くエルフたちは着飾っていた。

 手先の器用なエルフたちが世界樹の枝などで作ったアクセサリーや、他国の者たちから買い集めた金銀財宝を身に着けている者も多かったのだが、現在フソーにいるエルフたちが身に着けているのは武骨な首輪だけだった。

 奴隷の証であるその首輪を着けたエルフたちは今日も黙々と与えられた作業をこなしていた。

 過去の栄光を懐かしむより、まずは借金を返済するために手を動かすしかない。

 長命種である彼らにとって借金とは時間をかければ必ず返す事ができるものだった。


「よく働いているでござるな」


 そんなエルフたちを見て回っていたのは大きな男だった。

 黒い髪に黒い瞳のため、一見すると勇者やその子孫だと思われがちだが、彼はそのどちらでもない。

 異世界から転移してきたシズトという少年が加護を用いて作ったホムンクルス――それが、彼の正体だった。名をムサシという。

 ムサシは街を徒歩で移動しながらエルフたちの働きぶりを見ていたのだが、目的地にたどり着くと気持ちを切り替えた。

 真新しいその大きな建物の扉をくぐって中に入ったムサシを出迎えたのは、やはり首輪を嵌めているエルフだった。

 奴隷にしては身なりが良すぎるそのエルフは、街のエルフたちと比べると表情も明るく、動きもキビキビとしていた。


「皆さまお揃いです。会議資料は既に机の上にあります」

「分かったでござる」


 案内のエルフに開けられた扉をくぐると、部屋の中央に円卓があり、それを囲んでいる椅子に性別も種族も異なる者たちが座っていた。

 彼らはムサシが入ってくる頃には既に席を立っていて、ムサシが自分のために空けられていた席に座ったところで全員着席した。

 

「レスティナ殿、報告をお願いするでござるよ」


 指名されたのはムサシのすぐ近くに座っていた赤っぽい茶色の髪を腰まで伸ばした女性だった。

 彼女の名はレスティナ・マグナ。ラグナクアの女公爵であり、クレストラ国際連合の副議長を任されている女性だ。多忙なムサシが会議を欠席している間は、基本的に彼女がこの議会で話し合った内容をまとめてムサシに報告していた。

 レスティナは手元の資料を見ながら話し始めた。


「本日、ムサシ様にご同席して頂いたのは、我々だけでは決められない事があったためです。シズト様のご協力もあり、『呪伝』の加護の被害者に対して上級ポーションとエリクサーの使用が決定し、材料も集まりつつあります。ただ、それを作る者たちから不満の声が上がっております」

「不満の声でござるか? 急ぎの仕事でござるし、相場の倍は提示したはずでござるが……」

「どうやら薬師ギルドの想定を超えたペースだったようです。世界樹の葉だけでなく、集め辛い素材の数々を毎日送られてくるとは思っていなかったようですね」

「それも事前に伝えておいたはずでござるがなぁ。主殿は【生育】の加護を授かっているから貴重な薬草も問題なく入手できる、と。それで、薬師ギルドの者たちはどのくらい求めているのでござるか?」

「示し合わせているのか、倍の金額をそれぞれの国の薬師ギルドが希望しています」

「そうでござるか。まあ、いいでござるよ」


 ムサシは特に考える素振りも見せずに即答した。

 その様子に、会議に参加していた者たちが多かれ少なかれ驚いた様子を見せた。

 相場の四倍の額をそれぞれのギルドに支払うという事は、それだけ莫大なお金がかかるのだが、ムサシは気にした様子もない。


「良いのですか? 今でさえ相当な額を支払っているはずですが……」

「主殿から『溜まりすぎるとよくないらしいから使える時に使っといて』と命じられているでござるから問題ないでござるよ。定期的な収入は各国から入るでござるし、魔道具や世界樹、珍しい植物などの売り上げもあるでござる。それに、最近はドラゴンフルーツも時々手に入るでござるし、放っておいてもたまる一方でござるからな」

「そ、そうですか。ムサシ殿が問題ないと仰るのであれば、そのまま進めさせていただきますわ。では、次の議題ですが――」


 レスティナが手元の資料を見ながら次の話に移ろうとした時、それまで笑っていたムサシが真顔に戻った。


「ただ、この騒動が終わった後の付き合い方は考えなければいけないでござるな。こっちの弱みを握ったつもりになって足元を見ているようでござるから、薬師育成に力を入れるでござる。ああ、でもそうなったら溜まり続けるお金をどう使うか問題になるかもしれないでござるか? 何かいい案があったら教えて欲しいでござる」

「…………かしこまりました。とりあえず、次回の会議の時にまた話し合っておく、という形でよろしいでしょうか?」

「構わんでござるよ。決まったらまた呼んで欲しいでござる」


 ムサシは再び口元を綻ばせて笑みを浮かべていて、会議中、その笑みは崩れる事はなかった。

 会議が終わり、各国に戻った外交官たちはムサシの言葉をそのまま薬師ギルドに伝えた結果、希望は取り下げられたらしい。

 支払いの準備をしていたムサシは「余計な事を言ったでござるかなぁ」と首を傾げたのを、近くにいたドライアドたちが真似していた。

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