490.事なかれ主義者は隅々まで見て覚えようとした
イルミンスールからファマリーに戻ってきた翌朝、朝風呂を堪能してから朝食の席に着いた。
ランチェッタさんは国際的な組織の立ち上げのためいない。ディアーヌさんもまた、ランチェッタさんの付き人として今はガレオールにいるはずだ。
「早くまとまるといいね」
「エンジェリアやアクスファース、アトランティアに主導権は譲らず、正式に議長国になる事ができたようですわ~」
「ドラゴニアとニホン連合、それからドタウィッチ王国がガレオールを支持したからですね」
レヴィさんの空になってしまったカップの中にお茶を注ぎながらセシリアさんがレヴィさんの話に補足した。
経済の中心となりつつあるガレオールが議長国となるだろうと思っていたけど、どうやらアトランティアだけじゃなくて、アクスファースやエンジェリア帝国も「自国が主導する!」と主張していたようだ。
エンジェリアはやっと交渉の席に着いたらしいけど、自分たちの都合がよくなるように誘導しようとして話がなかなか進まないんだとか。
今回の議長国をどこの国にするかに関しても、そうなったら好き勝手しようとしていたのだろう、というのはレヴィさんの見解だ。
「シズトの嫁であるランチェッタに対して優位に立とうとしたのもあるのかもしれないのですわ」
「アトランティアと同じですね」
「その二つはまあ分かるけど、アクスファースが議長国になりたがるってのはびっくりだね。話し合いとかまとめられなさそうだけど」
「アクスファースは獣人たちの国だから、特に力を重視するのよね。軍事力はそこまで突出していないガレオールが議長国になるのを許せなかったんじゃないかしら?」
話に加わってきたのは魔力マシマシ飴を舐めながら僕の食事が終わるのを待っていたルウさんだ。
タンクトップにホットパンツというラフな格好だ。肌の露出が多くてちょっと目のやり場に困る。
正面に座って同じく魔力マシマシ飴を舐めているラオさんとお揃いの服を着ている所を見ると、やっぱり仲がいいんだな、とも思った。
「なるほどねぇ。トラブルが起きないといいんだけどね。クレストラ国際連合の方は特に問題ないんだよね?」
壁際に控えていたジュリウスに尋ねると、彼は静かに頷いた。
向こうはムサシに任せているけど、議長がムサシだし、各国と程々の関係を築く事ができているから大丈夫だろう。大国ヤマトが唯一の懸念点だったけど、和平もしたし問題ないだろう。呪いが落ち着いたらそれぞれの国に観光しに行きたいな。
「呪いはどういう感じ?」
「マネキンゴーレムのおかげで、療養所の中で重症化する者は出ておりません、マスター」
牛乳を飲んで白い髭を作ったホムラが言い終わったところで、近くに置いてあったハンカチで彼女の口周りを拭ってあげた。ついでに同じく白い髭を作ったユキの口周りも拭って置く。ユキは褐色肌だから分かりやすい。
「廉価版のおかげで、各国に一定数のマネキンゴーレムを配置する事も出来ているわ、ご主人様」
「ただ、あくまで看護者が『身代わりのお守り』を持つ必要がなくなっただけで問題解決はできていないのですわ。今もなお、呪いは伝播しているようで、自覚症状がある人が毎日療養所に集められているのですわ」
「放っておくとさらに広がってしまいますからね。ただ、いい加減何とかしないと街の機能が停止しかねないですね」
セシリアさんの言う通り、療養する人が増えれば増えるほど働き手は減ってしまう。
しかも、人と接する事の多い人から呪いが発症しているようだ。巡回兵やお店などから人手不足だという話はムサシから報告があった。
そう言った事もあって、緊急事態という事でクレストラ大陸では根回しも順調に進んでいるらしい。
昨日収穫した薬の材料は全てアイテムバッグを通してムサシの下に届けられていて、今は薬師ギルドの者たちを総動員して作っているはずだ。
「シグニール大陸でも、友好的な国から順番に根回ししていって治療始めちゃってもいいかもね。こっちの大陸の通貨は他の大陸よりもたくさんあるし、お金の力で推し進めてもいいけど」
「今後の事を考えると難しい所ですわね。外に出ていいのなら私が交渉をしてもいいのですわ!」
「いや、ダメでしょ。何があるか分かんないし。ホムラ、ユキ、お願いしてもいい?」
「かしこまりました、マスター」
「任せて頂戴、ご主人様」
ホムラに任せるのはちょっと心配だけど、護衛兼ストッパーとしてそれぞれにラオさんについて行ってもらう事にした。ユキはまあ大丈夫だろう、とは思うけど念のためにルウさんに同行してもらおう。
一通りの話がまとまったところで解散し、それぞれするべき事をしに行く。
僕は転移陣でユグドラシルの根元に移動すると、サクッと世界樹のお世話を終わらせた。
「お祈りもこっちでしておくか」
日課にしているお祈りはどこの祠でもいいんだけど、こっちの祠の手入れがてらこっちで済ませてしまおう。
そう思ったけどお供え物が供えられた祠はしっかりと掃除されていた。きっとエルフたちがしてくれたんだろうな、と思いつつ祈りだけでもしておこうと手を合わせて目を瞑った。
すると、目の前から女の子の声がした。
「待ってたよ!」
「お久しぶりです、プロス様。エント様とファマ様もいらっしゃるんですね」
目を開くと目の前には僕に加護を授けてくださった神々が立っていた。
また成長しているようだし、像の作り直しの件だろうか? それとも、神降ろしの件だろうか?
「ど、どっちも違うんだな」
「でも像は作り直して!」
「あ、はい」
じゃあしっかりと観察して覚えておかないとなぁ。
気が付いたら二年経ってました。
三年目も頑張って更新していきます。




